バーチャル・リアリティ

技術の一つ

バーチャル・リアリティ: virtual reality)とは、現物・実物(オリジナル)ではないが機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザーの五感を含む感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術およびその体系。略語としてVRとも。日本語では「人工現実感」あるいは「仮想現実」とされる(#「仮想現実」という訳語について)。古くは小説や絵画、演劇やテレビなども、程度の差こそあれVRとしての機能を有している[1]

アメリカ海軍で利用されるVRパラシュート訓練機(2006年)

概要編集

バーチャル・リアリティは、コンピュータによって作り出された世界である人工環境・サイバースペース現実として知覚させる技術である[2]時空を超える環境技術であり、人類認知を拡張する[3]

コンピュータグラフィックスなどを利用してユーザに提示するものと、現実の世界を取得し、これをオフラインで記録するか、オンラインでユーザに提示するものとに大別される。後者は、ユーザが遠隔地にいる場合、空間共有が必要となり、テレイグジスタンス (Telexistence) 、テレプレゼンス (Telepresence)、テレイマージョン (Teleimmersion) と呼ばれる。後者は、5Gとの連携で一層実現しやすくなると期待されている。

ユーザーが直接知覚できる現実世界の対象物に対して、コンピュータがさらに情報を付加・提示するような場合には、拡張現実 (Augmented reality) や複合現実 (Mixed reality) と呼ばれる。

現実と区別できないほど進化した状態を表す概念として、シミュレーテッド・リアリティ(Simulated reality) やアーティフィシャル・リアリティ (Artificial reality) があるが、これはSFや文学などの中で用いられる用語である。

商用化としては、1990年代初頭の第1次VRブームが、技術的限界から画面表示のポリゴン数や解像度が低く、センサーの精度が低かったため利用者の動きと画面描画のズレが起きて酔いやすく、VR機器の値段も非常に高価で普及に至らず失敗に終わった。その後、2010年代初頭の第2次VRブームが起きてから商用化が進んだ。iPhoneが登場した2007年からのスマートフォン開発競争で、モバイルCPUのみならず、センサーの小型化や高精度化と低価格化まで達成されたことが、第2次VRブームを成功に導いている。

歴史編集

SF作品におけるコンセプト段階編集

スタンリイ・G・ワインボウムによる1935年の短編小説『Pygmalion's Spectacles』にゴーグル型のVRシステムが登場する[4]。これは、視覚、嗅覚、触覚の仮想的な体験をホログラフィに記録してゴーグルに投影するというシステムで、バーチャル・リアリティのコンセプトの先駆けとなった。

技術開発編集

 
アメリカ陸軍のVR射撃訓練装置
1960年代
1962年に、映像技師のen:Morton HeiligSensoramaというVR体験装置の試作機を開発した。これは視覚、聴覚、嗅覚、触覚を模擬する機械装置(デジタル・コンピュータ式ではない)であった。これは、コンピュータのGUIが開発され始めたころとほぼ同じ時期のことであった。
1968年に、ユタ大学アイバン・サザランド によってヘッドマウントディスプレイ(HMD、頭部搭載型ディスプレイ)のThe Sword of Damoclesが開発されたもの[5]が最初のウェアラブル型のバーチャル・リアリティ装置であるとされる。
1970年代
1978年に、MITで初期のハイパーメディアおよびVRシステムであるen:Aspen Movie Mapが開発された。これはユーザが、仮想世界の中でコロラド州アスペンの散策を行うことができるというシステムであった。季節は夏か冬を選ぶことができた。初期のバージョンは実際に撮影された写真を張り合わせた世界であったが、3版目からは3Dコンピュータ・モデルによって仮想世界が再現された。
1980年代
1982年に、アタリはVRの研究チームを創設したが2年で解散した。
1989年ジャロン・ラニアーが設立したVPL Researchが発表したVR製品のデータ・グローブ (Data Glove)・アイ・フォン(Eye Phone)・オーディオ・スフィア (Audio Sphere) の紹介から「バーチャル・リアリティ」という言葉が一般的に使われ始めた[6]
1990年代
1991年イリノイ大学のElectronic Visualization LaboratoryのThomas DeFantiらによって、ウェアラブル型ではなく部屋の壁の全方位に映像を投影して没入環境を構築するVRシステムが提案された。CAVE [7]Cave automatic virtual environment没入型の投影ディスプレイ)が有名である。
1992年7月21日から7月24日にかけて、NHKNHK衛星第2テレビジョンで放送した『仮想現実遊戯大全―ゲーム・ワールドへの招待』内で、ゲーム業界関係者のインタビューを交えて、開発が進められているVRを使用したゲームや今後のゲーム業界について紹介した[8]。実際にアーケードゲームVirtuality1991年)やジョイポリスに設置されたVR-1(1994年)、Sega VR(1994年)や家庭用ゲームのバーチャルボーイ1995年)、PCゲームのVFX1(1995年)などが開発されたが、当時は表示画素が粗く、トラッキングの精度が不十分でコンピュータの処理能力が限られていたこともあり、本格的な普及には至らなかった[9]
1994年には、VRデータ用のファイルフォーマットVRMLが開発された。
1997年にはCABINが東京大学インテリジェント・モデリング・ラボラトリーに設置され、2012年まで、15年間にわたり運用された[10]岐阜県各務原市のVRテクノセンターには6面を大型スクリーンで囲んだCOSMOSが設置された[11][12]
1990年代から2000年代初頭にかけて、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)は仮想現実の表示デバイスとしては適さないと評価された時期があり、この種の投影型表示装置と液晶シャッタグラスを組み合わせて没入型デジタル環境を実現して仮想現実の研究の発展に貢献した時期があったものの、装置が大がかりで設置するための空間や維持費がかかることもあり、近年では一部を除き、下火になりつつある[13]
2000年代
2007年Googleグーグルマップに全方位パノラマ撮影されたストリートの風景を体験できるストリートビュー機能を追加した。
アメリカでは軍隊でパラシュートの訓練などにHMDが使われ始めた。
2010年代
2010年Googleグーグルマップに3Dモデルを追加した。
2012年後半に登場したOculus RiftからVRへの投資は加速した[14]
2016年Valve CorporationSteamVR規格対応の「HTC Vive」、スマートフォンを装着して使う"モバイルVR"であるGear VRに対応した『Minecraft』が発売された[15](簡易のGoogle Cardboardや一体型のオールインワンVRもある[16])。さらにPlayStation 4と接続するHMDデバイス「PlayStation VR」の登場もあり、VR元年といわれている[17][18]
2017年には、世界三大映画祭の一つであるヴェネチア国際映画祭で世界に先駆けて『VR部門』を設立。日本のVR映像作品としてはアニメーション制作会社のプロダクション・アイジーが手がけたVR映像作品『攻殻機動隊 新劇場版 Virtual Reality Diver』が初の正式招待[19]
2019年に日本ではNTTメディアサプライが、音楽ライブを高画質・マルチアングル・立体音響で体感できるスマートフォンアプリ「REALIVE360」を開発し、ももいろクローバーZをはじめとするアーティストのライブがコンテンツ提供されている[20]

特性編集

現代のバーチャル・リアリティは、3次元の空間性、実時間の相互作用性、自己投射性の三要素を伴う(Presence/Interaction/Autonomy)。

視覚聴覚味覚嗅覚前庭感覚体性感覚など、多様なインタフェースマルチモーダル・インタフェース)を利用する。

VRゲームの分野では酔い対策のガイドラインがある[21]

現時点で実用化できるのは視覚と聴覚のみであり、操作はコントローラで行うことになる。肉体で操作することもできるが本質的には変わっていない。

フィクション作品のように意識も肉体も完全にその世界に入り込むことは実現のめどが立っていない。また、現実世界よりも体感時間を遅らせる理論も提唱されていない(光速に近い速度で移動すると時間の流れが早くなるが、必要なのはその逆である)。

基礎となる技術と応用編集

バーチャル・リアリティの技術を構成する要素には、コンピュータ科学ロボティクス通信計測工学制御工学芸術認知科学などが含まれる。また、その応用英語版は、科学技術における情報の可視化 (en:Scientific visualization)、ソフトウェアの構築、セキュリティ、訓練、医療、芸術などと幅広い。たとえば、VRに関するIEEEACMの国際会議などでは次のようなセッションが準備されている。

「仮想現実」という訳語について編集

バーチャル・リアリティは、もともとシュルレアリスムの詩人アントナン・アルトーが造語[22]した芸術用語であった。現在のような意味では「バーチャル・リアリティの父」[23][24]と呼ばれるジャロン・ラニアーらが普及させた。

本来、英語の "virtual" は本来「厳密には異なるがほとんど同様の」という意味であり、コンピュータ関連の文脈においては「物理的には存在しないもののそのようにみえる」という意味で用いられ、「バーチャル・リアリティ」はその一例である(他分野であるが電子工学用語の仮想接地という用語の英文は「Virtual ground」と呼ばれている。実際に接地されているわけではないが、理屈上接地しているという概念である)。

「バーチャル・リアリティ」は、たとえば、人間が行けない場所でのロボット操作などの応用や、コンピュータ上の作り出す仮想の空間を現実であるかのように知覚させることなどに使用される。現実の光景にさまざまなデジタル情報を重ね合わせて表示する技術の拡張現実 (Augmented Reality) とは異なる。

他方、「仮想」という言葉は、本来は「仮に想定すること」を意味するが(仮想敵国など)、コンピュータ関連の文脈においては、上記のような意味における "virtual" の訳語として用いられており(仮想記憶 (virtual memory) など)、そのような意味で、"virtual reality" は「仮想現実」と訳されることがある。

バーチャルという概念が中国に存在しなかったため、それを著す適切な一文字の漢字および二文字の熟語が存在しない一方で、現在使われている「仮想」や「虚」は誤解を与えかねない訳語であることから、東京大学大学院教授(当時)の舘暲は、2005年の日本バーチャル・リアリティ学会第10回大会において、バーチャル・リアリティの訳語として、「 現実」という語を提案した。 はこのために提案された国字で、立心偏に實(実の正字体)と書き、「ジツ」または「ばーちゃる」と読む[25][26][27]

バーチャル・リアリティを取り扱った作品編集

映画
小説
漫画
ドラマ
アニメ
ゲーム
戯曲

VRデバイス編集

Nintendo Switch
PS4
PC
モバイル
MR(Mixed Reality、複合現実)

VRの問題点編集

健康リスク編集

10歳未満の子供がVRデバイスを利用して斜視になった症例が、過去に一件だけ報告されている[30]。幼少期は目の筋肉や視力が発達途中で、大人よりも悪影響を及ぼしやすいとされる。ちなみに立体細胞は6歳までに形成され、瞳孔間距離については10歳ごろまでに発達するため、VRデバイスの業界標準では対象年齢13歳以上など保守的な設定となりつつある[31]

VR酔い編集

VRの映像によってVR酔いを起こし頭痛や吐き気を催す。PlayStation VRでは健康のための注意として映像上の光の表現(光の刺激)によって痙攣意識障害などの発作が起きることがあるとしており、頭痛、めまい、吐き気など体に不快感を感じたときはすぐに使用を中止して、治らない場合は医師に診察を受けることなどを注意をしている[32]。VR酔いはなぜ起こるのか完全な解明はされてはいないが、視覚系と前庭系の間でミスマッチが生じることではないかとされている[33]。 開発側でもこれらの問題が認識されており、不快感を軽減するため視点の移動速度やゲーム内の重力を調整するなどの対策が行われている[34]

VRへの関心度編集

2016年はVR元年と言われ、VRがブームになるだろうと期待されていたのだが、VR元年から1年がたち蓋を開けてみるとVRヘッドセットの売り上げが伸び悩んでいる[35]。調査会社のスライブ・アナリティクスがVRヘッドセットの購入を考えていない理由を聞くと「値段が高くコンテンツが少ない」「乗り物酔いになりそう」などの回答があった。中でも一番多い回答が「単純に興味がない」で53%だった[36]

中国ではVRスタートアップの9割が倒産したと中国のメディアが報じている[37]

エレクトロニック・スポーツ(eスポーツ)としてのバーチャル・リアリティの利用編集

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ 高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み ― 第22回 VRが盛り上がり始めると現実に疑問を抱かざるをえない”. 2016年5月11日閲覧。
  2. ^ VRとは - IT用語辞典”. 2016年5月11日閲覧。
  3. ^ 「VR=仮想現実」ではない? VRの“第2次ブーム”で世界はどう変わる (1/3)”. 2016年5月11日閲覧。
  4. ^ Pygmalion's Spectacles”. Project Gutenberg. 2014年9月21日閲覧。
  5. ^ Sutherland, I.E.. “The Ultimate Display”. Proc. IFIP 65 (2): 506-508, 582-583. 
  6. ^ 知覚的リアリティの科学 (2)バーチャルリアリティ――リアリティをつくり,変える技術”. 2016年5月11日閲覧。
  7. ^ Cruz-Neira, C.; Sandin, D.J., and DeFanti, T.A. (August 1993). “Surround-Screen Projection-Based Virtual Reality: The Design and Implementation of the CAVE”. Proceedings of SIGGRAPH '93 Computer Graphics Conference. SIGGRAPH '93 Computer Graphics Conference. ACM SIGGRAPH. pp. pp. 135-142. http://www.evl.uic.edu/EVL/RESEARCH/PAPERS/CRUZ/sig93.paper.html 
  8. ^ 流行語VRをテーマに TVゲーム開発を探る NHK衛星が4夜にわたって特集番組」『ゲームマシン』(PDF)、第435号(アミューズメント通信社)、1992年10月1日、9面。2021年3月12日閲覧。
  9. ^ PSVRを機に振り返るVR・立体視ゲームの歴史(その2)”. 2017年1月13日閲覧。
  10. ^ さよならCABINシンポジウム(2012年12月18日火)
  11. ^ 株式会社VRテクノセンター
  12. ^ COSMOS
  13. ^ HMDがダメだといわれた時代 - CABIN誕生
  14. ^ 西田宗千佳のRandomTracking 特別編:「バーチャルリアリティー」の歴史を俯瞰する 全ては1960年代から。「Oculus」の衝撃とその未来”. 2016年5月11日閲覧。
  15. ^ 石井英男の「週刊Gear VR」(第1回): 据え置き機と遜色なし! 「GALAXY×Gear VR」で気軽に楽しめる“VR”の世界 (1/3)”. 2016年5月11日閲覧。
  16. ^ 西田宗千佳のRandomTracking PC一体型HMDも登場。“VRに本気”のAMDが示す「スマホの次は没入感の時代」”. 2016年5月11日閲覧。
  17. ^ ニュースでよく見る「バーチャルリアリティ」ってどんなもの?”. 2016年5月11日閲覧。
  18. ^ Access Accepted第496回: VRゲーム市場は立ち上がるか?”. 2016年5月11日閲覧。
  19. ^ プロダクション・アイジーが手がけたVR作品がベネチア国際映画祭VR部門から正式招待
  20. ^ REALIVE360公式サイト
  21. ^ VR 酔い対策の事例”. 2016年5月11日閲覧。
  22. '^ Antonin Artaud, "The Alchemical Theater", in The Theater and its Double, trans. Mary Caroline Richards, New York: Grove Press, 1958, p. 49, emphasis in original. See also Samuel Weber, "'The Virtual Reality of Theater': Antonin Artaud", in Theatricality as Medium, New York: Fordham University Press, 2004, pp. 277-94.
  23. ^ Savage, Emily (2010-10-20). "Renaissance man: Berkeley resident is a musician, a Web guru and the father of virtual reality". j. the Jewish news weekly of Northern California. Archived from the original on 2011-03-06.
  24. ^ Appleyard, Bryan (2010-01-17). "Jaron Lanier: The father of virtual reality". The Sunday Times. Archived from the original on 2011-03-06.
  25. ^ 舘 暲 (12 2005). “第10回を記念する新字(ばーちゃる)の提案”. 日本バーチャルリアリティ学会誌 10 (4): pp. 18-19. http://files.tachilab.org/publications/review/tachi200512JVRSJ.pdf. 
  26. ^ 日本バーチャルリアリティ学会第11回大会 大会長挨拶”. 2007年11月24日閲覧。
  27. ^ バーチャルリアリティ学. 日本バーチャルリアリティ学会. (2011) 
  28. ^ 【VRヒストリー】The Eyephonesの続き。超人気劇団の戯曲が描いた「VR」とは何か - VRonWEBMEDIA(ヴイアール・オン)”. 2021年4月3日閲覧。
  29. ^ VRヘッドセットOculus Riftがまた大幅値下げ。Touchセットで5万円、半年前の半額以下”. 2017年7月12日閲覧。
  30. ^ 不二門尚 (2012). “小児の両眼視と3D”. 日本視能訓練士協会誌 41: 19-25. 
  31. ^ VRによる斜視リスクに“企業はどう対策しているのか”を聞いた
  32. ^ 健康のためのご注意
  33. ^ VR酔いを防ぐにはどうしたらいいのか?
  34. ^ サイゲームス社長・渡邊耕一氏が『M∀RS』を語る! 「いまのサイゲームスがあるのは『ANUBIS』を遊んだおかげ」 - [ファミ通]
  35. ^ 高価格帯VRヘッドセット、普及が足踏み
  36. ^ VRヘッドセット、なぜ売れないのか
  37. ^ 中国VRスタートアップの9割が倒産 中国のVR産業は崩壊するのか?

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集