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連続立体交差事業

（連続立体化から転送）

連続立体交差事業（れんぞくりったいこうさじぎょう）は、鉄道線路を高架もしくは地下に切り替え、道路との立体交差を3箇所以上新設する事業である[1]。

イメージ図

事業主体 編集

都道府県、政令指定都市、県庁所在都市、人口20万以上の都市、東京23区である[2][3]。

構造形式 編集

 
仮線工法の例
高架方式
  • 仮線：既設線を仮線に移設のうえ、跡地に高架橋を新設[4]。
  • 別線：既設線の横に高架橋を新設[4]。
  • 直上高架：既設線の真上に高架橋を新設[4]。
地下方式

歴史 編集

高架化工事 編集

神戸市街線（JR神戸線）灘駅 - 鷹取駅間で施工した[6]。

工事は、2期に分けて施工した[6]。山側にある現在線を海側に移設のうえ、跡地に2線分の高架橋を建設するとともに、鉄道線路を高架に切り替える工事が第1期で、海側の跡地に2線分の高架橋を建設する工事が第2期である[6]。1918年9月に鷹取駅付近の用地買収から始まった[6]。高架橋の完成は、第1期が1931年で第2期が1937年だった[7]。1939年に工事を完了した[8]。

地下化工事 編集

新京阪線（現：阪急京都本線）西京極駅 - 京阪京都駅（現：大宮駅）間で初めて実施した[9]。

新京阪鉄道は、京都市内への乗り入れを画策しながらも、市街化が進み、地上や高架線の敷設は難しかったため、地下線での乗り入れを計画した[10]。1928年6月15日に工事を着手した[9]。1931年3月31日に地下による西院駅と大宮駅が開業したのち[11]、1931年4月にしゅん工した[9]。

鉄道高架化の確立 編集

軍用道路と鉄道線路の平面交差は、保安上の問題があった[12]。平面交差を解消すべく、1940年3月1日に内務省と鉄道省間で道路と鉄道との交差方式並に費用負担に関する内務・鉄道両省協定（以下、内鉄協定）を結んだ[12]。協定では、国道及び幅員11メートル以上の街路と鉄道線路との交差を新設する場合は、すべて立体交差と定めた[12]。費用は、道路側と鉄道側が折半で負担すると制定した[13]。

1950年に日本国有鉄道（以下、国鉄）が、既設平面交差除却に伴う立体交差化工事に係る費用負担を受益者負担金に限定した[13]。平面交差除却による立体交差化工事の費用負担を巡って、内鉄協定どおりと主張する道路側と受益者負担金に限定と主張する国鉄側で意見が分かれた[13]。意見が分かれつつも、1953年から1955年までの費用負担の実績は、道路側が2/3で国鉄側が1/3だった[14]。1956年12月18日に建設事務次官と国鉄総裁は、これを道路と鉄道との交差に関する建設省・日本国有鉄道協定（以下、建国協定）で取り決めた[14]。鉄道の高架線による既設平面交差除却に係る工事費の負担は、別途協議とした[15]。内鉄協定は、道路法に引き継いだ[16]。

1964年8月7日に建国協定に基づく鉄道の高架化における費用負担についての覚書を締結した[17]。費用は、道路側と国鉄側が1/2ずつ負担すると定めた[18]。高架線の定義は、下記のとおり。

  1. 道路と鉄道線路との立体交差を3箇所以上新設[18]。
  2. 両端の道路の中心線距離が350メートル以上[18]。
  3. 踏切を2箇所以上除却[18]。

鉄道高架化の見直しを巡る協議 編集

1967年3月に赤字経営の国鉄から、鉄道高架化による費用負担についての要望があった[19]。

  • 建国協定は、現状維持[19]。
  • 線路増設費は、国鉄が負担[19]。

細田試案 編集

 
細田吉蔵

国鉄の要望に対して1967年4月27日、国鉄基本問題調査会で細田吉蔵が細田試案を示した[19]。

  • 鉄道高架化は、都市再開発と交通の円滑化を図る目的で実施[19]。
  • 国鉄・私鉄を通じ、高架化すべき鉄道区間を建設運輸大臣が指定[19]。

以上の事項を建設省、大蔵省に求めた[19]。

建設省の見解 編集

建設省は、1967年7月に以下の見解を示した[19]。

大蔵省の見解 編集

大蔵省は、1968年1月6日に以下の見解を示した[20]。

  • 鉄道高架化事業（地下化を含む）は、都市計画事業で実施[20]。
  • 事業主体は、県[20]。
  • 鉄道事業者と道路管理者の費用負担区分は、建設省と運輸省間で検討[20]。

都市計画事業の確立 編集

1968年5月7日の国鉄基本問題調査会で、鉄道高架化についての方針を発表した[20]。

  • 都市計画決定は、高架化部分を含む最寄り駅までの区間が対象[2]。
  • 事業範囲は、既設線相当分が対象[2]。線路増設分は含めない[2]。
  • 事業主体は、都道府県と政令指定都市[2]。

年表 編集

東京23区拡大の発端は、東武伊勢崎線竹ノ塚駅付近連続立体交差事業を参照
  • 1969年（昭和44年）9月1日：都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定及び同細目協定を適用[21]。
  • 2004年（平成16年）4月：都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する要綱及び同細目要綱を適用[22]。
  • 2005年（平成17年）度：事業主体を県庁所在都市、人口20万以上の都市、東京23区に拡大[3]。

採択基準 編集

 
高架化の1例

下記のいずれかに該当し、鉄道区間（高架化及び地下化[23]）と道路との立体交差を3箇所以上新設[24]。

  1. 幹線道路[注釈 1]が2箇所以上[24]。かつ両端の幹線道路の中心間距離が350メートル以上[24]。同時に踏切を2箇所以上除却[24]。
  2. 幹線道路にあるボトルネック踏切[注釈 2]を除却[25]。
  3. 生活道路にある歩行者ボトルネック踏切[注釈 3]を除却[26]。

2は2000年度[27]、3は2006年度追加[3]。

費用負担 編集

都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定及び同細目協定（1969年）
国鉄（JR）が10%、私鉄が7%[28]。残額を都市計画事業施行者が負担[28]。
都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定及び同細目協定（1992年改訂）
JRや私鉄を区別せず、地域ごとに負担[29]。A地域14%、B地域10%、C地域7%、D地域5%[29]。
都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する要綱及び同細目要綱（2007年改訂）
A地域15%、B地域10%、C地域7%、D地域4%[22]。
地域一覧
地域名 区域 出典
A地域 東京23区 [29][30]
B地域

首都圏整備法第2条の東京23区を除く既成市街地と近郊整備地帯の区域

近畿圏整備法第2条の既成都市区域

政令指定都市

C地域

近畿圏整備法第2条の近郊整備区域

中部圏開発整備法第2条の都市整備区域

A地域とB地域を除く人口30万以上の都市区域

D地域 上記以外の区域

鉄道事業者負担率は、高架方式を採用する[31]。地下方式は、都市計画事業施行者と鉄道事業者間で別途協議をして定める[31]。

関連事業 編集

逆立体化事業
高架道路を地上に下ろすとともに、鉄道線路を高架に切り替える[32]。
連続立体交差関連公共施設整備事業
連続立体交差事業と併せて街路事業（道路整備）、土地区画整理事業並びに市街地再開発事業を実施する[33]。

事業箇所 編集

高架化 編集

JR
都道府県 路線 区間 全線完了 出典
北海道 札沼線 篠路駅付近 - [34]
東京都 埼京線（赤羽線） 十条駅付近 - [35]
南武線 谷保駅 - 立川駅 - [36]
神奈川県 南武線 矢向駅 - 武蔵小杉駅 2039年度 [37]
静岡県 東海道本線・御殿場線 沼津駅付近 2040年度 [38]
愛知県 武豊線 半田駅付近 2026年度 [39]
兵庫県 JR神戸線 東加古川駅付近 - [40]
広島県 山陽本線・呉線 向洋駅 - 海田市駅 2036年度 [41]
愛媛県 予讃線 松山駅付近 2024年秋 [42]
私鉄
都道府県 路線 区間 全線完了 出典
埼玉県 東武伊勢崎線・野田線 春日部駅付近 - [43]
東京都 東武伊勢崎線 鐘ヶ淵駅付近 - [44]
とうきょうスカイツリー駅付近 2025年3月 [45]
東武東上本線 大山駅付近 - [35]
西武新宿線 野方駅 - 井荻駅 -
井荻駅 - 西武柳沢駅 -
西武新宿線・国分寺線・西武園線 東村山駅付近 2028年度末 [46]
京成押上線 四ツ木駅 - 青砥駅 2030年3月 [47]
京成本線 京成高砂駅 - 江戸川駅 - [35]
京王線 笹塚駅 - 仙川駅 -
東急大井町線 戸越公園駅付近 -
東急東横線・大井町線 自由が丘駅付近 - [48]
京急本線 泉岳寺駅 - 新馬場駅 2027年度 [49]
富山県 富山地方鉄道本線 電鉄富山駅付近 2028年度 [50]
岐阜県 名鉄名古屋本線 岐南駅 - 名鉄岐阜駅 2034年度 [51]
愛知県 名鉄名古屋本線 桜駅 - 本星崎駅 - [52]
名鉄名古屋本線・三河線 知立駅付近 2027年度 [53]
名鉄三河線 若林駅付近 2025年度 [54]
大阪府 南海高野線 浅香山駅 - 堺東駅 2035年度 [55]
高師浜線 羽衣駅 - 伽羅橋駅 2024年春 [56]
南海本線 石津川駅 - 羽衣駅 - [43]
京阪本線 寝屋川市駅 - 枚方市駅 -
阪急京都本線 摂津市駅付近 -
阪急京都本線・千里線 淡路駅付近 2028年度 [57]
兵庫県 山陽電鉄本線 高砂駅 - 荒井駅 - [58]
奈良県 近鉄奈良線 大和西大寺駅付近 - [59]

地下化 編集

ギャラリー 編集

三大都市圏の鉄道高架橋新設工事

脚注 編集

[脚注の使い方]

注釈 編集

  1. ^ 道路法による一般国道及び都道府県道並びに都市計画法に基づいて都市計画決定した道路[24]。
  2. ^ 自動車の踏切交通遮断量が1日あたり5万台以上もしくは、ピーク時の遮断時間が1時間あたり40分以上の踏切[25]。
  3. ^ 自動車や自転車および歩行者の踏切交通遮断量が1日あたり5万台（人）以上、かつ自転車と歩行者の踏切交通遮断量が1日あたり2万台（人）以上の踏切[26]。

出典 編集

  1. ^ 八木田功 1969, p. 2.
  2. ^ a b c d e 八木田功 1969, p. 6.
  3. ^ a b c 岡野賢二, 三宮隆 & 須藤勉 2007, p. 28.
  4. ^ a b c 最新土木工事ハンドブック編集委員会 1978, p. 805.
  5. ^ 柴垣寛 1966, p. 32.
  6. ^ a b c d 古川淳三 1931, p. 38.
  7. ^ 小野田滋 2001, p. 115.
  8. ^ 小野田滋 2001, p. 123.
  9. ^ a b c 下山武夫 1931, p. 37.
  10. ^ 小野田滋 2014, p. 167.
  11. ^ 小野田滋 2014, p. 170.
  12. ^ a b c 柴垣寛 1966, p. 142.
  13. ^ a b c 柴垣寛 1966, p. 143.
  14. ^ a b 柴垣寛 1966, p. 144.
  15. ^ 柴垣寛 1966, p. 155.
  16. ^ 室城庸之 1960, p. 491.
  17. ^ 柴垣寛 1966, p. 145.
  18. ^ a b c d 柴垣寛 1966, p. 178.
  19. ^ a b c d e f g h i 八木田功 1969, p. 4.
  20. ^ a b c d e f 八木田功 1969, p. 5.
  21. ^ 寒川重臣 1969, p. 43,46.
  22. ^ a b 吉田忠司 & 丸山修 2008, p. 820.
  23. ^ 寒川重臣 1969, p. 46.
  24. ^ a b c d e 寒川重臣 1969, p. 41.
  25. ^ a b 土木学会 土木計画学ハンドブック編集委員会 2017, p. 484-485.
  26. ^ a b 土木学会 土木計画学ハンドブック編集委員会 2017, p. 486.
  27. ^ 土木学会 土木計画学ハンドブック編集委員会 2017, p. 484.
  28. ^ a b 八木田功 1969, p. 7.
  29. ^ a b c 成瀬英治 1992, p. 772.
  30. ^ “政策区域の構成市町村名一覧” (PDF). 国土交通省. pp. 1,3,5. 2023年7月20日閲覧。
  31. ^ a b 寒川重臣 1969, p. 44.
  32. ^ 中村正明 & 秋本邦雄 2001, p. 656.
  33. ^ 留目峰夫 2006, p. 2.
  34. ^ 街路事業（都市計画道路事業）一覧 - 札幌市
  35. ^ a b c 道路と鉄道の連続立体交差事業 (PDF) - 東京都 p.5
  36. ^ JR南武線（谷保駅 - 立川駅間） - 東京都
  37. ^ JR東日本南武線連続立体交差事業（矢向駅 - 武蔵小杉駅間） (PDF) - 川崎市 p.3
  38. ^ 鉄道高架事業 - 沼津市
  39. ^ JR武豊線半田駅付近連続立体交差工事着手のお知らせ (PDF) - 半田市
  40. ^ JR山陽本線東加古川駅付近連続立体交差事業 - 兵庫県
  41. ^ 広島市東部地区連続立体交差事業船越地区の工事説明会 (PDF) - 広島市
  42. ^ 令和5年3月定例会 - 松山市
  43. ^ a b c d e 大規模工事計画 (PDF) - 日本民営鉄道協会
  44. ^ 鐘ヶ淵地区まちづくりニュース臨時号 (PDF) - 墨田区
  45. ^ 東武鉄道伊勢崎線（とうきょうスカイツリー駅付近）連続立体交差事業 - 墨田区
  46. ^ 市報ひがしむらやま 令和5年9月15日号 (PDF) - 東村山市
  47. ^ 京成押上線 事業調査計画の見直し (PDF) - 東京都 p.2
  48. ^ 東横線・大井町線立体交差化の推進 - 目黒区
  49. ^ 令和5年度事務事業概要 (PDF) - 品川区 p.104
  50. ^ 富山地鉄本線高架化 当初の2年遅れで完成の見込み - チューリップテレビ
  51. ^ 名鉄名古屋本線鉄道高架化事業 (PDF) - 岐阜県 p.16
  52. ^ 名鉄名古屋本線（桜駅 - 本星崎駅間）連続立体交差事業 - 名古屋市
  53. ^ 知立駅付近連続立体交差事業の概要 - 知立市
  54. ^ これまでに受けた質問集 (PDF) - 豊田市 p.1
  55. ^ 都市計画対象事業の名称、目的及び内容 (PDF) - 堺市 p.12
  56. ^ 高師浜線工事施工方法変更説明会 (PDF) - 高石市 p.6
  57. ^ 阪急電鉄京都線・千里線連続立体交差事業の事業期間の見直しについて - 大阪市
  58. ^ 山陽電鉄本線高砂駅 - 荒井駅付近連続立体交差事業 - 兵庫県
  59. ^ 令和5年度予算執行査定の結果（概要） (PDF) - 奈良県 p.4
  60. ^ 西武新宿線 中井駅 - 野方駅間 事業調査計画の見直し (PDF) - 東京都

参考文献 編集

  • 岡野賢二、三宮隆、須藤勉「23区初の区施行による連続立体交差事業--東武伊勢崎線(竹ノ塚駅付近)」『土木施工』第48巻第8号、オフィス・スペース、2007年8月、28-32頁。 
  • 小野田滋「阿部美樹志とわが国における黎明期の鉄道高架橋」『土木史研究』第21巻、土木学会、2001年5月、113-124頁、doi:10.2208/journalhs1990.21.113。 
  • 小野田滋『関西鉄道遺産』講談社、2014年10月20日。ISBN 978-4-06-257886-8。 
  • 最新土木工事ハンドブック編集委員会「立体交差」『最新土木工事ハンドブック』建設産業調査会、1978年6月、804-808頁。 
  • 寒川重臣「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定及び概説」『新都市』第23巻第12号、都市計画協会、1969年12月、41-49頁。 
  • 柴垣寛『立体交差工事の設計と施工』 1巻（第1版）、山海堂〈鉄道土木シリーズ〉、1966年10月31日。 
  • 下山武夫「京阪電鉄京都地下線の建設工事」（PDF）『土木建築工事画報』第7巻第9号、土木学会附属土木図書館、1931年9月1日、37-43頁、2022年4月5日閲覧。 
  • 留目峰夫「連続立体交差関連公共施設整備事業を活用した市街地再開発事業の推進について」『市街地再開発』第435号、全国市街地再開発協会、2006年7月、2-4頁。 
  • 土木学会 土木計画学ハンドブック編集委員会「道路施設計画」『土木計画学ハンドブック』コロナ社、2017年3月31日、484-486頁。ISBN 978-4-339-05252-7。 
  • 中村正明、秋本邦雄「西武鉄道池袋線と目白通りの逆立体化切替工事」『日本鉄道施設協会誌』第39巻第8号、日本鉄道施設協会、2001年8月、656-658頁。 
  • 成瀬英治「連続立体交差化に関する運輸省・建設省間の協定締結について」『日本鉄道施設協会誌』第30巻第11号、日本鉄道施設協会、1992年11月、770-773頁。 
  • 古川淳三「神戸市街線高架改修工事に就いて」（PDF）『土木建築工事画報』第7巻第10号、土木学会附属土木図書館、1931年10月1日、38-43頁、2021年8月18日閲覧。 
  • 室城庸之「道路と鉄道との交差に関する建設省,日本国有鉄道協定の解説（上）」『道路』第233号、日本道路協会、1960年7月、491-495頁。 
  • 八木田功「鉄道高架事業(所謂連続立体交差事業)について」『新都市』第23巻第12号、都市計画協会、1969年12月、2-8頁。 
  • 吉田忠司、丸山修「連続立体交差化に関する手引書の改訂」『日本鉄道施設協会誌』第46巻第10号、日本鉄道施設協会、2008年10月、819-821頁。 

関連項目 編集

外部リンク 編集

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