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全形象牙。ほぼ全ての国で取引が禁止されているが、日本では自宅の押し入れや床の間から出てきた「押し入れ象牙」「床の間象牙」などの名目で流通しており、新作の根付や印鑑など幅広く活用されている
象牙を持つアフリカゾウ
アフリカゾウの骨格
抱擁する聖母が彫られた象牙製の聖櫃(フランス)
象牙柄の短剣

象牙(ぞうげ)とはゾウの長大に発達した切歯(門歯)である。

目次

概要編集

 
象牙の利用例、根付(正利・作、1880年代)。日本の伝統工芸品として、象牙の国際取引が合法だった時代には海外にも輸出され、イギリスのベストセラー小説『琥珀の目の兎』(2010年)のモチーフにも使われた。

多くの哺乳類の「」と称される長く尖った犬歯が発達したものであるが、ゾウの牙は門歯が発達したものである点が異なる。ゾウの生活において象牙は鼻とともに採餌活動などに重要な役割を果たしている。材質が美しく加工も容易であるため、古来工芸品の素材として珍重されていた。

代用品編集

動物系代用品
  • マンモス[1][2]:ロシアの永久凍土の下に埋蔵されているマンモスの牙を利用する。象などの動物の牙を使うと絶滅する恐れがあるために問題となっているが、マンモスはすでに絶滅しているのでそのような心配がなく、牙の取引も合法である。また、象牙をマンモスの牙と偽って合法的に密輸・販売するケースがあり、問題となっている。
  • カバ (河馬牙)[2]
  • (鯨歯)[2]
  • セイウチ (セイウチ牙)[2]
  • イッカク (イッカク角) - 歯が変化した角[2]
  • 水牛の角[2]
  • シカの角 - 日本に多く住むニホンジカの角は中間がスポンジ状になっているなど扱いが難しく、印鑑の機械彫り用の印材としては想定されておらず、職人による手彫りになるため、ほとんど扱われていない。
人工品
  • セルロイド:1856年に不足しがちであった象牙の代用品として開発された[3]
  • 水酸燐灰石 (ハイドロキシアパタイト) :研究において気孔率0%のペレットが象牙の代わりに使われている[4]。また、三井東圧化学 (現三井化学)が、ハイドロキシアパタイトを使用した人工象牙の特許を出願している[5]
  • カゼインプラスチック
    • ガラリス英語版:牛乳に含まれるカゼイン蛋白ホルムアルデヒドを合成したプラスチック。シャネルの大衆向けドレスの装飾、カスタムジュエリー(象牙、サンゴ真珠の模造品)としてもてはやされ、1930年ごろには象牙の代わりにピアノの白鍵や傘の持ち手に使用される[6][7]。安価であったが、成形できず切削によって造形する必要があったため、1960年頃には使用されなくなった。
    • ラクト材:近年では、象牙と全く同じ質感のある素材をカゼイン蛋白と酸化チタン粉末から作ることが可能で、市場で安価に出回る象牙風の彫刻はたいていこれである。

人工象牙は台所で自作することも可能である。白色顔料や陶芸の釉薬などとして画材店で販売される酸化チタン、牛乳(カゼイン)、玉子(殻に炭酸カルシウムが含まれる)をミキサーで混ぜ、オーブンで加熱して完成。これは「越前の発明王」こと酒井弥が発明したレシピ[8]である。

用途編集

工芸編集

適度に吸湿性があって手になじみやすく、材質が硬すぎず・柔らか過ぎず(モース硬度2.5)、加工性も金属水晶大理石翡翠などより優れている。

印章の高級素材としての象牙編集

朱肉の馴染みがきわめてよく、高級感もある。印章契約や公式書類では欠かせないため、日本はワシントン条約締結までは一番の輸入大国であった。取引停止後は、条約施行前や一時解禁時に輸入された象牙が印材として加工されているほか、各種の代替品が利用される。

印材としての象牙も部位によってランクがある。安物は表面近くの筋が多く入っている物。先端に行くほど、中心に位置するほど貴重な物とされる。通常は木材と同じく縦目に切削されるが、側面から見て年輪のように模様が出る横目印材もある。特徴のある文様だが、木材と同じように強度は縦目の物には劣る。

刃装具としての象牙編集

 
刃物職人組合の掲げる看板は象と城のデザイン。

象牙は刃装具として古くから利用されていることから、イギリスの刃物職人組合である「Worshipful Company of Cutlers」(英語版) の紋章には象と城が使用されている[9]

楽器部品としての象牙編集

三味線として適度な弾力、掌の湿度を吸収することにより手との馴染みが良いこと、舞台映えの良さなどで多くの三味線音楽分野において最高の素材とされている。代替品として木や合成樹脂製のものも普及しているが、いまだ象牙を超える素材が見つかっていない。の爪についても同様である。この他に箏の(じ)や三味線の駒[注釈 1]においても象牙[10]の優れた性質に勝るものがないのが現状である。更に紫檀黒檀などの唐木との色彩対比が美しいことから、それらと組み合わせて箏や琵琶の部分的な装飾にもしばしば使用されるが現在は次第に使われない傾向にある。

またナット(上駒)として三味線やギターリュートに、糸巻(ペグ)として三味線やリュート、ヴィオールなどに、あるいは弦楽器の弓のチップにも使用される。音色への影響もあるが、主に見た目の美しさで選ばれることが多い。

象牙は古くからピアノの白鍵に貼られてきた。現在でも、象牙はその肌触りや質感において、別格の鍵盤素材である[11]。しかし、ワシントン条約により象牙の貿易が禁止されてからは、スタインウェイ・アンド・サンズ製品に代表される演奏会用の最高級グランドピアノであっても、アクリル樹脂系の素材(アイボプラスト[12])を用いている[11]。海外から日本に、鍵盤に象牙が貼られている古いピアノを輸入する場合、象牙を除去しないと輸入が許可されない[12]

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象牙は、漢方薬として肝臓がんの治療に使われる[13]

象牙屑(ぞうげしょう)
漢方薬の原料。象の牙を粉にしたもの。粉末を加工して"練り象牙"も製造する。
効能:解熱・精神安定、解毒、筋肉増強、癇癪、痙攣、寝汗、喉の腫れ、痔瘻[14]

象牙の歴史編集

世界編集

象牙は古くから、密度が高く切削加工しやすい素材として珍重された。ヨーロッパの旧石器時代の遺物には、マンモスの牙に人や動物の像を刻み、投槍器のような道具を製作した例が多数ある[15]紀元前5世紀には、古代ギリシア彫刻家ペイディアスによって象牙から彫られた女神アテーナー像がパルテノン神殿に飾られ[16]、エジプトからも出土品がある[17]イスラム圏では、イスラム美術の複雑な幾何学パターンを彫るのに非常に適していた事や、インドやアフリカとのアクセスのしやすさ等から、ヨーロッパより不自由することなく大きな象牙製品が作られた[18][19]

特にその重量感と温かい風合いは多くの人に好まれる所で、ピアノの代名詞でもありビリヤードの流行の際にはビリヤードボールを象牙で作ることが一般的であった。しかし高価で、また乱獲により得がたくなったため、これに代わる素材の開発が求められ、19世紀に入ってセルロイドが発明された。

なお1990年から、アフリカゾウの象牙の国際取引はワシントン条約により原則禁止となっている[20]

日本編集

 
象牙を彫る工芸家(1907年、東京。ハーバート・ポンティング撮影)

古代には正倉院宝物となっている工芸品「紅牙撥鏤尺(こうげ ばちるの しゃく)」[21]などの素材として用いられており、珊瑚(サンゴ)や鼈甲(ベッコウ)に並んで珍重されたことがうかがえる[22]

その後、象牙工芸品はしばらく姿を消すが、鎌倉室町時代には日本に象牙の流入があったことが確認できる[23]。主たる輸入先は中国東南アジアである。だが古代、南部に相当数が棲息したとされる中国の象もの時代にはほぼ絶滅したと言われ、もっぱら東南アジアから中国を経由して日本に入るルートが用いられた。

『室町殿行幸御飾記』によると、足利将軍家には象牙製の棚や卓があり、や筆刀、菓子の器などにも象牙が用いられた[24]。三味線のバチも象牙で作られ、茶道具でも茶杓掛け軸の軸に使われた。特に茶入の蓋、牙蓋は特異な使われ方をしている。茶入と牙蓋とのバランスが重視され、傷や古さが逆に評価されることもあった。蓋に生ずる傷を「巣」と総称し、これを一種の風景や文様のように扱い、茶入と組み合わせて生ずる人工的な風景を、自然の風景に見立てた。

江戸時代には象牙工芸は高度な発展を見せ、根付印籠などの工芸品に優品が存在する[25]明治時代に入ると殖産興業の一環として工芸品の輸出が奨励され、牙彫分野においても特に高度な技巧を凝らした優品は国際博覧会に出展され人気を博した。また象牙の輸入量が増えると糸巻の高級品に象牙が使用され、さらに象牙の置物も広く珍重されるようになった。大正昭和に入ると西欧のパイプ喫煙文化が導入され、パイプが主な象牙製工芸品となった。この頃には仏師など西洋化によって仕事の減った職人が象牙加工業に進出するようにもなっていった。

これらの伝統的象牙工芸品は明治維新以降のイギリスを中心とした海外交易(主に緑茶の輸出)の際や、第二次世界大戦後のアメリカ進駐軍が根付や印籠のユニークなデザインや精巧な加工に目を付けるなどしたことで、数多くの工芸品が海外に流出し[注釈 2]、特に江戸時代から明治時代にかけての芸術性の高い根付や煙管などが有名美術館で多数展示されている。イギリスなど欧米にはこれら根付と煙管のコレクター市場がある程で[26]、特に英国ヴィクトリア&アルバート博物館の根付コレクション[27]は有名である[注釈 3] 。また近年では清水三年坂美術館が幕末から明治にかけての牙彫を含んだ様々な分野の工芸品の優品を海外から積極的に買い戻しており、日本国内においても注目が高まってきている[注釈 4]

  • 村田理如『粋な喫煙具 : 清水三年坂美術館コレクション』〈骨董「緑青」〉第36巻、マリア書房、2008年。NCID BB10500146
  • 清水三年坂美術館、村田理如『超絶技巧の明治の牙彫・木彫』清水三年坂美術館、2009年。NCID BB12704431
  • 清水三年坂美術館、村田理如『明治の万国博覧会の再現美術展』清水三年坂美術館、2010。NCID BB01927773
  • 村田理如『印籠名品集 = Inro masterpieces』〈清水三年坂美術館コレクション = The Kiyomizu Sannenzaka Museum collection〉淡交社、2011年。 NCID BB05618839
  • 清水三年坂美術館、村田理如『高村光雲と石川光明』〈帝室技芸員series 3. 彫刻〉高村光雲 ; 石川光明、清水三年坂美術館、2011年。Template:Cite ncid
  • 村田理如『明治工芸入門 : 清水三年坂美術館村田理如コレクション』古美術宝満堂 ; 目の眼 (発売)、2017年。NCID BB23586031

高度成長期の日本ではサラリーマンが増え、高額商品の分割払い(ローン)購入も普及し、象牙製実印の需要が飛躍的に伸びた。輸入された象牙消費の9割が印鑑に加工される時代があった。象牙製品の展覧会もしばしば開催される[28]

彫刻師では旭玉山(1843-1923)、石川光明(1852-1913)、安藤緑山 (1885?-1955)、菊地互道 (1887-1967) 等、有名な人物が居た。今日では象牙の彫刻師は需要の減少と高齢化が進み、現在は東京や京都に数えるほどの人数しか存在しない。菊地互道の作品は東京国立博物館に数点互道の息子(菊地敏夫)により寄贈されている。また安藤緑山の作品は、インターネット[29]で閲覧可能である。

このほか、象牙や象牙製美術・工芸品に重点を置いた展示施設として「象牙彫刻美術館」(山梨県甲府市[30]や「象牙と石の彫刻美術館」(静岡県伊東市[31]がある。

なお、日本には印鑑業界を中心とする根強い需要があるため、2016年現在も象牙市場が存在する[32]。インターネット印鑑業界最大手のハンコヤドットコムは2016年8月に象牙・マンモス牙を使った印鑑の販売を終了する[33]など、インターネットの象牙印鑑の合法市場の規模も徐々に縮小している。日本の象牙市場の規模は、2016年現在ではピーク時の10%程度となっており、そのうちで印鑑での利用は8割である。

手入れの方法編集

  • 汚れやほこり等を取る場合、水で洗ったときは水分を乾いた布でふき取り日陰干しする(直射日光を避けること)。
  • 光沢を出したい場合、湿った布でホコリをふきとりその後、研磨剤を含まない光沢剤(ワックス)で磨き布のきれいな部分で軽く乾拭きすると輝きが戻る。
  • 夫婦などの黄ばみを取る場合、ふきんを白くする市販の漂白洗剤を倍以上に薄めて数日浸しておくときれいになる。
  • 数珠やネックレス等の黄ばみの場合は洗剤に漬けるとひもの繊維が弱くなり切れやくなるので、布に湿らせて洗剤で拭きとる。

象牙貿易の禁止と各国の対応編集

1989年の絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(通称:ワシントン条約)によって、象牙製品なども含め国際取引は原則禁止とされており、日本を除くほとんどの国々では国内取引も禁止されているが、アフリカ諸国では政治の腐敗などにより密猟や密輸による非合法な流通が存在するとされ、問題となっている[34]

一方、日本では、象牙は「持続可能な資源」だと考えられており、2019年現在でも象牙の国内取引は合法である。日本の環境省の見解では、アフリカゾウの絶滅のおそれの度合いはゾウの種や地域によって異なるので、アフリカゾウが絶滅の危機に瀕しているとは必ずしも言えないとされている。また象牙の合法的な取引により得られる経済的な利益は、生息国におけるゾウの保全にも役立つため、象牙が適切に利用されることが、アフリカゾウの持続可能な利用につながると考えられている[35]。日本政府の見解では、日本での象牙の利用が、アフリカゾウの種の保全に影響するとは考えられていない。

日本の象牙利用に対する海外からの圧力が年々強まっていることが問題となっている[36]。日本政府の関係省庁、関連業界、関係NGO及び有識者による「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会」[37]を2016年より組織している。

1990年以降、ワシントン条約によって、象牙に関する国際取引は原則禁止とされているが、アフリカゾウの生息が増加しすぎて獣害が発生している南部アフリカ諸国からは国際取引の再開を望む声[38]もある。象牙をめぐっては、野生の象が生息していない日本も象牙の主要消費国という面では当事国の一つである。

アフリカ諸国の問題編集

象牙は国際取引が原則禁止された後も、アフリカ諸国では密猟が発生しており、問題となっている。アフリカ諸国の間にも、象牙の国際取引の全面禁止を望んでいる国と、全面解禁を望んでいる国があり、対立している[39]。全面禁止を主張するのは北部~中央アフリカ諸国であり、アフリカゾウの管理が上手くいっておらずゾウが激減している国[40]である[41]一方で、取引再開を望むのはアフリカゾウの管理が成功し個体数が増加している南部アフリカ諸国[42]である。

2013年に国連安保理に提出された報告書によれば、アフリカ中部地帯の武装勢力が象牙の密輸を重要な資金源としているとして潘基文事務総長が懸念を表明している。報告書によると2004年から2013年にかけてガボンの国立公園で1万1000頭以上のゾウが殺されている。密猟者は2011年リビア内戦でリビアから流失した強力な武器で武装しており、従来の治安機関では対応が困難であり、カメルーンのように国軍が対応している国もある。

象牙の消費国の問題編集

象牙は国際取引が原則禁止された後も、日本やEUを含む世界には依然として取引がなされている。2019年現在、基本的には商業目的の象牙の国際取引が原則禁止されており、国内に需要があるとしても、条約で禁止される前に国内に入ってきた象牙か、1999年と2009年にワシントン条約による同意の下、輸入された象牙に限った取引となっているが、世界各国では密猟や密輸が存在し、これは問題になっている。象牙の大きな市場があった中国は2017年に象牙の国内取引を禁止し[43]、香港政府も2021年までに象牙取引を廃止する方針を発表した。

また、象牙の取引が規制されているEUでも、1947年以前に製造された「アンティーク象牙」と偽ることで象牙加工品を合法的に販売できる抜け穴があり、中でもイギリスは「アンティーク象牙」の大きな市場が存在し[注釈 5]、また象牙加工製品の世界最大の輸出国となっている。

世界各国の対応編集

アメリカは、2016年7月に象牙の販売を禁止したとしているが、これは州際取引にのみ掛かる規定であり、2019年6月現在、州内取引も含めて象牙の取引を禁止しているのは全米50州中9州に過ぎず[44]、またハンティングトロフィーの取引は容認されている。

EUでは、フランスは2016年に象牙の販売を禁止した。イギリスでも2016年9月に象牙の取引を大筋で禁止する法案が施行されたが、アンティーク業界のロビー活動の結果、1947年以前に製造された象牙製品(アンティーク象牙)は販売できることになったため、新規に作られた象牙製品を「アンティーク象牙」と主張して販売する抜け穴が指摘され、アフリカ諸国から非難されている。[要出典]このように、EU各国の足並みはそろっていないが、EUレベルで象牙取引の全面禁止に至る取り組みが2016年より段階的に始まっており、2017年6月にはEU全域における全形象牙の取引が禁止された[45]。イギリスではウィリアム王子が象牙の禁止のために熱心に活動しており、王室財産である1200点の象牙製品(アンティーク象牙)を全て破壊したいと公言している[46]。ウィリアム王子は、第17回ワシントン条約締約国会議でも基調公演を担当した。

中国は1990年代[47]から2000年代に経済発展が著しく加速し、かつての高度経済成長期の日本と同様に象牙の需要が増しており[48]、この需要を満たすためにアフリカで象の密猟が増加していた[49]。環境保護団体の環境調査エージェンシー英語版によれば、2013年、中国習近平国家主席タンザニアを訪問した時、随行していた中国政府関係者が象牙を大量購入、外交封印袋に入れられ、中国まで運ばれたという。2009年の胡錦涛の時代にも、同様のことがあったという[50]。批判を受け、2015年9月25日の米中首脳会談において、中国の習近平国家主席とアメリカのオバマ大統領が、象牙の国内取引を終了するために共同声明を発表。中国の国内市場は—年に閉鎖された。2016年より後の中国は、ワシントン条約締約国会議において象の保護を主張する側に回った。2018年以降の中国では、周辺国における違法取引の撲滅と、日本を含むアジア諸国からの密輸ルートの閉鎖が課題となっている[51]。中国の闇市場では象牙1ポンド当たり1000ドル前後で取引されている[52]

日本の問題編集

日本では、象牙は彫刻印章根付などとして、伝統的に使われてきた。日本の象牙市場は、WWFジャパンによると2016年時点でピーク時の10%くらいとなるなど縮小の傾向にあるとされるが[53](WWFジャパンは2016年当時「日本は象牙の密輸とは無関係」との日本政府の見解を支持していたため、これは合法市場のみの数字である)、代わりにヤフーオークションを介しての取引が急増している(「日本は象牙の違法取引の拠点」との立場に立つEIAによると、違法市場であることが強く疑われている)など、いまだに活発な需要が存在し、特に印鑑での用途は、日本国内で使われている象牙の80%を占める。

日本はワシントン条約の国内における実効性を補完するために、1992年に「種の保存法」を制定し違法な取引の防止に努めている[54][55]

2010年代以降の「象牙取引禁止」という世界的な動きの中で、ネット通販大手の楽天では2017年7月に楽天市場における象牙の販売を禁止し、流通大手のイオンも2020年からショッピングセンター(イオンモール)における象牙の販売を禁止する方針を固める[56]など、日本政府の方針とは関係なく自主的に象牙を禁止する日本の業者も出てきている。eコマース大手のメルカリでは環境保全団体「トラフィック」と連携して象牙の取り締まりに当たっている[57]

象牙取引の再開に向けた動き編集

ワシントン条約(CITES)の締結により1990年より象牙の国際取引禁止措置が採られ、事実上世界の象牙貿易は終了した。しかしその後、ボツワナナミビアジンバブエのゾウの個体数が間引きが必要な規模へ急増。1997年のワシントン条約締結国会議で、ナンバーリングを行う等の措置を条件に貿易再開を決議[58]1999年に日本向けに1度限りの条件で貿易が行われた。南部アフリカ諸国はゾウの急増により農業被害や人的被害が見られることもあり引き続き貿易の継続を要望した。

2007年、ワシントン条約の常設委員会は監視体制が適切に機能しているとした南アフリカボツワナナミビアが保有している60トンを日本へ輸出することを認める決定をした。なお日本と同じく輸入を希望していた中国は認められなかった。2008年にはCITESによって許可された象牙競売が開催され、ナミビア・ボツワナ・ジンバブエ・南アフリカの4ヵ国から出荷された合計102トンの象牙(すべて、政府が管理する自然死した象のもの)が日本と中国の業者に限定して売却された[59]

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ 現在では筝柱(ことじ)は一般的にほとんど合成樹脂製である。三味線の演奏には、象牙を使用しない種目もある。
  2. ^ 1910年代の出版物に根付をテーマとしてものがいくつかある。
    • Boxer, C. R. (Charles Ralph) Gunther, H. A、"Hosokawa Tadaoki and the Jesuits, 1587-1645. Netsuke of medical interest"、出版社不明[s.n.], 1---年。NCID BA49117833
    • Riversdale, Paule "Netsuké" (フランス語)、Alphonse Lemerre、1904年。NCID BA18850745
    • Brockhaus, Albert、"Netsuke : versuch einer Geschichte der japanischen Schnitzkunst"(ドイツ語)、F. A. Brockhaus、1905年。. NCID BA65425643. 
    • Joly, Henri L、Behrens, Walter Lionel "Netsuke : catalogue"(ドイツ語)、Clendining〈W.L. Behrens collection〉、1913年。pt. 1 NCID BB22349289
    • "The John H. Webster collection"、Metropolitan Art Association、1913年。NCID BA08694348
  3. ^ ビクトリア&アルバート美術館の象牙加工品は日本の根付のほかにも、中世やバロック時代などの収集品もあり、まとめた書籍は多い。
    • Beckwith, John、Victoria and Albert Museum "The Veroli casket"、王室出版局〈Museum monograph〉第18号、1962年。NCID BA83614003
    • Arts Council of Great Britain (en)、Victoria and Albert Museum "Ivory carvings in early medieval England, 700-1200"、Arts Council of Great Britain、1974年。NCID BB11263068
    • Williamson, Paul (en)、Victoria and Albert Museum "An introduction to medieval ivory carvings"、王室出版局〈V & A introductions to the decorative arts〉、1982年。NCID BB16480573
    • Foster, Elena (en)、Watson, Rowan、Victoria and Albert Museum, "Blood on paper"、ベーコンバルテュス、ゲオルク・バリゼッツ(en)、Ivory Press : V&A Publishing、2008年。NCID BA86099388
    • Williamson, Paul、Victoria and Albert Museum "Medieval ivory carvings : early Christian to Romanesque、V&A Publishing、2010年。NCID BB03989501
    • Trusted, Marjorie (en)、Victoria and Albert Museum "Baroque & later ivories"、V&A Publishing、2013年。NCID BB15264652
  4. ^ 清水三年坂美術館の収集品。
  5. ^ 江戸から明治に海外に売却された象牙製品は競売でも人気商品のため特集が組まれ、遺産分割など複数のコレクターの収集品をまとめて応札する。
    • Christie, Manson & Woods (1977). Japanese ivory carvings, okimono, netsuke, inro and pipe-cases : the properties of the trustees for the late Sir Thomas Merton, Alan Davidson, Esq. and from various sources which will be sold at auction by Christie, Manson & Woods Ltd.. クリスティーズ. NCID BA20288197. 
    • Christie, Manson & Woods (1980). Japanese wood and ivory carvings, wood and ivory netsuke, ojime, inro and kiseru-zutsu : the property of the lates Lady Gascoigne and from various sources : [auction catalogue]. クリスティーズ. NCID BA14091289. 

出典編集

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    主催: 日本象牙彫刻会、上野の森美術館、日本美術協会。会期: 第5回: 1982年(昭和57年)3月26日–4月1日、第10回: 1987年(昭和62年)3月26日–3月31日、 第15回: 1992年(平成4年)3月26日–3月29日、第20回: 1997年(平成9年)5月29日–6月8日、第25回: 2002年(平成14年)6月21日–6月27日。会場: 上野の森美術館(第20回の会場: 麻布美術工芸館)。」
  29. ^ 三井版 日本美術デザイン大辞展(食品サンプルではありません。こちらも牙彫で、安藤緑山作)
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  52. ^ 違法象牙の90%以上、3年以内に密猟したゾウから採取 研究(AFP通信)
  53. ^ 象牙と犀角 縮小する日本の市場について報告
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  55. ^ 象牙等はルールを守って取引しましょう!環境省
  56. ^ イオンモール、象牙販売禁止へ 印章、2020年から - 日本経済新聞
  57. ^ メルカリからのお知らせ 象牙製品を出品しないで!メルカリと環境保全団体 トラフィックで勉強会をしました
  58. ^ 神戸俊平「象牙取引の再開決定について (神戸俊平氏の象牙製品ボイコット呼びかけ)」『海外の市民活動』、大竹財団、1997年11月、 24-26頁。
  59. ^ アフリカの象牙競売終了、日本と中国の業者が15億円落札,AFP BB NEWS,2008年11月7日/朝日新聞2010年3月14日朝刊「密漁呼ぶ象牙限定解禁」

参考文献編集

  • 渋谷区立松濤美術館編集・発行 『日本の象牙美術 --明治の象牙彫刻を中心に--』 1996年
  • 美術誌「Bien(美庵) Vol.48」 特集「石川光明とデザインで見る象牙彫刻」(藝術出版社、2008年) ISBN 978-4-434-12047-3 C0370
  • ハリー・ブロードマン「PERISCOPE : Asia : CHINA 中国の象牙取引禁止令は抜け穴だらけで機能しない?」『Newsweek = ニューズウィーク』32(5)、CCCメディアハウス、2017年2月。17頁

関連語編集

象の墓場
象の墓場は象牙の宝庫とされる。「象は死に場所を選んで死ぬため、死期が迫った象は自ら仲間が死んだ場所へと向かい、死んだ象が必然的にたくさん集まる場所ができる」とする伝説がある。『シンドバッドの冒険』の「7度目の冒険」では、象を狩って象牙を得る奴隷の身分に堕ちたシンドバッドが、仲良くなった象から「象の墓場」を教えてもらい、象を殺さずに象牙を得て巨万の富を得た。このように、おとぎ話の世界の話で、現実には存在しない。
象牙の塔
現実からかけ離れた夢想の世界。学者が閉じこもる研究室の比喩。ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』にも登場する。
もともとはフランス語la tour d'ivoire。「旧約聖書」「ソロモンの雅歌」7:5の「なんじの首は象牙の塔の如し」に由来し、サント-ブーブヴィニーを評した「Et Vigny, plus secret,/ Comme en son tour d'ivoire, avant midi, rentrait.」という言い回しに由来する。
象牙色
アイボリー。淡い黄色。クリーム色。
象牙海岸
西アフリカの国・コートジボワールのこと。フランス語のCôte d'Ivoireを和訳した名前で、英語名のIvory Coastも同じ意味。かつてこの一帯から象牙が搬出されたため、この名が付いた。

関連用語編集

関連文献編集

  • 相馬邦之助『象牙彫刻法』、吉田金兵衞、1900年。NCID BA43335558
  • 赤城豊成『象牙彫刻美術年鑑』近代造美弘報社、1976年。限定版。NCID BA42372989ISSN 0385-3500
  • 『日本の象牙彫刻展』日本象牙彫刻会、日本の象牙彫刻展組織委員会、日本美術協会上野の森美術館、工芸学会。日本象牙彫刻会、1978年。NCID BA3674784X
  • 板橋区立郷土資料館『手先指先細工物 : 鼈甲細工・象牙細工・彫金 : 企画展 : 第5回板橋区伝統工芸展』板橋区立郷土資料館、2002年。