強姦(ごうかん、: rape レイプ)とは、相手の意志に反し、暴力脅迫、相手の心神喪失などに乗じ強要で人に対し性行為を行うこと[1]

性的暴行
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分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
救急医学
ICD-9-CM E960.1
MedlinePlus 001955
eMedicine article/806120
MeSH D011902

「強かん」[注 1]、「性的暴行」とも。単に暴行とされる場合もある。

目次

概説編集

強姦とは、相手の意志に反して強要し性行為を行うことである。手段として、暴力、脅迫、相手の心神喪失を利用するなどが行われる[1]

強姦された場合の対処

被害直後には、身体の安全の確保を優先する。被害後、72時間以内に産婦人科を受診し、性病妊娠の検査をする。検査費用は警察へ被害を届け出た場合は、公費負担がある。産婦人科では妊娠の防止のための緊急避妊が行われ得る場合がある。また、この際に同意があれば強姦を証明するに必要な加害者の体毛体液などの証拠収集が行われる。多くの地域で、性被害者を支援する機関があり、こうした機関からの紹介や、警察の紹介で産婦人科を選択する[2]

その後のカウンセリングなど精神的サポートも極めて重要である。被害者は、強姦時の強い恐怖から、被害後に、精神不安定や不眠PTSDなどの精神反応が多くみられ人間不信に陥ることも多いためである。サポートを1か所で提供しているワンストップ支援センターが全国にある[2]

周囲のものは、被害者にも責任の一端があったかのような言動は避ける。性被害にあった被害者に対し、周囲がさらに傷つける言動を行うことは、二次被害、セカンドレイプと呼ばれる。また、本人がすぐに病院や相談機関へ行きたがらない場合は、無理やり連れていくことは避ける[2]

統計編集

日本

日本における平成21年(2009年)の強姦事件の認知件数は1,402件である[3]。この認知件数は、昭和39年(1964年)に6,857件と戦後最多を記録した後、長期減少傾向を経て横ばい傾向にあった[4]。近年では、平成9年(1997年)から15年(2003年)にかけて増加傾向にあったが、16年(2004年)から再び減少傾向に転じている[3]。日本の人口10万人あたりの強姦の発生件数は1.2。アメリカ合衆国は37.0なので日本の約30倍[5]である。ただし強姦罪の定義は国によって大きく異なる点もあるため、一概に件数を比較できるわけでは無い。

表記編集

メディアでは婉曲のため、「乱暴」などとぼかした言い方がよくなされ、被害者が児童・小児の場合は「いたずら」とも言われる。「暴行」の語も使用されるが、この語は性的側面を伴わない暴力行為に使われることも多いので注意を要する。
以前は「姦」の字が性的な性格を持つ字体であることから報道での使用が憚られ「強かん」などの表記が多かったが、現在は本来の表記である「強姦」と表記することが多くなってきている。
週刊誌小説などでは凌辱陵辱)や英語のレイプrape)という表現が用いられることもある。
「強姦」という語が本来もつ意味は「双方の合意なしに行われる姦通」であるが、現在は広く相手の合意なしに行われる性行為一般を指す場合がほとんどである(かつては夫婦間における一方的な行為は強姦や強制猥褻の対象外だったが、現在は夫婦間であっても強姦罪強制わいせつ罪は成立する)。
メディアにおいても、表現方法の一つとして、犯罪の重大性を強調する意味で「姦」などの当て字を使用する例も一部でみられるが、必ずしも一般的ではない。
官能小説成人向け漫画アダルトゲームアダルトビデオなどにおいては、作品の性格や作者の方針などに応じて様々な当て字が使用されている。

人類の歴史における強姦編集

 
『ブルガリアの致命女達』 - オスマン帝国の兵士による、ブルガリア人女性に対する強姦を描いた絵画(1877年作)。背景に描かれたイコノスタス・床に転がった振り香炉・破壊された燭台から、ここがブルガリア正教会聖堂の中であり、聖堂に逃げていた女性がレイプされるシーンであることが分かる。敵国に攻め込まれた市民が最後に聖堂に立て篭もることは大陸ではよく行われたが、侵略軍が規律の薄いものだった場合、現地の宗教心も踏みにじり、宗教施設でまでこのような残虐行為を行うことも珍しく無かった。なおこの絵画の作者コンスタンチン・マコフスキー(Konstantin Makovsky)はロシアの移動派の一人である。

性的暴力は、少数民族奴隷先住民難民貧困層また大規模災害などによって生まれた社会的弱者に対して行われたり、刑務所収容所内、そして戦時下においてしばしば行われてきた。内乱や戦時下では大規模な集団レイプもしばしば発生する(戦時性暴力)。現在では戦時性性暴力といわれる事例は減ったが、第二次世界大戦後も韓国軍がベトナム戦争中に行った大規模な集団強姦事件(ライダイハン問題)や旧ユーゴスラビアにおける事例が存在する。また、非戦時下においても、権力者による性の専横、例として西欧領主初夜権などがある。

古来、征服された民族の女性の運命は過酷であった。最も有名なのはモンゴル帝国の創始者チンギス・ハーンとその係累・後裔であろう。モンゴル帝国による降伏勧告を受け入れず抵抗の後征服された都市はことごとく破壊・略奪・殺戮され、女性も戦利品として王侯・軍隊などの権力者以下にあてがわれた。また、これに先立つ遊牧騎馬民族王朝のは、北宋を滅ぼした際(靖康の変)、北宋の皇族女性全てと、多くの貴族女性を捕え、これを金皇族・貴族のまたは彼らを客とする官設妓楼(洗衣院)の娼婦にした。世界各地の男性のY染色体を調べた結果、かつてのモンゴル帝国の版図に高率で共通の染色体が検出されたという話さえある(ブライアン・サイクス著『アダムの呪い』参照)

近代現代も、戦時下において各国軍隊による敵国女性へのレイプが少なからず発生した。第一次世界大戦以降ではアメリカ、ソ連、ドイツによる大規模な強姦があったとされる。

米国はアブグレイブ刑務所に多数のアラブ人を強制的に収容し暴行を重ねていることが明らかになっているが、そこで米国の女性兵士がアラブ男性をレイプする事件、さまざまな侮辱を加えたうえで 裸にし 性交を強要するという事件も2003年に起こしていたことが、『タイム』誌の報道などで明らかになった。また、同刑務所では、この事件だけでなく、男性兵士・女性兵士などが、アラブ人男性を裸にし、性器にいたずらをするような行為が、かなり頻繁に行われていたことが明らかになっている。(アブグレイブ刑務所における捕虜虐待

2009年現在の南アフリカ共和国では男性の27.6%が女性をレイプした経験があるとする調査結果を南アフリカ共和国の医学研究評議会(MRC)によって明らかにされている[6]。調査は全国9州のうちクワズールー・ナタール、東ケープの2州で行われたものである[6]

社会学的見方と生物学的見方編集

社会学的見方編集

アメリカでは強姦する側の半数以上が若い年齢層であるという統計もある[7]し、強姦する側が貧民層であるというのは、ある種の差別的な幻想である。社会的地位の低さによって満足な性生活が送れない、あるいは失う物が少ないなどの理由で犯行に及ぶ場合もないわけではない。特に貧困と強姦を結びつける根拠としては説得力に欠ける。しかし、富裕層の強姦事件も決して少なくなく、社会的地位と強姦についての因果関係に結論は出ていない。

強姦は一般に見知らぬ他人が加害者であるイメージがあるが、犯罪白書によれば70%が見知らぬ人による犯罪で、知人による犯行は20%程度である。これをもとに判断すれば他人が加害者であるというイメージは、ある程度の妥当性を持っていることとなる。一方、香港における女性への性的暴行においては約8割のケースで親族や知り合いが加害者になっているとの報告もある[8]。相手が旧知の間柄である場合、「強姦」として報告されない事例があるためにこのような差が生まれるとも考えられる。

ラディカル・フェミニズムでは、男性による女性に対する性的な支配が、男性社会を維持する仕組みとして使われてきた側面があるとする社会学的見方が主張されている。

  • スーザン・ブラウンミラーは、強姦は、社会的に抑圧された男性が、その弱さを糊塗するため、女性を支配することによって力を誇示して満足感を得ようとする「権力作用」であり、男女間の力関係を支配・征服により確認する行為であるとしている。

レイプが男性の性欲に強く依存することに基づいて、抗アンドロゲン剤を投薬、あるいは注射により、性犯罪者の更生を図る試みも、アメリカなど一部の国で行われている。しかし、これはまた別の人権論争を巻き起こしている。

20世紀以降、北欧などの民主主義的国々において性犯罪者に対し、強制断種が合法的に実施された。1907年から1963年の間に米国において優生学を根拠とする優生法のもと6万4千人が強制的に断種手術を受けさせられた(特に、1920年代から40年代にかけて大いに優生学が喧伝された)。1933年、ドイツにおいて、遺伝的かつ矯正不能のアルコール依存症患者、性犯罪者、精神障害者、そして子孫に遺伝する治療不能の疾病に苦しむ患者に対する強制断種を可能とする法律が立法化され、ナチスドイツは、精神的または肉体的に「不適格」と判断された数十万の人々に対して強制断種を行い、また、強制的安楽死計画によって施設に収容されていた数万の人々を殺害した(T4作戦)。同様に、優生学にもとづき、カナダ・オーストラリア・ノルウェー・フィンランド・デンマーク・エストニア・スイス・アイスランドで政府が知的障害者であると認定した人々に対して強制断種が行われ、スウェーデン政府は40年の間に優生計画の一環として6万2千人の「不適格者」に対する強制断種を実行している。デンマークの「全国女性会議」は1920年代に男性の性犯罪者から女性を守るために性犯罪者に対する去勢手術を合法化する必要があると運動を展開し、フェミニスト達の解釈による政治的運動が法的に反映された[9]

強姦発生件数の多い国トップ3は、アメリカ合衆国の8万4376件、ブラジルの4万9524件、中華人民共和国の3万3835件である。(2012年度調べ)[10]

日本編集

法律編集

法律上の扱いの詳細は 強姦罪 を参照のこと。

現在の日本の国内法においては、暴行または脅迫を用いて行われる、直接的な性交(陰茎の膣挿入)を伴う性的暴力に限られる(射精の有無は不問)。被害者が女性の場合にのみ成立し、被害者が男性の場合は強制わいせつ罪などが適用される。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律により戸籍上の性別を変更をした者においては、民法その他の法令の適用について、他の性別に変わったものとみなされる。強姦罪の適用については、性別の取扱いの変更をし、女子と見なされた者は、強姦罪の客体たり得る[11]。また、男子と見なされた者は強姦罪の主体たり得る[11]

アメリカ合衆国編集

強姦の定義は国などによって異なる。アメリカでは、互いの合意のない性行為の強要は恋人間(デートレイプ)や夫婦間(マリタル・レイプ)でも強姦と見なされ、刑事罰の対象となるという判例が定着している[12][13]。さらに米法務省は2012年1月7日にFBIの「強姦」の定義を拡大することを明らかにした[14]

アメリカの司法省によれば、2010年に発生した強姦件数は18万8380人となっているが、これは氷山の一角との指摘もある。疾病予防管理センターによれば、全米で無作為抽出した約1万人の女性に電話アンケートを行ったところ、18.3%が「強姦されたことがある」または「強姦されそうになったことがある」と回答し、また加害者との間柄については、被害を受けたと回答した女性の過半数を占める51.1%が、「親密なパートナー(現在・過去の恋人や配偶者)」と回答した。次いで多かったのが「知人」(40.8%)だった。

2014年、アメリカ保健福祉省に属する疾病管理予防センターによれば、アメリカに住む女性のほぼ5人に1人がレイプ被害者であり、その数は2300万人超だという。[15]

米産婦人科学会誌の1996年の研究によれば、こうしてレイプされた女性が妊娠してしまう確率は5%に上り、毎年、推定3万2101件のレイプによる妊娠があるという。また、キリスト教の影響が強いアメリカでは、人工妊娠中絶が選挙の争点の一つになるなど、多大な関心がある。レイプ被害者の人工妊娠中絶も絶対禁止とする中絶反対派がアメリカには数多く、問題が複雑化している[16]

脚注・出典編集

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  1. ^ 日本の報道などでは、当用漢字による漢字制限で「強かん」と表記されることもあるが、近年はそのまま「強」と表記するようになってきている(NEWS23Xなどでは「強姦」の字を採用している。)。
出典
  1. ^ a b コトバンク
  2. ^ a b c wotopi もしもレイプ被害に遭ってしまったら? 専門家に聞く正しい相談先、届け出、ケア対応など
  3. ^ a b 警察庁 2010.
  4. ^ 大塲玲子「性犯罪の現状と対策 (平成18年版犯罪白書)」、『罪と罰』第44巻第1号、日本刑事政策研究会、2006年12月、 28-34頁、 NAID 40015243368
  5. ^ About USA. “アメリカ合衆国におけるレイプ 婦女暴行”. 2008年9月22日閲覧。
  6. ^ a b 南ア男性の4人に1人がレイプ経験者!?研究機関調査 産経新聞 2009.06.19
  7. ^ ダイヤグラムグループ 1992, p. 288 (M. Amir, "Patterns of Forcible Rape")
  8. ^ 「性的暴行、8割は知り合い・親族による犯行」『Record China』2008年9月9日付配信
  9. ^ デンマークの「全国女性会議」は1920年代に男性の性犯罪者から女性を守るために性犯罪者に対する去勢手術を合法化する必要があると運動を展開した。
  10. ^ 性侵立案难:中国每百万人发生2起强奸案[1]
  11. ^ a b 南野知恵子 2004, p. 99.
  12. ^ About USA. “アメリカ合衆国におけるレイプ 婦女暴行”. 2012年12月16日閲覧。
  13. ^ 強姦神話という偏見
  14. ^ アメリカ:FBI「レイプ」定義を拡大
  15. ^ “レイプ被害、アメリカ人女性の5人に1人(調査結果)”. The Huffington Post. (2014年9月14日). http://www.huffingtonpost.jp/2014/09/13/rape-in-america-study_n_5816762.html 
  16. ^ “「まともなレイプ」発言にパニクる共和党”. ニューズウィーク. (2012年8月22日). http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2012/08/post-2655.php 

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集