実験音楽
実験音楽(じっけんおんがく、英: experimental music)は、現代音楽の潮流の一つである。音楽学においてはアメリカの作曲家、ジョン・ケージ の導入した用語法として理解されている。ケージは「実験的行為」について、「結果を予知できない行為」という定義を与えており、この意味での実験音楽とは不確定性の音楽、あるいはそれにチャンス・オペレーションを加えた偶然性の音楽を指す。この(狭義の)「偶然性の音楽」は、1950年代初頭以降、ケージを中心とした作曲家達によって営まれた。
概要編集
ジョン・ケージに対して、当時のヨーロッパのセリー書法を用いる作曲家(ブーレーズ、シュトックハウゼンなど)の音楽は、たとえ技法として偶然性を取り入れていても「前衛」(アヴァン=ギャルド)ないし「前衛音楽」と呼んで明確に区別するのが普通である。
このような用語法は、レナード・メイヤーの著書「音楽・芸術・思想-20世紀の文化におけるパターンと予測」(Music, the Arts, and Ideas: Patterns and Predictions in Twentieth-Century Culture、1967年)や、マイケル・ナイマンの著作「実験音楽:ケージとその後」(1974年)において踏襲されている。
しかしこうした区別をせず、「実験音楽」と「前衛音楽」をほぼ同義のものとして両者を区別せず用いる例も見られる。その場合には、この用語は20世紀後半以降の、伝統的な書法とは異なる音楽すべてを指している。
欧米の実験音楽編集
1960年代以降、実験音楽、前衛音楽のシーンは特に活動が活発化した。現代音楽では作曲の技法に重点が置かれているのに対し、実験音楽は音楽的な行為の枠を問うのが特徴である。
実験音楽の代表的な音楽家としては、ジョン・ケージと、ソニック・アーツ・ユニオンを構成したロバート・アシュリー、アルヴィン・ルシエ、ゴードン・ムンマ、デヴィッド・ベアマン、デヴィッド・チュードアらがいる。また、デレク・ベイリー、ギャヴィン・ブライアーズ、フィリップ・グラス、テリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、クリスチャン・ウォルフ、モートン・フェルドマン[1]らも実験音楽家として知られている。スティーヴ・ライヒの音楽は、特に「ミニマル・ミュージック」と呼ばれている。
現代音楽の功績は作曲技法が主であるのに対して、実験音楽の楽曲の手法はあくまでも手段である点も重要である。すなわち、偶然性の音楽やプロセス・ミュージックなどは特定の実験音楽家が採用した手法に過ぎないのである。
多くの実験音楽家は他の分野の芸術家との交流も深く、それぞれの芸術活動に大きい影響を与えた。マルセル・デュシャンやマース・カニンガムなどは特に、交流のある実験音楽家なしに成立しなかった作品も存在する。また、実験音楽にはクラシック音楽サイドからのアプローチだけでなく、ロックやジャズなどの音楽ジャンルからの試みもさかんにおこなわれてきた。フリー・ジャズのオーネット・コールマン、前衛ロックのフランク・ザッパを筆頭に、ルー・リードのベルベット・アンダーグラウンド、キャプテン・ビーフハートやレジデンツなどがエクスペリメンタル・ロックとしてあげられる[2]。またイギリスでは、ビートルズのジョン・レノンは、オノ・ヨーコと実験音楽アルバム『トゥー・ヴァージンズ」を発表した。プログレッシブ・ロック系のブライアン・イーノ、ロバート・フリップとキング・クリムゾン、フレッド・フリス参加のヘンリー・カウ、ジャズ・ロックからソフト・マシーンなどが参入した。旧西ドイツでは、フルクサスの流れを汲むカンやファウスト、現代音楽家を擁するスラップ・ハッピー、なども実験音楽に接近した。またスラップ・ハッピーとヘンリー・カウは協力してアルバムを制作している。プログレッシブ・ロックが衰退した70年代後半には、パンク、ニュー・ウェイヴ系のキャバレー・ボルテールやディス・ヒート、PIL、ジェームス・チャンスやDNA、ローリー・アンダーソン(80年代に登場)らが登場した。
アメリカ、西欧でローカルな実験音楽家として、ボイド・ライス (Boyd Rice)、フランコ・バッティアート (Franco Battiato)、ディアマンダ・ガラス、アメリカ出身でイギリスを中心に活動したデヴィッド・ヴォーハウス(David Vorhaus)のプロジェクト・ユニット「ホワイト・ノイズ」[3]らが活動している。
日本の実験音楽編集
日本の実験音楽としては、まず阿部薫、高柳昌行、大友良英らのフリー・ジャズがあげられる。また、タージ・マハル旅行団(Taj Mahal Travelers)は、1969年、フルクサスのメンバーであった小杉武久を中心に結成され、ジャズ、ロック、現代音楽などあらゆる音楽の要素を融合し、ヴァイオリン、ダブルベース、チューバ、トランペット、マンドリンなど伝統的な楽器を用いディレイなどの電子エフェクターを使用した即興演奏で国内外を公演し録音作品を2作残している。21世紀には、ドミノ・レコードのトーリ工藤らが実験音楽に取り組んでいる。
脚注編集
- ^ http://www.universaledition.com/morton-feldman-220
- ^ “EXPERIMENTAL ROCK (AVANT-ROCK)”. The Independent. 2016年2月16日閲覧。
- ^ ガーション・キングスレイや西ドイツのロック・バンドタンジェリン・ドリームに連なるエレクトロニック・ミュージック、電子音楽の分野から試行した
参考文献編集
関連項目編集
- エクスペリメンタル・ロック
- 現代音楽
- 前衛
- ミニマリズム
- ニューエイジ・ミュージック
- プリペアド・ピアノ(ジョン・ケージなど)
- プリペアド・ギター(フレッド・フリスなど)
- フルクサス