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陰謀論(いんぼうろん)または陰謀説(いんぼうせつ)とは、ある出来事について、広く人々に事実として認められている公の情報やその解説とは別に、特定の組織や人物にとっての利益に繋がった策謀や事実の存在を指摘する呼称である。

陰謀を「謀略」と呼ぶことがあるように、陰謀論を「謀略論」と呼ぶ論者もある。

概要編集

「陰謀論」という用語が一般に認知され、盛んに用いられるようになったのは比較的最近のことであり、いわゆる「新語」に分類される。広辞苑第五版には採用されていない。

「陰謀論」「陰謀論者」という用語が、世間に広く流布・認知されるようになったのは、1963年ケネディ大統領暗殺事件以来のこととされる。ケネディ暗殺に関する政府の公式見解に疑いを持った人々に対し、嘲笑・敵意の対象として非難・中傷を行うことで封じ込めようと、それらを「陰謀論」「陰謀論者」であると、CIAがプロパガンダキャンペーンを行い大成功を収めた事実を、アメリカの政治科学者 Lance deHaven-Smith は指摘している。

「陰謀論」とされるのは、一般に、強い権力をもつ者(一もしくは複数の国家警察検察、あるいは大企業多国籍企業など巨大資本、マスコミ宗教団体エリートなど)が、宗教的・政治的・経済的動機を以て結託し、一定の意図を持って、一般人の見えないところで事象を操作し、または真実を衆目に触れないよう伏せている、とする指摘である。

副島隆彦は「コンスピラシー・セオリー(conspiracy theory)を「陰謀論」と訳すのは間違いで、「権力者共同謀議理論」と訳すべき」と提唱している。

陰謀史観という言葉の定義について、海野弘は「身のまわりに不思議な出来事が起こる。もしかしたら、それは偶然ではなくて、なにかの陰謀、(彼らの)企みではないだろうか。このような考えを『陰謀史観』という」とし、また、現代史家の秦郁彦は「特定の個人ないし組織による秘密謀議で合意された筋書の通りに歴史は進行したし、進行するだろうと信じる見方」と定義している[1]

デイビッド・アイクは、そうした不思議な出来事を全て「偶然」で片付けてしまう者達を、「偶然論者」と呼んで非難している。

陰謀論の中には宇宙人や地底人の陰謀によるものといったものもあるが、現実の社会について述べたものが社会に影響を与える場合もある。出自不明の怪文書が陰謀論を生んだ例があり、八戸事件は開国期の日朝関係に悪影響を与え、田中上奏文問題は国際連盟において中国日本を糾弾する根拠に利用され、シオン議定書ナチスによるホロコーストソ連スターリンによるユダヤ人迫害の正当化の論理として利用されたとされる。

一方で陰謀論は、丸谷元人によると言われた相手に対しキャラクター・アサシネーション英語版(誹謗中傷)の作用を持ち、相手の反対意見の封殺を目的とする手法として効果的に機能する、と述べている。この典型的な現れは「そんなことを言っていると信用を失うよ」に見られる。この言葉を反対論者に向けて、現代史家までが使っている[2]

陰謀と陰謀論編集

陰謀そのものの歴史は古代より多くの文献に残されており、これは国制に対する大逆や叛逆の文脈で記述されてきた。国家に対する陰謀は東洋では陳勝・呉広の乱があり、ローマでは聖山事件が著名であり、これらは国家や国制に対する反逆として法制史の検討対象として扱われてきた。18世紀から活発に展開されるようになった労働運動や社会主義運動といった一連の改革運動もまた合同反抗(conspiracy)の文脈で当初は重処罰の対象とされ、民衆が示し合わせることの危険性は一貫して認識されていた。一方で他国や他の民族集団を攻撃し、混乱させる意図で流布される「陰謀論」の歴史については史学上の研究はほとんど行われておらず学術的には漠然とした認識にとどまる状況である。

2008年現在では現実問題として、諜報機関などによって日々陰謀(謀略)は行われており、諜報機関同士で謀略のしかけあい(諜報合戦、工作合戦)が行われている、と元公安調査官野田敬生は自身の活動経験から述べている[3]

どうすれば陰謀に関する見当違いの説をそれと見分けられるか、ということについて野田は「もしある説が、あるひとつの組織が世界の全てを支配している、などと主張しているならば、それは事実ではないと判断できる、世界は非常に複雑で、常にどの組織にとっても計算不能(予測不能)な事態が起きているので、とても全ては支配できない、また時には、ある結果を引き起こそうとして工作活動を行っても、意図したところと反対の結果を生んでしまうことも起きる。逆に言えば、陰謀は世界の一部の限定的な地域・組織・領域に対しては相当程度の影響力を及ぼすことがある」としている[3]

「諜報機関では工作活動だけでなく情報戦も行っており、自ら行った犯行が世間から追及されることをかわすために、情報操作も行っている。みずから突拍子もない説をいくつも流すこともあるという。暗殺などを実行した時でそれがマスコミなどに目をつけられ記事が書かれるようになったら、とんでもないような説をいくつも流す。すると、ひとつの事件について、メディアで怪しげな説がいくつも語られるようになる。中には、暗殺された人物について「殺されたのではなく自作自演の自殺だ」などという説が流れることもある。そうなっている状態というのは諜報機関にとって好都合だという。というのは、ある人物が殺されたということに関する真実はひとつしかないにもかかわらず、怪しげな説がいくつも流れることによって、まさに黒幕となった組織の関与を疑うまっとうな説であっても、相対的にその説の重みが減じてしまう。やがて人々はいくつもの怪しげな説を聞かされることにうんざりしてしまい、次第に関心を失い、事件は風化してゆくためである[3]

脆弱性編集

陰謀論の支持者は、検証や反証により棄却された仮説であっても、検証や反証に捏造された資料が関係していると論じたり検証や反証過程そのもの、関わる人物や機関に陰謀が関与しているなどと指摘し棄却に同意せず(このこと自体は学術的な態度として必ずしも誤りではないが)、よって棄却された仮説をも結論的な証拠として積極的に採用したり、検証や反証過程に「陰謀が絡んでいた」ことが棄却された陰謀論を正当であると補完する根拠になったとすることがある。循環論法参照。

一方で、検証の積み重ねを経ることで、事実や通説として認識される陰謀論もある。また、陰謀論の主張根拠だという理由で、客観的事実が無視されたり隠されたりすることもある。

事件の背景編集

陰謀論は、ある事件に対する政府等の対応や説明の「不可解な部分」を補足説明するものとなる場合がある。日本航空123便墜落事故ジョン・F・ケネディ暗殺に関する陰謀説がその例とされる。

ある団体や個人に対する侮辱や攻撃、人種差別思想弾圧の背景・動機となる陰謀論もある。例えばナチスのユダヤ人迫害はシオン賢者の議定書に基づくとされる。

悪意を持って発生するものもある。例えば反ユダヤ主義に基づくユダヤ陰謀論などの民族差別正当化等である。

ある組織、あるいは対立する複数の組織にとって不都合な情報が明るみに出た場合、陰謀論で説明される事がある。実際に起こった例としては大韓航空機爆破事件における、北朝鮮側が主張した「韓国による自作自演説」など。冷戦時代においてはCIAKGBの間で陰謀論の応酬が展開された。

オウム真理教による坂本堤弁護士一家殺害事件では「我々を陥れる為に公安(又は他の宗教団体)が仕組んだもの」等の陰謀論を主張したが、これは自らの犯罪を隠蔽する為であった。

自説が認められない場合の理由付けとして編集

学会やマスコミ等で自説が認められない場合、自説の根拠の証明の責任(立証責任)を他所、他者に責任転嫁するという手段で、陰謀論はその理由を正当化する根拠となる事がある。宇宙人、心霊現象、超能力といったオカルト分野や、いわゆる疑似科学永久機関、超高効率エンジン、常温核融合、反相対性理論等)や偽史超古代文明宇宙考古学古史古伝等)が認められない理由付けに利用される場合もある。そのため、一つの陰謀論を唱えていた人間が、複数の陰謀論を主張し出すことがあるとされる。

その他の概念の生じた理由編集

前述の諸性質もあり、信仰や思想、価値観や主義、主張、体制と反体制、マイノリティマジョリティなどいかなるスタンスとも結びつきうる概念であり、しばしばそれらが生じた理由を説明する場合がある。

主な陰謀論編集

陰謀論を参考にして作られた大衆娯楽編集

陰謀論を参考にして制作された大衆娯楽には、さまざまなものがある。大衆娯楽にて扱われる場合、有名なものがモチーフとされることが多い。陰謀論の扱い方には、以下のような種類がある。

  • アクセントのひとつとして取りあげたもの
  • おおむねフィクションとして扱うもの
  • 歴史的な事実と陰謀論を織り交ぜ、作られたもの
  • 実際の出来事や実在した陰謀を下敷きに、それをフィクションとして再考証したもの
  • 陰謀論の実現により生じる現在や未来を扱ったもの

一方で、これらフィクションの陰謀を、陰謀論を補強するものとして指摘されることもある。アメリカ同時多発テロ事件以前にいくつかあった「ビルに旅客機が突入する」という情報は、事前に計画されていたという指摘に用いられることがある。

出典・脚注編集

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  1. ^ 秦郁彦『陰謀史観』(新潮新書)P.8
  2. ^ p98,99『日本軍は本当に残虐だったか』丸谷元人 ハート出版 2014年
  3. ^ a b c 野田敬生『心理諜報戦』ちくま新書。「謀略と謀略論」の章

関連書籍編集

  • 海野弘『陰謀の世界史』文藝春秋、2002年、ISBN 4-16-358770-5;文藝春秋〈文春文庫〉、2006年、ISBN 4-16-767976-0
  • 秦郁彦『陰謀史観』新潮新書、2012年
  • 『現代アメリカの陰謀論』 M・バーカン、林和彦訳、三交社 (現代アメリカの代表的な各種陰謀論と陰謀をもたらす文化について詳しい) ISBN 4-87919-157-4
  • 『ケースD ―見えない洪水―』 糸川英夫と“未来捜査局”(メジャー企業のグループに経済を握られ存立している世界と、その世界秩序が崩壊するような事態が生じたらどうなるか、をシミュレーションした小説) CBSソニー出版、初版は1978年 2000年の角川文庫版はISBN 4-04-149101-0
  • 「ポストモダニズムにおけるパラノイア的陰謀-エーコの「フーコーの振り子」とピンチョンの諸作品」村上恭子(高岡短期大学紀要富山大学)[1]
  • 「欧米の陰謀論の日本における受容と変容」辻隆太朗(宗教研究 日本宗教学会)[2]
  • 「キリスト教ファンダメンタリズムと陰謀論」辻隆太朗(「宗教と社会」学会要旨2006.6.3)[3]PDF-P.9
  • 「救出カウンセリングの論理と宗教の社会的位置レジュメ」渡邊太(南山大学2004年12月11日)[4]
  • ドービニェの自伝をめぐって : アンボワーズ陰謀事件」高橋薫(論集 The semiannual periodical of the Faculty of Foreign Languages 駒澤大学)[5]

関連項目編集