東北電力ネットワーク
東北電力ネットワーク株式会社(とうほくでんりょくネットワーク、英: Tohoku Electric Power Network Co., Inc.)は、宮城県仙台市青葉区に本社を置き、東北6県と新潟県を供給区域とする日本の一般送配電事業者である。東北電力の100%子会社。同社自身は、東北電力NWを略称としている[2]。そのほかの略称に、東北電ネットワーク[3]、東北電ネット[4]、東北NW[5]がある。
![]() 本社が所在する東北電力本店ビル | |
種類 | 株式会社 |
---|---|
略称 | 東北電力NW、東北電ネットワーク、東北電ネット、東北NW |
本社所在地 |
![]() 〒980-8551 宮城県仙台市青葉区本町1丁目7番1号 |
設立 | 2019年(平成31年)4月1日 |
業種 | 電気・ガス業 |
法人番号 | 7370001044201 |
事業内容 | 一般送配電事業 |
代表者 |
坂本光弘(代表取締役社長) 戸田靖久(代表取締役副社長) |
資本金 |
240億円 (2023年3月31日現在)[1] |
発行済株式総数 |
35,480,200株 (2023年3月31日現在)[1] |
売上高 |
単体:1兆1263億72百万円 (2023年3月期)[1] |
営業利益 |
単体:202億47百万円 (2023年3月期)[1] |
経常利益 |
単体:131億43百万円 (2023年3月期)[1] |
純利益 |
単体:49億34百万円 (2023年3月期)[1] |
純資産 |
単体:3324億54百万円 (2023年3月31日現在)[1] |
総資産 |
単体:2兆1362億65百万円 (2023年3月31日現在)[1] |
従業員数 |
単体:7,010名 (2022年3月31日現在) |
決算期 | 3月31日 |
主要株主 | 東北電力 100% |
主要子会社 | 東北送配電サービス 100% |
外部リンク | https://nw.tohoku-epco.co.jp |
概要 編集
東北地方6県と新潟県の区域で送電線、変電所、配電線などの送配電網を維持・運用し、発電事業者や小売電気事業者のような事業者を相手に送配電サービスを提供する会社(一般送配電事業者)である。
電気事業法の大改正(電力システム改革)によって、一般送配電事業者が発電事業や小売電気事業を兼営することが原則として禁止された(法的分離)ため、従来東北電力が行っていた一般送配電事業や離島における発電事業などが2020年(令和2年)4月1日に当社に移管した。
事業内容 編集
東北6県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)と新潟県(以上を東北エリア[6]と総称)を供給区域として一般送配電事業を営む。当社の供給区域の面積は、79,531 km2であり[7]、本州の3分の1・日本の国土の約2割を占め、一般送配電事業者10社のうち最大である。
一般送配電事業として以下の業務をおこなっている。
- 送配電網の維持 東北6県・新潟県内(一部は長野県内)の1万5千km超の送電線、6百箇所超の変電所、15万km近い配電線などを維持する。発電事業者や小売電気事業者から接続申込みがあれば引込線・電力量計などを設置し、発電設備や需要家の負荷設備を送配電網に接続する。事故・災害時は故障箇所を特定し復旧する。
- 系統運用 東北エリアの電力系統(発電所と送配電網)の周波数・電圧を維持し電気の安定供給を確保するため、発電・送電・電力需要の状況を監視し、電力の発生や流通を制御する。
- 託送供給 ある地点で送配電網に電気を受け入れると同時に、別の地点で送配電網から電気を供給し、対価として託送料金を受け取る。託送契約者は、主に小売電気事業者であり、小売電気事業者は、発電所で発生した電気を需要家(小売電気事業者の顧客)が電気を使用する地点まで送るために託送供給を利用する。
- 離島等供給 日本海に浮かぶ飛島(山形県酒田市の一部)、粟島(新潟県岩船郡粟島浦村)、佐渡島(新潟県佐渡市)の需要家には、小売電気事業者を介することなく電気を販売・供給する。この3島で電気を供給するため、当社は、3島それぞれに発電所を有する。
また、東北エリアの再生可能エネルギー発電設備のうち、固定価格買取制度の認定を受けたものから、一定期間、電気を固定価格で買い取る。買い取った電気は、自社で使用する分以外は、希望する小売電気事業者に卸供給する。
事業所 編集
宮城県仙台市の東北電力本店ビルに本社を置き、供給エリア内各県の県庁所在地に支社を置く[8]。支社の管轄エリア内に電力センターを置く[8]。東京都に東京事務所を置く[8]。
支社名称 | 支社所在地 | 支社管轄エリア | 支社管轄エリア内の電力センター・サービスセンター |
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青森支社 | 青森市 | 青森県 | むつ・白糠・青森・五所川原・三沢・十和田・弘前・八戸 |
岩手支社 | 盛岡市 | 岩手県 | 二戸・久慈・盛岡・宮古・岩泉・遠野・釜石・花北・水沢・大船渡・一関 |
秋田支社 | 秋田市 | 秋田県 | 大館・能代・鹿角・秋田・大曲・本荘・横手 |
宮城支社 | 仙台市 | 宮城県 | 気仙沼・栗原登米・古川・石巻・仙台北・塩釜・仙台・仙台南・岩沼・白石 |
山形支社 | 山形市 | 山形県 | 酒田・新庄・鶴岡・天童・山形・長井・米沢 |
福島支社 | 福島市 | 福島県 | 福島・喜多方・相双・会津若松・郡山・須賀川・田島・白河・いわき |
新潟支社 | 新潟市 | 新潟県 | 村上・新発田・新潟・新津・佐渡・新潟県央・長岡・柏崎・十日町・魚沼・上越・糸魚川 |
設備 編集
設備の概要 編集
東北電力ネットワークが2020年(令和2年)4月に発足した時点の設備の概要は、以下のとおりである[9]。
当社の送配電網は、本州に広がる本系統と、三つの離島系統に分けられる。離島系統は、北から順に、飛島系統(飛島、山形県酒田市)、粟島系統(粟島、新潟県岩船郡粟島浦村)、佐渡系統(佐渡島、新潟県佐渡市)である。
本系統 編集
500 kV(50万ボルト)の送電線は、東北電力東通原子力発電所(青森県下北郡東通村)から東北地方を縦貫し、東京電力パワーグリッド南いわき開閉所(福島県田村市)に達する。ルートは、東通原子力発電所-むつ幹線(亘長50.5 km)-上北変電所(青森県上北郡七戸町)-十和田幹線(亘長114.04 km)-岩手変電所(岩手県盛岡市)-北上幹線(亘長184.37 km)-宮城変電所(宮城県加美郡加美町)-青葉幹線-西仙台変電所(仙台市太白区)-常磐幹線(亘長100.33 km)-南相馬変電所(福島県南相馬市)-相馬双葉幹線-南いわき開閉所である。
青葉幹線の途中からは、500 kV宮城中央支線が分岐し、宮城中央変電所(仙台市泉区)に達する。相馬共同火力発電新地発電所(福島県相馬郡新地町)からは、500 kV新地火力線が伸び、常磐幹線の途中に接続する。
女川原子力発電所からは、2ルートの275 kV送電線が伸び、それぞれ宮城変電所と宮城中央変電所で500 kV系統と連系する。
東北地方を横断する送電線は、275 kVのものが主である。越後開閉所(新潟県新発田市)から朝日山地と奥羽山脈を越え、西仙台変電所に達する朝日幹線(亘長138.73 km)は、500 kVに対応する設計であるが、275 kVで運用されている。
北本連系設備・新北本連系設備 編集
本州と北海道の50 Hz系統同士は、2ルートで連系する。両系統間の連系には、直流連系が採用された。
第1のルートは、電源開発送変電ネットワークが所有する北本連系設備であり、北海道電力ネットワークの七飯発電所(亀田郡七飯町)と東北電力ネットワークの上北変電所(青森県上北郡七戸町)とを結ぶ[10]。函館変換所(函館市)と上北変換所(上北郡東北町)との間が直流±250 kV双極の北本直流幹線(亘長167.4 km)である。途中、函館市と青森県下北郡大間町との間で、直流の海底ケーブルによって津軽海峡の下をくぐる。1979年(昭和54年)12月に125 kV単極、150 MWで運用を開始し、翌年6月に250 kV単極、300 MWに増強された。その後、ケーブルを1本追加し、1993年(平成5年)3月からは、±250 kV双極で600 MWが送電できるようになった。
第2のルートは、北海道電力ネットワークが所有する新北本連系設備である。北斗市と青森県東津軽郡今別町に直流・交流の変換設備(変換所)を設け、両変換所間を直流250 kV単極の北斗今別直流幹線(亘長122 km)で結んだ。津軽海峡の下をくぐる区間は、青函トンネル内に直流ケーブルを敷設した。
以上の2ルートにより、本州と北海道との間で最大900 MW(90万kW)を送電することができる。
東北東京間連系線 編集
福島県内には、東北電力ネットワークと東京電力パワーグリッド(東電PG)の両社の連系線があり、東電PG・南いわき開閉所(田村市)と同・新福島変電所(双葉郡富岡町)の2地点が連系点となっている。
東北地方と関東地方との間の系統連系は、1959年(昭和34年)7月に始まった。当初は、電源開発が建設した275 kV田子倉本名線を介して連系した。田子倉本名線は、電源開発の田子倉発電所(福島県南会津郡只見町)と東北電力の本名変電所(福島県大沼郡金山町)とを結ぶ送電線である。
その後、東北電力が南相馬変電所から東京電力・新福島変電所まで275 kVいわき幹線を建設し、1976年(昭和51年)3月、連系点は新福島変電所に変更された。東北電力はさらに、南相馬変電所から東京電力・南いわき開閉所まで500 kV相馬双葉幹線を建設し、1995年(平成7年)6月、500 kVによる連系が始まった。
本州の60 Hz地区 編集
新潟県内には、佐渡島のほか、東北電力が60 Hzで電気を供給する地区がさらに2箇所ある。
斑尾高原は、長野県飯山市と新潟県妙高市にまたがる高原リゾート地である。斑尾高原の新潟県側は、長野県側(中部電力パワーグリッド)から電気の供給を受けており、このために電気の周波数が長野県内と同じ60 Hzとなっている。
糸魚川市の西部(橋立、清水倉、市振、玉ノ木、上路地区)は、親不知・子不知により市の中心部から隔てられている一方、隣接する富山県からのアクセスは容易である。配電線が県境の境川を越えて富山県側(北陸電力送配電)から伸びており、このために電気の周波数が富山県内と同じ60 Hzとなっている。
離島系統 編集
東北地方の離島は、飛島、粟島、佐渡島以外、海底ケーブルなどにより本州から電気の供給を受けているため、東北電力ネットワークの本系統の一部である。飛島、粟島、佐渡島の系統は、それぞれ孤立しており、これらが離島系統である。
飛島系統、粟島系統は、小規模な50 Hzの系統である。
佐渡系統は、60 Hzの系統である。佐渡島の電化は、佐渡金山から始まった。金山を経営していた三菱鉱業(現・三菱マテリアル)が60 Hzの設備を導入したため、佐渡島は60 Hzで電化されることになった[11]。
名称 | 種類 | 周波数(Hz) | 出力(kW) | 所在地 |
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飛島火力発電所 | 内燃力 | 50 | 750 | 山形県酒田市(飛島) |
粟島火力発電所 | 内燃力 | 50 | 900 | 新潟県岩船郡粟島浦村(粟島) |
白瀬発電所 | 水力 | 60 | 457 | 新潟県佐渡市(佐渡島) |
両津火力発電所 | 内燃力 | 60 | 40,000 | 新潟県佐渡市(佐渡島) |
梅津発電所 | 水力 | 60 | 300 | 新潟県佐渡市(佐渡島) |
水沢発電所 | 水力 | 60 | 133 | 新潟県佐渡市(佐渡島) |
新保川発電所 | 水力 | 60 | 108 | 新潟県佐渡市(佐渡島) |
相川火力発電所 | 内燃力 | 60 | 27,500 | 新潟県佐渡市(佐渡島) |
沿革 編集
2013年(平成25年)4月、第2次安倍内閣は、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。内閣は、この方針のもと、2013年(平成25年)から2015年(平成28年)にかけ、電気事業法の大幅な改正案を3回に分けて国会に提出し、改正案は全て成立した。電力システム改革である。
第2弾の改正により、2016年(平成28年)4月、電気事業者の類型が整理され、一般電気事業者という類型が廃止された。従来、一般電気事業者として東北地方で発電・送配電・小売の全てを手掛けてきた東北電力は、改正電気事業法では、発電事業者 兼 一般送配電事業者 兼 小売電気事業者と位置付けられた。一般送配電事業は許可制として、東北電力が東北地方の送配電網をほぼ独占することになった。
発電と小売の分野で様々な事業者が公平な条件で健全な競争を行うためには、実質的に地域独占の一般送配電事業者が全ての発電事業者・小売電気事業者に対して中立の立場で公平に送配電サービスを提供することが必要である。一般送配電事業者による発電事業や小売電気事業の兼営は、一般送配電事業の中立性の確保を難しくするため、第3弾の改正でこれを禁止することになった(法的分離)。
このため、旧一般電気事業者各社は、一般送配電事業を子会社に移管するなど、第3弾改正の施行に対応する必要に迫られた。東北電力は、法的分離に備え、2018年(平成30年)4月に社内に送配電カンパニーを設置した[12]。その後、送配電カンパニーの事業を2020年4月に子会社に移管する方針を発表した[13]。2019年(平成31年)4月1日、東北電力の100%子会社として、東北電力ネットワーク株式会社が設立された[14]。
同月、東北電力と東北電力ネットワークとの間で、吸収分割契約が結ばれた[15]。同年6月、東北電力の株主総会で、この契約が承認された。したがって、この契約が発効する2020年(令和2年)4月、東北電力から東北電力ネットワークに送配電カンパニーの事業が移管された。
歴代社長 編集
代 | 氏名 | 就任 | 出身校 | 備考 |
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初 | 二階堂宏樹 | 2019年(平成31年)4月1日 | 東北大学法学部[16] | 東北電力ビジネスサポート本部総務部長による兼任 |
2 | 坂本光弘 | 2020年(令和2年)4月1日 | 早稲田大学法学部[17] | 2020年3月までは、東北電力副社長・送配電カンパニー長 |
不祥事 編集
2023年1月13日、東北電力は同社の八戸営業所と岩手三陸営業所で、東北電力ネットワークが管理する顧客情報を不適切に閲覧していたと発表した[18]。同年4月17日に電力・ガス取引監視等委員会が東北電力に業務改善勧告を行った[19]。
出典 編集
- ^ a b c d e f g h “第4期(2023年3月期)計算書類”. 東北電力ネットワーク株式会社. 2023年6月29日閲覧。
- ^ 東京電力パワーグリッド株式会社; 東北電力ネットワーク株式会社 (2020年11月5日). “架空送電線診断システムの相互利用契約の締結について”. 東北電力ネットワーク株式会社. 2021年4月23日閲覧。
- ^ “新設の石江変電所公開 新青森駅周辺の需要増対応/東北電ネットワーク”. デイリー東北DIGITAL. (2020年10月20日) 2021年4月23日閲覧。
- ^ “東北電ネット、新入社員研修を分散”. 日本経済新聞. (2020年6月18日) 2020年8月30日閲覧。
- ^ “新型コロナ 東北電力・東北NWが対策強化: 本店ビルでは会議室の開放も”. 電気新聞: p. 1. (2020年4月14日). オリジナルの2020年4月26日時点におけるアーカイブ。 2020年4月14日閲覧。
- ^ 東北電力株式会社 (2017年5月24日). “エリアインバランス誤算定に関する報告について”. 東北電力株式会社. 2020年4月4日閲覧。
- ^ 経済産業省資源エネルギー庁, ed (2018). 2017年版電気事業便覧. 一般財団法人経済産業調査会. p. 27
- ^ a b c d 東北電力ネットワーク株式会社. “事業所一覧”. 東北電力ネットワーク株式会社. 2020年4月12日閲覧。
- ^ “会社概要”. 東北電力ネットワーク株式会社. 2021年1月13日閲覧。
- ^ 竹之内, 達也 (1980). “北海道・本州間電力連系設備の概要”. 電気学会雑誌 100 (8): 727-734. doi:10.11526/ieejjournal1888.100.727.
- ^ 丸山, 武男 (1999). “電気のはてな?: 一年次学生の質問から”. 電気学会誌 119 (10): 623-626. doi:10.1541/ieejjournal.119.623.
- ^ “カンパニー制の導入を柱とする組織整備の実施について: 競争激化や法的分離を踏まえた事業体制を構築”. 東北電力株式会社 (2017年11月30日). 2019年7月3日閲覧。
- ^ “法的分離に伴う一般送配電事業の分社化の方向性について: 送配電会社として「東北電力ネットワーク株式会社」を設立する方向で検討”. 東北電力株式会社 (2018年9月27日). 2019年7月3日閲覧。
- ^ “法的分離に伴う一般送配電事業の分社化に向けた分割準備会社の設立決定について”. 東北電力株式会社 (2019年2月28日). 2019年7月3日閲覧。
- ^ “一般送配電事業の分社化に向けた吸収分割契約の締結について”. 東北電力株式会社 (2019年4月25日). 2019年7月3日閲覧。
- ^ “東北電力・福島支店長に二階堂氏 ネットワーク支社長は青野氏” (PDF). 福島民友新聞社 (2020年1月30日). 2021年8月22日閲覧。
- ^ “代表取締役の役員人事等について” (PDF). 東北電力株式会社 (2019年12月11日). 2021年8月22日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “東北電力 岩手三陸営業所で顧客情報を不適切に閲覧|NHK 岩手県のニュース”. NHK NEWS WEB. 2023年1月14日閲覧。
- ^ “経産省が関電・九電など5社に業務改善命令…顧客情報の不正閲覧”. 読売新聞. (2023年4月17日) 2023年4月19日閲覧。
外部リンク 編集
- 東北電力ネットワーク
- 東北電力ネットワーク株式会社 (@Tohoku_Network) - Twitter
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