強制性交等罪

強姦罪から転送)

強制性交等罪(きょうせいせいこうとうざい)とは、暴行又は脅迫を用いるなど、一定の要件のもとで性器を被害者の性器、肛門又は口腔へ挿入する行為(強制性交等)を内容とする犯罪類型。刑法177条から180条に定められる。性犯罪の中で最も重い犯罪とされる。かつては被害者が女性の場合のみに限定されていた強姦罪(ごうかんざい)が存在したが、2017年(平成29年)7月13日に、男性が被害者の場合を含む性別不問の強制性交等罪の規定が設けられたことに伴い、強姦罪は廃止され、強制性交等罪がその役割を引き継いだ。

強制性交等罪
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法律・条文 刑法177条
保護法益 性的自由
主体 人間
客体 人間
実行行為 強制性交等
主観 故意犯
結果 結果犯、侵害犯
実行の着手 強制性交等の目的をもって、人間に対して暴行又は脅迫に及んだ時点。
既遂時期 性器、肛門又は口腔への一部挿入時点
法定刑 5年以上20年以下の懲役
未遂・予備 未遂罪(180条)
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目次

強制性交等罪編集

暴行又は脅迫を用いて13歳以上の人に性交肛門性交又は口腔性交(「性交等」)、または、13歳未満の人間に性交等をすることを内容とする犯罪である。

主体編集

相手の意思に反して性交等を行う者であり性別を問わない。

平成29年改正以前、強姦罪は真正身分犯(構成的身分犯)である(最判昭和40年3月30日刑集19巻2号125頁)ので、原則として男性であり、女性は強姦の実行行為である姦淫を行うことはできない(女性は単独で直接正犯となりえない)と解されていた。一方、刑法65条1項により、男性でなくとも(身分がなくとも)共犯にはなり得、女性が男性と共謀して被害者を押さえつけたり(共同正犯)、女性が別の女性を強姦するよう男性に依頼した場合(教唆犯)などが共犯の具体的な例とされていた。

客体編集

自己の意思に反して性交等の対象となる者であり性別を問わない。

平成29年改正以前、日本では強姦罪の客体は女性に限定されており、男性の性的自由を侵害しても、強姦罪は適用されず、どんな場合であれ強制わいせつ罪が適用された。これは相手の男性が13歳未満であっても同様であった。

行為編集

暴行・脅迫編集

強制性交等の手段としての暴行又は脅迫の存在が必要である。

判例によれば、旧強姦罪の暴行・脅迫については「相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであれば足りる」として、強盗罪の場合のような、相手方の反抗を不能にする程度までの暴行・脅迫でなくともよいとする(最判昭24年5月10日刑集3巻6号711頁)。現在の判例・解釈の主流は、この判決を基本にしている。

(相手方が13歳未満の者の場合)

相手方が13歳未満の者の場合は、脅迫・暴行がなく、または同意があったとしても強制性交等罪を構成する(刑法177条後段)。判断能力の未熟な青少年を法的に保護する趣旨である[1]。 ただし、相手が13歳以上だと思い込み、または18歳以上だと虚偽の申告をされ、同意の上で性交した場合は、強制性交等罪の構成要件にあたる事実の認識がないため、故意が認められず本罪は成立しない。法定強姦の項目も参照。

性交等編集

平成29年改正において、行為類型が「女子を姦淫した」から「(性別を問わず人に対して)性交、肛門性交又は口腔性交(「性交等」)をした」に改められた。

性交は、平成29年改正前における女性への姦淫を含み、男性器の女性器に対する一部挿入で既遂に達し、妊娠および射精の有無は問わない(大審院大正2年11月19日判決以後の確定した判例・実務)。

平成29年改正前の行為類型である姦淫の定義の下では、『女性による強姦、男性への強姦には、たとえ性器の著しい損傷があったとしても強姦罪は適用されない(先述)。同様に、男性による淫具を用いた性暴力も強姦罪では処罰されない。また、アナルセックスは、被害者が女性であっても強姦罪の適用範囲外である。これらの場合は、暴行罪か強制わいせつ罪で処罰されることになる。[独自研究?]』なる解釈があったが、改正後は、女性側からの性交、性別を問わない肛門性交又は口腔性交も強制性交等罪を構成することになった。

準強制性交等編集

暴行・脅迫によらない場合も、心神喪失・抗拒不能に乗じ、又は心神喪失・抗拒不能にさせて性交等をした場合は、準強制性交等が成立する(刑法178条2項)。なお、平成29年改正にあわせ、以下の判例等において、「女性」を「人」、「姦淫」を「性交等」、「準強姦罪」を「準強制性交等罪」と適宜読み替えている。

心神喪失とは、精神的な障害によって正常な判断力を失った状態をいい、抗拒不能とは、心理的・物理的に抵抗ができない状態をいう。睡眠・飲酒酩酊のほか、著しい精神障害や、知的障害にある人に対して性交等を行うことも準強制性交等罪に該当する(福岡高裁昭和41年8月31日高集19・5・575)。医師が、性的知識のない人に対し、薬を入れるのだと誤信させて性交等に及ぶのも準強制性交等罪となる(大審院大正15年6月25日判決刑集5巻285頁)。

なお、犯人が暴行や脅迫を用いて被害者を気絶(心神喪失)させ、性交等に及んだ場合は、準強制性交等罪ではなく強制性交等罪となる。ただし、「準強制性交等罪」と「強制性交等罪」は共に同一の法定刑となっているため、区分にあまり大きな意味はない。

集団強姦罪(廃止)編集

2人以上の者が共同して強姦(準強姦含む)した場合、平成16年刑法改正で『集団強姦罪(刑法178条の2)』として法定刑が加重されていた。なお、集団強姦罪の場合は、性別不問で実際に性行為に参加していなくても、その場に居れば刑罰が成立していた[2]

この規定は、暴力的性犯罪に関する国民の規範意識に鑑み、集団による強姦・準強姦という悪質性[3]に対して従来の強姦罪等よりも厳しい刑罰を課す趣旨で設けられたものであるが、平成29年改正により強制性交等罪・準強制性交等罪の法定刑の下限が引き上げられ集団強姦罪の法定刑の下限を超えることとなったのでる形で改正法に吸収される形となり廃止された。

監護者性交等編集

平成29年改正において、18歳未満の者に対して、その者を現に監護する者(監護者)であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、強制性交等罪の罪が問われることなった(第179条第2項)。なお、同条第1項には、監護者が性交等に至らずともわいせつな行為に及んだ者は、強制わいせつの罪に問われることが規定されている[4]

立法趣旨編集

不同意のわいせつ乃至性交等であっても、監護者と被監護者の間では、脅迫・暴行の事実が認められず、かつては、強姦罪等よりも法定刑が低い児童福祉法違反等で処分された例が少なからず見られた。しかし、こうした事案の中には、監護者の庇護がなければ被監護者が生活上の不利益を大きく受けるなど、監護者の要求を拒絶しがたいという事情があるなど、脅迫・暴行と同一視すべきものも見られ、また、監護者が自らの欲望について被監護者を縦にするという社会倫理として悖る面も見られることから、影響力に乗じて性交等を行った場合、強制性交等と同一視したものである。

監護者編集

本条項の主体は、「現に監護する者」であり、真正身分犯である。

「現に監護する者」の範囲は、民法第820条による親権の効果としての「監督保護」を行う者をいい、法的権限に拠らなくてもそれと同等の監督保護を行う者を含む。具体的には養親に加え、養護施設等の職員が含まれ得る。一方で、教師等は、この立場から除かれると解されている。

影響力があることに乗じて編集

「影響力があることに乗じて」は、明示的に示される必要はなく、暗黙の了解でも足りる。「影響力があることに乗じて」いない例としては、監護者であることを隠匿して性交等に及ぼうとした場合が挙げられている。

強制性交等致死傷罪編集

従前から強制わいせつ乃至強姦の機会に被害者に外傷を生じさせたり死亡させた場合、結果的加重犯として重い犯罪類型を構成していた。平成29年改正においても同趣旨は継続されている。以下、平成29年改正にあわせ、判例等において、「女性」を「人」、「姦淫」を「性交等」、「強姦罪」を「強制性交等罪」となどと適宜読み替えている。

結果的加重犯編集

強制性交等罪を犯し、それによって被害者を死亡・負傷させた場合は、強制性交等致死傷罪(刑法181条2項)が成立し、無期又は6年[5]以上の懲役に処せられる。強制性交等に着手しその途中で致死傷を負わせれば、強制性交等は未遂でも、強制性交等致死傷罪が既遂で成立する[6]

処女を強姦し、処女膜を破裂させた場合は強制性交等致傷罪に当たる[7]。また、性交等の行為自体や、性交等の手段である暴行・脅迫によって傷つけられた場合のほか、強制性交等をされそうになった人が逃走を図り、その途中で体力不足などのために倒れたり、足を踏み外して怪我をした場合などもこの強制性交等致傷罪が成立するとされている[8]。また、この罪が成立するための「傷害」の程度については、「強姦行為を為すに際して相手方に傷害を加えた場合には、たとえその傷害が、「メンタム一回つけただけで後は苦痛を感ぜずに治」つた程度のものであつたとしても」罪が成立するとされている[9]

なお、強制性交等致傷罪には同時傷害の特例の適用はないとした下級審の判決がある[10]

殺意がある場合編集

殺意をもって人に性交等をし、死亡させた場合、どの条文が適用されるかについて争いがある。まず、181条2項に殺意がある場合を含むと考えるか否かに分かれる。

181条2項は結果的加重犯である点を重視し、殺意がある場合を含まないという説は更に、強制性交等致死罪と殺人罪観念的競合となるという説と、強制性交等罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。判例は前者の説をとっている(大判大正4年12月11日刑録21輯2088頁、最判昭和31年10月25日刑集10巻10号1455頁)。判例に対しては、死の結果を二重評価することになるとの批判があり、結局殺人罪で処断されて刑の不均衡を生じないのであるため、後説によるべきとの指摘がある[11]

一方、181条2項には殺意がある場合を含むという説は更に、強制性交等致死罪の単純一罪であるという説と、刑のバランスを考えて[12]、強制性交等致死罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。

未遂等・強盗強制性交等罪編集

性交等行為の開始、あるいはその手段としての暴行・脅迫が開始した時点で強制性交等罪の実行の着手があったといえ、性交等が既遂とならなくても、強制性交等未遂罪(刑法177条、180条)が成立し、既遂と同一の法定刑で処罰される。

また、強制性交等の故意が認められない場合でも、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪(刑法176条・178条1項)が成立し得る。

強盗犯人が口封じなどの目的で強制性交等に及ぶケースもあることから、別途強盗強制性交等罪(刑法241条)が定められている。

親告罪編集

平成29年改正以前は、強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ罪及び準強姦罪は親告罪であり、被害者(又はその法定代理人等)の告訴がなければ公訴を提起することができなかった(平成29年改正前刑法180条1項)。これらの犯罪の追及は、社会的評判の失墜などかえって被害者の不利益になることもあったため、訴追するか否かを被害者の意思によることとしたものである。なお、強姦罪は犯人と被害者の間の一定の関係は問わないため、絶対的親告罪に該当していた。

一方、親告罪であることが、かえって被害者の心理的負担となることや、被害者の選択に拠らせることにより、加害者の逆恨みからの復讐の標的となりかねないなどの問題点[13]があるとするのが政府見解であり、被害者のプライバシーなどの厳格な保護は、別途刑事手続き・裁判手続きにおいて対処されるものとし[14]、性犯罪に関しては非親告罪とした。

親告罪から非親告罪へ編集

強姦致死罪、強姦致傷罪は、立法当時より、非親告罪であるため、告訴の有無に拘らず公訴を提起することができた。また、集団による強姦行為(輪姦)等は性的倫理感から照らして異常な行為であるとの認識があり、昭和33年改正において既に非親告罪となっていた。

2000年(平成12年)法律第74号の改正により、強姦罪等については6か月の告訴期間が廃止された(刑事訴訟法235条1項)。

2015年(平成27年)8月6日、性犯罪の厳罰化を議論してきた日本国政府の有識者会議では、被害者の告訴がなくても罪に問えるようにするべき[15]だとの意見が多数であった[16]

2015年(平成27年)10月9日の法制審議会への改正諮問の案に、強姦罪等の非親告罪化が盛り込まれた。

法定刑編集

未遂の場合も原則として既遂と同一の法定刑が適用される。ただし法定刑の下限でも重いと思われる場合は、減軽される。また、中止未遂は刑が必ず減軽されまたは免除される。

強制性交等罪・準強制性交等罪・監護者性交等罪
5年以上20年以下の有期懲役(刑法177条、178条2項、179条2項)
(参考)強姦罪・準強姦罪 3年以上20年以下の有期懲役(刑法177条、178条2項)
強制性交等致死傷罪・準強制性交等致死傷罪・監護者性交等罪致死傷罪
無期又は6年以上30年以下の有期懲役(刑法181条2項)
(参考)強姦致死傷罪・準強姦致死傷罪 無期又は5年以上30年以下の有期懲役(刑法181条2項)
強盗・強制性交等罪
無期又は7年以上30年以下の有期懲役(刑法241条前段)
(参考)強盗強姦罪 無期又は7年以上30年以下の有期懲役(刑法241条前段)
強盗・強制性交等致死罪
死刑又は無期懲役(刑法241条後段)
(参考)強盗強姦致死罪 死刑又は無期懲役(刑法241条後段)
集団強姦罪・集団準強姦罪 平成29年改正にて廃止
4年以上20年以下の有期懲役(平成29年改正前 刑法178条の2)
集団強姦致死傷罪・準強姦致死傷罪 平成29年改正にて廃止
無期又は6年以上30年以下の有期懲役(平成29年改正前 刑法181条3項)

罪数に関する判例編集

  • 強盗犯人が強制性交等し、よって負傷させた場合、強盗・強制性交等罪単純一罪である(大判昭和8年6月29日刑集12巻1269頁)。
  • 強姦犯人が強制性交等後に強盗の故意を生じて金品を強取した場合、強制性交罪と強盗罪併合罪となる(最判昭和24年12月24日刑集3巻12号2114頁)。
  • 強盗犯人が強制性交等し、故意に殺害したときは、強盗殺人罪と強盗・強制性交等罪の観念的競合となるとしている(大判大正10年5月13日刑集14巻514頁)が、争いがある。詳しくは強盗・強制性交等罪を参照。

裁判実務編集

判例によれば、強制性交等罪の暴行・脅迫については「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りる」として、強盗罪にいう暴行・脅迫のような「相手方の抗拒を不能ならしめる程度」までの強度でなくともよいとする(最判昭24年5月10日刑集3巻6号711頁)。現在の判例・解釈の主流は、この判決を基本にしたものがほとんどとなっている。

裁判実務における問題点編集

  • 被疑者・被告人となった男性が合意(いわゆる和姦)であったと主張する場合、被害者および検察側が暴行・脅迫の事実や、被害者が抵抗した事実の立証を強いられる困難に関する論議は尽きていない。
  • 性行為に至る経緯を詳細に調査しないと、合意の有無を判断することは難しい。また、性行為が行われる状況では、通常、目撃者が少ないといった問題もある。

平成29年改正編集

平成16年改正まで編集

政府・与党のプロジェクトチームは2003年9月25日に会合を開き、

  1. 強姦罪の法定刑を「2年以上の懲役」から「3年以上の懲役」に引き上げる(2年と3年の差は、執行猶予との関係で意味を持つことを期待してのものであり、3年を超過すれば執行猶予がなくなる[17]点で大きな差が生まれる。刑法25条参照。)
  2. 集団強姦罪を新設し、4年以上の懲役とする

などを盛り込んだ、刑法改正案の検討に着手した。これは、自民党の元総務庁長官太田誠一が、与党3党の女性議員らに呼びかけて立ち上げたもの。

同9月30日の参議院本会議において、当時の内閣総理大臣小泉純一郎は、強姦罪の罰則強化と集団強姦罪の創設について理解を示しながらも、具体的方策については触れなかった。

その後、2004年(平成16年)12月の刑法改正で法定刑が引き上げられ、集団強姦等(第178条の2)の規定が設けられた(平成29年法改正で条文廃止)。

夫婦間、DVとの関連編集

夫婦間における強姦について「婚姻が破綻して夫婦たる実質を失い、名ばかりの夫婦にすぎない場合にはもとより、夫婦間に所論の関係はなく、夫が暴行又は脅迫をもって妻を姦淫したときは強姦罪が成立する」と認定した1986年昭和61年)の鳥取地方裁判所判決がある。

平成29年改正前規定の問題点編集

平成29年改正前の強姦罪に関する確定した判例実務では、男性器が女性器に挿入されたことをもって強姦罪の既遂とする。そのため当初から肛門に男性器を挿入することを意図した場合や、被害者が男性の場合には強姦罪は適用されず、一般により犯情が軽いとされる強制わいせつ罪にとどまる(前段につき、東京地判平成4年2月17日参照)。

関連事件
2003年(平成15年)7月29日、多摩地区を中心に15件の婦女暴行を繰り返した36歳(当時)の男性が、警視庁捜査一課により逮捕された。女性の肛門に男性器を挿入する手口で犯行に及んだため、強制わいせつ致傷の罪に問われたものの、強姦罪は適用出来なかった。加害者は強姦罪になるのを免れるため、肛門を狙ったと警察官に供述している[18]

国際的観点からの問題点編集

日本は、国連の自由権規約委員会の2008年11月の最終見解[19]のパラグラフ14で、刑法第177条の強姦罪の定義に、男性に対する強姦も含めることを求められるとともに、強姦罪を重大な犯罪として被疑者側の立証責任を回避させるよう求められた。

そもそも男子に対する強姦のみが認められない場合は、日本国憲法第14条に反し、男女の本質的な扱いの不平等となり、日本国憲法に違憲である可能性があった。

強姦率の実態では、日本は発生率が少ない国になっている[20]。国際的に、日本は強姦に対しての刑事罰が非常に軽い国である、という批判も受けている。「強姦の歴史」の項も参照。

平成27年法制審議会への諮問編集

法制審議会第175回会議(2015年(平成27年)10月9日開催)に対し、「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書を受ける形で、強姦罪を含む性犯罪の罰則の改正について諮問がされた[21]

第一 強姦の罪(刑法第百七十七条)の改正
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の者を相手方として性交等(相手方の膣内、肛門内若しくは口腔内に自己若しくは第三者の陰茎を入れ、又は自己若しくは第三者の膣内、肛門内若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為をいう。以下同じ。)をした者は、五年以上の有期懲役に処するものとすること。
十三歳未満の者を相手方として性交等をした者も、同様とすること。
第二 準強姦の罪(刑法第百七十八条第二項)の改正
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、第一の例によるものとすること。
第三 監護者であることによる影響力を利用したわいせつな行為又は性交等に係る罪の新設
一 十八歳未満の者に対し、当該十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用してわいせつな行為をした者は、刑法第百七十六条の例によるものとすること。
二 十八歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して当該十八歳未満の者を相手方として性交等をした者は、第一の例によるものとすること。
三 一及び二の未遂は、罰するものとすること。
第四 強姦の罪等の非親告罪化
一 刑法第百八十条を削除するものとすること。
二 刑法第二百二十九条を次のように改めるものとすること。
第二百二十四条の罪及びこの罪を幇助する目的で犯した第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
第五 集団強姦等の罪及び同罪に係る強姦等致死傷の罪(刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項)の廃止
刑法第百七十八条の二及び第百八十一条第三項を削るものとすること。
第六 強制わいせつ等致死傷及び強姦等致死傷の各罪(刑法第百八十一条第一項及び第二項)の改正
一 刑法第百七十六条若しくは第百七十八条第一項若しくは第三の一の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯しいせつな行為をした者は、刑法第百七十六条の例によるものとすること。
よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処するものとすること。
二 第一、第二若しくは第三の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は六年以上の懲役に処するものとすること。
第七 強盗強姦及び同致死の罪(刑法第二百四十一条)並びに強盗強姦未遂罪(刑法第二百四十三条)の改正
一 次の1に掲げる罪又は次の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯した者は、無期又は七年以上の懲役に処するものとすること。ただし、いずれの罪も未遂罪であるときは、その刑を減軽することができるものとすること。
  1. 第一若しくは第二の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は第六の二の罪(第三の二の罪に係るものを除き、人を負傷させた場合に限る。)
  2. 刑法第二百三十六条、第二百三十八条若しくは第二百三十九条の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は同法第二百四十条の罪(人を負傷させた場合に限る。)
二 一ただし書の場合において、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し又は免除するものとすること。
三 一の1に掲げる罪又は一の2に掲げる罪の一方を犯した際に他の一方をも犯し、いずれかの罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処するものとすること。

強姦罪から「強制性交等罪」に変更へ編集

法制審議会の諮問により、2017年平成29年)3月7日に「刑法の一部を改正する法律案」として閣議決定され、第193回国会(常会)に提出された[22]

  1. 強制性交等罪および準強制性交等罪:強姦罪の対象(被害者)が性別不問となり、法定刑が3年以上の有期懲役から、5年以上の有期懲役に引きあげられた(第1及び第2)
  2. 監護者わいせつ罪:現に18歳未満の者を監護する者が、その影響力を行使して、当該18歳未満の者にわいせつな行為をすると、強制わいせつと同じ刑になる(第3の1)
  3. 監護者性交等罪:現に18歳未満の者を監護する者が、その影響力を行使して、当該18歳未満の者と性交等(強姦罪の対象となる行為)をすると、強姦と同じ刑になる(第3の2)
  4. 強盗・強制性交等及び同致死:強盗強姦罪などから強盗行為が後か先かによる分類の廃止
  5. 強姦罪等を非親告罪とする(第4)
  6. 強姦罪の法定刑引き上げ及び非親告罪化により、集団強姦罪を廃止する(第5)

強姦罪を定める刑法改正法案は、2017年(平成29年)6月16日国会で成立し、6月23日に公布された。刑法の附則事項に「公布日から20日を経過した日から施行する」と定めており、2017年(平成29年)7月13日から施行された[23]

脚注編集

  1. ^ 西田典之『刑法各論』第三版81頁
  2. ^ “川崎逃走男「金は返すから逮捕は勘弁して」”. 日テレNEWS24. (2014年1月11日). http://news.livedoor.com/article/detail/8422765/ 2014年1月11日閲覧。 
  3. ^ 制定の直接の契機となったのは、2003年(平成15年)に発覚したスーパーフリー事件である。
  4. ^ 以下、前澤貴子. “調査と情報第962号”. 性犯罪規定に係る刑法改正法案の概要. 国立国会図書館. 2017年10月22日閲覧。による。
  5. ^ なお、平成29年改正以前、法定刑の下限は5年であった。
  6. ^ 最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)第2294号 窃盜、強姦致傷 昭和34年7月7日 決定 棄却 集刑130号515頁
  7. ^ 最高裁判所第二小法廷 昭和34年(あ)第1274号 強姦致傷 昭和34年10月28日 決定 棄却 刑集13巻11号3051頁
  8. ^ 最高裁判所第二小法廷 昭和46年(あ)第1051号 強姦致傷 昭和46年9月22日 決定 棄却 刑集25巻6号769頁
  9. ^ 最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)第1260号 強姦致傷 昭和23年7月26日 判決 棄却 集刑第12号831頁
  10. ^ 仙台高等裁判所第二部 昭和32年(う)第366号 強姦致傷被告事件 昭和33年3月13日 判決 高刑11巻4号137頁
  11. ^ 大谷實『新版刑法講義各論[追補版]』成文堂、2002年、127頁
  12. ^ 強姦致死罪には死刑が規定されていないため、単純な殺人よりも、殺意をもって強姦し死亡させた場合の方が法定刑が軽くなってしまう。
  13. ^ 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議(平成27年11月2日開催)議事録”. 中村幹事による法務省資料1諮問第101号別紙要綱(骨子)第四に関する説明. 法務省. 2017年10月23日閲覧。
  14. ^ 法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会 第1回会議(平成27年11月2日開催)議事録”. 森悦子委員(最高検察庁)、田邊三保子委員(名古屋高等裁判所)発言. 法務省. 2017年10月23日閲覧。
  15. ^ この場合、犯罪の成立の判断は被害者の感情をくみ取って、これが犯罪を成立させるか行為の文脈的な解釈に応じて司法に委ねられることになる。
  16. ^ 「性犯罪の罰則に関する検討会」取りまとめ報告書 p5 平成27年8月6日性犯罪の罰則に関する検討会
  17. ^ 3年ちょうどで、初犯の場合だと執行猶予5年を言い渡すこともある。
  18. ^ 「尻」ばかり狙った前代未聞「連続暴行魔」
  19. ^ 国連の自由権規約委員会の2008年11月の最終見解
  20. ^ 犯罪率統計-国連調査(2000年)とOECDのデータ他
  21. ^ 法制審議会 第175回会議配布資料 刑1 諮問第101号 - 法務省
  22. ^ 刑法の一部を改正する法律案
  23. ^ “改正刑法施行は7月13日 性犯罪を厳罰化”. 日本経済新聞 (日本経済新聞社). (2017年6月23日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H21_T20C17A6CR0000/ 2017年7月5日閲覧。 

関連項目編集

参考文献編集