グランドスラム英語: Grand Slam)は国際柔道連盟主催の柔道の大会

沿革

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2009年のIJFワールド柔道ツアー導入に伴い開始。「フランス国際柔道大会」、「ブラジル国際柔道大会」、「ロシア国際柔道大会」、「嘉納治五郎杯東京国際柔道大会」がそれぞれ「グランドスラム・パリ」、「グランドスラム・リオデジャネイロ」、「グランドスラム・モスクワ」、「グランドスラム・東京」と名称変更され、その他の国際大会より上位の位置づけとなった。

2013年からはグランドスラム・リオデジャネイロに代わって、「グランドスラム・バクー」がグランプリ大会からグランドスラム大会に昇格した。また、2014年にグランドスラム・モスクワはチュメニ開催に変更された。さらに「グランドスラム・アブダビ」も新たに加わり、これでグランドスラム大会は年5回開催されることになった[1]。2018年からは「グランプリ・デュッセルドルフ」もグランドスラム大会に格上げされることが決まった[2][3]

2018年7月にIJFはグランドスラム・アブダビグランプリ・チュニスに対して、政治によるスポーツへの不干渉の原則に鑑みて、イスラエルの選手を他の国同様に国旗の表示や国歌の演奏などで平等に扱うように要求したものの明確な回答が得られなかったために、今後に予定されていた両大会の延期を発表した[4][5]。しかし、9月になってアブダビ当局がイスラエルを含めた全ての国を平等に扱うと通達してきたため、キャンセルになっていたグランドスラム・アブダビ大会が当初の予定通り10月に開催されることになった[6][7]

2019年には2012年以来途切れていたブラジルでのグランドスラム大会開催が、ブラジリアで再開されることに決まった。なお、財政難で一旦は開催返上と報じる向きもあったが、予定通り開催されることになった[8][9]。そのため、2019年はグランドスラム大会が7大会も開催されることになった[10]

2022年ウクライナ侵攻

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2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻した件を受けてIJFは、5月にロシアのカザンで開催予定だったグランドスラム・カザン2022を中止することに決めた。なお、IOCは各競技団体にロシア及びその協力者であるベラルーシで開催される競技大会を取り止めるように呼び掛けていた[11][12][13]

IJFはパリオリンピックに向けたポイント争いの開始となる2022年のグランドスラム・ウランバートルから、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で大会参加が中断されていたロシアとベラルーシの選手が、中立の立場で参加することを認めた。IJF会長のマリウス・ビゼールは、「柔道は教育のスポーツ。政治的な干渉や、いかなる形の差別も常に避けるよう努力してきた」と、この決定について説明した[14]

一方で、ウクライナの元世界チャンピオンであるゲオルグリー・ザンタラヤはこの決定を強く非難するとともに、いかなる形にせよロシアの参加を認めるなら、自分が今まで獲得してきた世界チャンピオンやその他の称号を全て放棄すると語った[15]。さらにウクライナ柔道連盟は、ロシアとベラルーシの選手による大会出場が認められる限り、ウクライナの選手はIJFワールド柔道ツアーへの参加を拒否することを明らかにした。軍やスポーツ省から給与を得ているロシアとベラルーシの選手は中立の立場たりえず、さらに、IOCもロシアとベラルーシの選手の除外を推奨しているにもかかわらず彼らの大会参加を認めることは、以ての外だとしている。なお、グランドスラム・ウランバートルにIJF名義で出場したロシア選手のうち、11名がロシア軍に直接関連していると、ウクライナ柔道連盟は指摘した。これに対して、IJFは前言を繰り返してウクライナの要求を退けた[16][17][18]

特徴

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世界ランキングのポイント対象大会として、順位に応じてポイントが付与される。なお、この大会には以下のような特徴がある[19][20][21]

  • 大会に出場するためには段位を有しており、なおかつジュニアないしはシニアの世界選手権大陸選手権、あるいは過去2年の間にコンチネンタルオープンに1度は出場していることが最低限の参加条件となる。
  • 主催国からは各階級4名、主催国以外からは2名まで選手を参加させることが出来る。但し、主催国から出場した選手の場合、上位に位置した2名までしかポイントは付与されない(主催国で出場した選手のうち、優勝と3位2名という結果になった場合は、3位になった2名のうち直前のランキングが上位だった方にポイントが与えられることになる)。
  • 出場選手のうち世界ランキングの上位8名はシードされる。32名以上の出場選手がいる場合、シード選手は初戦が免除される。
  • 2009年から2012年まで敗者復活戦は設けられていなかったが、2013年からは導入されることになった。準々決勝で敗れた選手は敗者復活戦に回れるが、それ以前に敗れた選手はその時点で試合終了となる。
  • 優勝者には5000ドル、2位には3000ドル、3位には1500ドルが授与される。2015年の大会からはメダリストの他にそのコーチにも賞金が支給されることになった。そのため、メダリストの賞金は従来より2割減となる(優勝者に4000ドル、そのコーチに1000ドル、2位に2400ドル、そのコーチに600ドル、3位に1200ドル、そのコーチに300ドル)[22]
  • 試合の模様はIJFIppon.TVでライブ中継される。

獲得ポイント

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順位 ポイント
優勝 1000
2位 700
3位タイ 500
5位タイ 360
7位タイ 260
ベスト16 160
ベスト32 120
1試合勝利 100
参加ポイント 10

グランドスラム大会を全制覇した選手

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 選手  優勝した大会
  中村美里 グランドスラム・モスクワ2009
グランドスラム・東京2009
グランドスラム・パリ2010
グランドスラム・リオデジャネイロ2010
  松本薫  グランドスラム・モスクワ2009
グランドスラム・パリ2010
グランドスラム・リオデジャネイロ2010
グランドスラム・東京2010
  小野卓志  グランドスラム・モスクワ2009
グランドスラム・東京2009
グランドスラム・パリ2010
グランドスラム・リオデジャネイロ2011
  福見友子  グランドスラム・モスクワ2009
グランドスラム・東京2009
グランドスラム・リオデジャネイロ2010
グランドスラム・パリ2012
  西田優香  グランドスラム・リオデジャネイロ2009
グランドスラム・モスクワ2010
グランドスラム・東京2010
グランドスラム・パリ2012

上記の5名の記録はグランドスラム大会が4大会時代に達成された記録。2014年からは5大会となったが、そのすべてに勝った選手は現在のところいない。ただし、中村美里は5つの異なる都市で開催されたグランドスラム大会を制している(2014年からロシア開催のグランドスラムはモスクワからチュメニに移った。中村は2014年にそのチュメニで優勝を飾った)[23]

メダル獲得選手上位一覧

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順位  選手 国籍 金メダル 銀メダル 銅メダル 総計
1 阿部一二三   日本 12 1 0 13
2 高藤直寿   日本 11 2 1 13
永山竜樹   日本 11 2 1 13
4 オドレー・チュメオ   フランス 9 1 7 17
5 テディ・リネール   フランス 9 0 0 9
6 新井千鶴   日本 8 4 4 16
7 田知本愛   日本 8 2 4 14
8 クラリス・アグベニュー   フランス 8 1 1 10
9 ムンフバット・ウランツェツェグ   モンゴル 7 6 5 18
10 ティナ・トルステニャク   スロベニア 7 5 5 17

(出典[24]、JudoInside.com)

優勝者の年齢

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Category 男子 女子
最年少優勝
最年少メダリスト
最年長優勝
最年長メダリスト

(出典JudoInside.com)

各国メダル数

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国・地域
1   日本 397 218 328 943
2   フランス 126 104 221 451
3   ロシア 66 83 165 314
4   ジョージア 59 51 99 209
5   韓国 54 49 107 210
6   ブラジル 51 89 152 292
7   オランダ 48 64 113 225
8   モンゴル 43 54 115 212
9   アゼルバイジャン 39 46 93 179
10   ドイツ 34 54 128 216
11   ウズベキスタン 31 34 98 163
12   カナダ 30 28 55 113
13   イスラエル 29 27 85 141
14   イタリア 25 28 39 92
15 IJF 23 16 19 58
- 中立選手(AIN) 23 11 31 65
16   イギリス 20 21 40 81
17   スペイン 18 27 60 105
18   中国 18 15 42 75
19   ベルギー 16 12 37 65
20   コソボ 16 12 15 43
21   スロベニア 14 15 33 62
22   ポルトガル 14 12 38 64
23   ハンガリー 13 28 64 105
24   オーストリア 13 12 34 59
25   ウクライナ 11 14 34 59
26   スウェーデン 11 4 17 32
27   カザフスタン 10 20 62 92
28   セルビア 10 15 30 55
29   タジキスタン 9 15 22 46
30   トルコ 9 12 33 54
31   ルーマニア 8 10 18 36
32   モルドバ 7 3 9 19
33   ギリシャ 7 2 7 16
34   クロアチア 6 16 26 48
35   キューバ 5 16 43 64
36   アラブ首長国連邦 5 7 16 28
37   スイス 5 7 8 20
38   チャイニーズタイペイ 3 10 7 20
  アメリカ合衆国 3 10 7 20
40   ポーランド 3 9 32 44
41   ベラルーシ 3 9 9 21
42   チェコ 3 6 15 24
43   アルゼンチン 2 4 5 11
44   コロンビア 2 2 2 6
45   イラン 2 1 3 6
46   フィンランド 2 1 2 5
47   チュニジア 1 7 7 15
48   ブルガリア 1 5 7 13
49   アルメニア 1 4 3 8
50   ボスニア・ヘルツェゴビナ 1 1 5 7
51   キルギス 1 1 4 6
52   メキシコ 1 1 1 3
53   エジプト 1 0 5 6
54   北朝鮮 1 0 2 3
  トルクメニスタン 1 0 2 3
56   パナマ 1 0 0 1
57   ベネズエラ 0 3 12 15
58   オーストラリア 0 2 7 9
59   ラトビア 0 2 3 5
60   リトアニア 0 1 5 6
61   アルジェリア 0 1 4 5
  プエルトリコ 0 1 4 5
63   アイルランド 0 1 1 2
64   ルクセンブルク 0 1 0 1
65   エストニア 0 0 4 4
66   ブルネイ 0 0 3 3
67   カメルーン 0 0 2 2
  ギニアビサウ 0 0 2 2
  フィリピン 0 0 2 2
70   アルゼンチン 0 0 1 1
  チリ 0 0 1 1
  キプロス 0 0 1 1
  ドミニカ共和国 0 0 1 1
  エクアドル 0 0 1 1
  モロッコ 0 0 1 1
  モンテネグロ 0 0 1 1
  スロバキア 0 0 1 1

脚注

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  1. ^ Grand Slam
  2. ^ “Grand Prix Düsseldorf gets Grand Slam status in 2018”. http://judoinside.com/news/1818/Grand_Prix_Dusseldorf_gets_Grand_Slam_status_in_2018 
  3. ^ Düsseldorf Upgraded to a Grand Slam
  4. ^ 国際大会2試合を保留=柔道 - ウェイバックマシン(2018年7月21日アーカイブ分)時事通信 2018年7月21日
  5. ^ IJF suspends U.A.E and Tunisia events
  6. ^ アブダビ大会を実施へ=柔道 - ウェイバックマシン(2018年9月5日アーカイブ分)時事通信 2018年9月4日
  7. ^ “U.A.E. to Let Israelis Play Under National Flag at Judo Competition”. https://www.bloomberg.com/news/articles/2018-09-03/u-a-e-to-allow-israelis-to-display-insignia-at-judo-competition 
  8. ^ “Grand Slam Brasilia about to be cancelled”. https://www.judoinside.com/news/3534/Grand_Slam_Brasilia_about_to_be_cancelled 
  9. ^ “Grand Slam Brasilia confirmed for two years”. https://www.judoinside.com/news/3535/Grand_Slam_Brasilia_confirmed_for_two_years 
  10. ^ Finally GP de Géorgie Brazil returns to IJF World Judo Tour with newly-signed Brasilia Grand Slam
  11. ^ “柔道グランドスラム、5月開幕のロシアでの大会中止”. 読売新聞. (2022年2月26日). https://www.yomiuri.co.jp/sports/etc/20220226-OYT1T50085/ 
  12. ^ ロシア、ベラルーシでの大会中止を要請 IOC - ウェイバックマシン(2022年2月26日アーカイブ分)時事通信 2022年2月26日
  13. ^ “IJF cancels Judo Grand Slam Kazan”. https://www.judoinside.com/news/5172/IJF_cancels_Judo_Grand_Slam_Kazan 
  14. ^ “ロシア選手、GS参加へ 国際柔道連盟”. 時事通信. (2022年6月11日). https://www.jiji.com/jc/article?k=2022061100288 
  15. ^ “Georgii Zantaraia condemns IJF decision to allow Russian athletes”. https://www.judoinside.com/news/5379/Georgii_Zantaraia_condemns_IJF_decision_to_allow_Russian_athletes 
  16. ^ “ウクライナがボイコット ロシア参加の五輪予選/柔道”. サンケイスポーツ. (2022年6月26日). https://www.sanspo.com/article/20220626-IDIBZS3DZ5JPPOGOG6IN4J6PCA/ 
  17. ^ “Ukraine refuses to participate in first Olympic Qualification in Ulaanbaatar”. https://www.judoinside.com/news/5392/Ukraine_refuses_to_participate_in_first_Olympic_Qualification_in_Ulaanbaatar 
  18. ^ “Ukraine refuse to participate alongside Russian and Belarusian neutrals at IJF events”. https://www.insidethegames.biz/articles/1124528/ukraine-refuse-ijf-neutrals 
  19. ^ Sports and Organization Rules Edition July 2010
  20. ^ Information Grand Slam and Grand Prix
  21. ^ IJF - Events Overview 2013-2016
  22. ^ Information
  23. ^ Misato Nakamura
  24. ^ judobase.org