プラトーン
『プラトーン』(英語: Platoon、英語発音: [pləˈtuːn] プラトゥーン)は、1986年公開のアメリカ映画。製作会社はオライオン・ピクチャーズで、監督・脚本はオリバー・ストーン。出演はチャーリー・シーン、トム・ベレンジャー、ウィレム・デフォー。
プラトーン | |
---|---|
Platoon | |
監督 | オリバー・ストーン |
脚本 | オリバー・ストーン |
製作 | アーノルド・コペルソン |
製作総指揮 |
ジョン・デイリー デレク・ギブソン |
出演者 |
チャーリー・シーン ウィレム・デフォー トム・ベレンジャー フォレスト・ウィテカー ケヴィン・ディロン ジョン・C・マッギンリー フランチェスコ・クイン デイル・ダイ ジョニー・デップ キース・デイヴィッド |
音楽 | ジョルジュ・ドルリュー |
撮影 | ロバート・リチャードソン |
編集 | クレア・シンプソン |
配給 |
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公開 |
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上映時間 | 120分 |
製作国 |
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言語 | 英語 |
製作費 | $6,000,000[1] |
興行収入 | $138,530,565 |
配給収入 |
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第59回アカデミー賞 作品賞など4部門、第44回ゴールデングローブ賞 ドラマ部門作品賞受賞作品。
タイトルの「プラトーン」は、軍隊の編成単位の一つで、30名から60名程度で構成される小隊の意味である(本来の発音に近い表記はプラトゥーンである)。
概要編集
1970年代の『ディア・ハンター』や『地獄の黙示録』に次いで、1980年代にベトナム戦争を描いたオリバー・ストーンの代表作である。
ベトナム帰還兵であるオリバー・ストーンが、アメリカ陸軍の偵察隊員であった頃の実体験に基づき、アメリカ軍による無抵抗のベトナム民間人に対する虐待・放火、虐殺や強姦、米兵たちの間で広がる麻薬汚染、仲間内での殺人、誤爆、同士討ち、敵兵に対する死体損壊など、現実のベトナム戦争を描く。
アメリカ国内だけで予算の20倍を超える1億3800万ドルの興行収入を記録した。
ストーリー編集
1967年のベトナム共和国(南ベトナム)。白人のクリス・テイラーは自分と同年代の、それも地域によっては依然として白人と比べて劣悪な扱いを受けている黒人やその他の少数民族、果ては誰も名前を知らないような小さな町で生まれ育った貧困層という、アメリカ合衆国の底辺層である若者が、職業と現金を求めて、次々とアメリカ軍に入隊していく現実に憤りを覚えていた。
そして、両親の反対を押し切って大学を中退し、アメリカ陸軍に志願、ベトナム戦争の戦場へやってきた。しかし、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)のゲリラ戦に悩まされ、鬱蒼とした密林のジャングルで敵味方が混在する戦場の過酷さは彼の想像を遥かに超えるものであり、現地に配属された当日に自身の正義漢ぶった決断を後悔する。
クリスは、カンボジア国境付近に駐屯するアメリカ陸軍第25歩兵師団のある小隊に配属される。そこは、まさに戦鬼と化した鬼軍曹バーンズと、まだ人間らしさを残したエリアス軍曹が取り仕切り、若い小隊長が干渉できない小社会だった。クリスはさまざまな出自の若い兵士たちの中で、時に敵と戦い、時に戦友たちと大麻を嗜み、徐々に小隊、兵隊生活、そして戦争になじんでいく。
だが、戦争はさらに過酷さを増し、ベトコンや北ベトナム軍の罠ばかりか、味方の同士討ちまでもが小隊を襲う。戦友は次々と倒れ、生き残った戦友たちの中には現地民間人に手を出すものまで現れ、彼らの処遇を巡ってバーンズとエリアスの対立は決定的な破局を迎えた。
エリアスは無防備な民間人を殺害したバーンズを軍法会議に告発しようと考えていたが、エリアスは戦場の混乱の中でバーンズに撃たれてしまう。重傷を負い戦地に取り残されたエリアスは北ベトナム軍の追撃を受け、ヘリコプターで離脱したばかりのクリス達の目前で絶命した。クリスは、バーンズの態度から彼がエリアスを撃ったことを察知し、仲間たちに報復を呼びかけるが、彼らはバーンズに一喝されて尻込みしてしまう。
翌日、北ベトナム軍の大部隊が夜襲を仕掛け、クリスたちは戦場で敵に囲まれてしまう。クリスたちの防衛線を突破した北ベトナム軍が後方地帯にも浸透し、大隊本部は自爆攻撃によって大隊長ごと壊滅する。クリスたちの中隊長は自分たちのいる陣地ごと空爆するように要請を出し、クリスたちは味方の空爆に巻き込まれてしまう。翌朝、負傷したものの空爆から生き延びたクリスは、重傷を負ってなお生き延びようとするバーンズを見付け、拾った敵の銃(56式自動歩槍)で射殺する。クリスは味方の部隊に救出され、二度戦傷を負ったら本国送還になるというルールにもとづき戦場を後にする。
キャスト編集
役名 | 俳優 | 日本語吹替 | ||
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ソフト版 | テレビ朝日版 | テレビ東京版 | ||
クリス・テイラー | チャーリー・シーン | 宮本充 | 池田秀一 | 堀内賢雄 |
ボブ・バーンズ2等軍曹 | トム・ベレンジャー | 谷口節 | 佐々木功 | 山路和弘 |
ゴードン・エリアス3等軍曹 | ウィレム・デフォー | 大塚芳忠 | 苅谷俊介 | 森田順平 |
バニー | ケヴィン・ディロン | 落合弘治 | 古田信幸 | 藤原啓治 |
ビッグ・ハロルド | フォレスト・ウィテカー | 相沢正輝 | 屋良有作 | 中博史 |
レッド・オニール | ジョン・C・マッギンリー | 田原アルノ | 千田光男 | 内田直哉 |
ラー | フランチェスコ・クイン | 古澤徹 | 麦人 | 廣田行生 |
ハリス大尉 | デイル・ダイ | 水野龍司 | 池田勝 | 仲野裕 |
ガーター・ラーナー | ジョニー・デップ | 岩松廉 | 星野充昭 | 川島得愛[3] |
キング | キース・デイヴィッド | 中博史 | 谷口節 | 楠見尚己 |
フランシス | コーリー・グローヴァー | 吉田孝 | 田中亮一 | 成田剣 |
ウォルフ中尉 | マーク・モーゼス | 清水明彦 | 安原義人 | 平田広明 |
ウォーレン | トニー・トッド | 手塚秀彰 | 大山高男 | 水内清光 |
ジュニア | レジー・ジョンソン | 檀臣幸 | 江原正士 | 咲野俊介 |
ガードナー | ボブ・オーウィグ | 後藤史彦 | 牛山茂 | 大川透 |
テックス | デヴィッド・ニードルフ | 古澤徹 | 幹本雄之 | 平野俊隆 |
ドク | ポール・サンチェス | 青山穣 | 田原アルノ | 中多和宏 |
クロフォード | クリス・ペダーソン | 堀川仁 | 二又一成 | 浜田賢二 |
ロドリゲス | クリス・カスティリェホ | 柳沢栄治 | ||
サンダーソン(サンディ) | J・アダム・グローヴァー | 鳥畑洋人 | 曽我部和恭 | |
マニー・ワシントン | コーキー・フォード | 青山穣 | ||
トニー | イワン・ケイン | 柳沢栄治 | 水野龍司 | |
エース | テリー・マキルヴェイン | 永井誠 | 古澤徹 | |
タブス | アンドリュー・B・クラーク | 吉田孝 | 宮島史年 | |
モアハウス | ケヴィン・エシェルマン | 青山穣 | 阪口周平 | |
パーカー | ピーター・ヒックス | 永井誠 | ||
ジャスパー | 鳥畑洋人 | |||
キーファー | 永井誠 | |||
マシューズ | 檀臣幸 | |||
アル | 落合弘治 | |||
ホフマイスター | ロバート・ガロッティ | 手塚秀彰 | ||
サル | リチャード・エドソン | 後藤史彦 | ||
エベンホック | マーク・エベンホック | 吉田孝 | ||
老女 | クラリサ・オルタチオ | 原語流用 | 定岡小百合 | |
掩蔽壕に居る第一中隊少佐 | オリバー・ストーン | 手塚秀彰 | 大川透 |
- ソフト版:初回盤発売1998年6月25日
- 演出:蕨南勝之、翻訳:峯間貴子、調整:金谷和美(ビーライン)、担当:山口芳子、平馬陽子、オペレーター:藤巻良(ビーライン)、プロデューサー:佐渡和広(カルチュア・パブリッシャーズ)、制作:夏海佑実(エンジェルワークス)、制作協力:有限会社ビーライン、配給・制作:カルチュア・パブリッシャーズ株式会社
- テレビ朝日版:初回放送1989年10月8日『日曜洋画劇場』
- 演出:伊達康将、翻訳:佐藤一公、調整:小野敦志、プロデューサー:猪谷敬二、制作:東北新社
- 当時『日曜洋画劇場』で解説をしていた淀川長治はオリバー・ストーン嫌いで知られていたが、本作のテレビ朝日版の吹き替えを鑑賞後に一転して「結構いいね。オリバー・ストーンやるね。」と称賛し、解説でも好意的な感想を述べていた。後に『JFK』を放送した際も同様の出来事があったという[4]。
- テレビ東京版:初回放送2003年9月25日『木曜洋画劇場』
スタッフ編集
- 監督/脚本:オリバー・ストーン
- 製作総指揮:ジョン・デイリー、デレク・ギブソン
- 製作:アーノルド・コペルソン
- 撮影:ロバート・リチャードソン
- 音楽:ジョルジュ・ドルリュー
- 特殊メイク:ゴードン・J・スミス
- 美術:ローデル・クルツ
- 日本語字幕翻訳:岡枝慎二
- 日本語吹替翻訳:峯間貴子
作品解説編集
出演した俳優は当時まだ無名に近いものが多く、予算は600万ドルと多くはなかったが、実体験に基づいたリアリティのある戦闘シーンなどハリウッド的スペクタクル映画の要素も備えており映画は大ヒットした。
『プラトーン』の成功でオリバー・ストーンはベトナム戦争を題材にした映画の先駆者として評価されるようになり、一人のベトナム帰還兵の生涯を描いた『7月4日に生まれて』を監督。同作品でもアカデミー監督賞を受賞した。
ナレーションは主役を演じたチャーリー・シーンにより行われた。
配役編集
主人公のクリス・テイラー役には当初カイル・マクラクランやキアヌ・リーブスが候補に挙がっていたが、共に出演を断られた。また、チャーリー・シーンの実兄であるエミリオ・エステヴェスにも出演を依頼したがギャランティー関連の交渉が成立せず、「テイラーを演じるには若すぎる」として出演を断っていた弟のチャーリー・シーンが演じることとなった。また監督はジョニー・デップにもテイラー役をオファーしている。デップは自分が若すぎることと自らに知名度がないことを理由に断ったが、ストーンは「彼は将来一大映画スターになるであろう」と予測し、(端役ではあったが)ガーター・ラーナー役での出演を直訴した。
冷酷無比な人物として登場するバーンズ軍曹[5]の役は当初ケビン・コスナーに出演を依頼していた。
撮影・演出編集
撮影当時は、アメリカ合衆国とベトナム社会主義共和国との国交がなかったため、フィリピン共和国のルソン島で行われている。映画に参加する全ての俳優は、撮影開始2週間前からフィリピンに滞在し、当時の生活を実践した。髪型と食料は、軍人仕様と同一のもの(GIカットにレーション)とさせられ、シャワーを浴びることさえ許可されなかった。また、ジャングルで夜を明かす際も、ローテーションで監視まで行う徹底ぶりであった。指導には、元アメリカ合衆国海兵隊大尉であり、本作でハリス大尉役を演じているデイル・ダイが係わっている[6]。
映画で使用された煙草は、オリバー・ストーンがリアリティに拘った結果、当時製造されていた桜色のパッケージを施したマールボロを再現した。
映画に参加した俳優の中には、着用しているM1ヘルメットのカバーに自らメッセージを書き加えたものもいる[7]。
焼き討ちした村を離れ、大勢の兵士が銃を携行して移動するシーンには、日本のMGC製モデルガンM16自動小銃が小道具として使われていた。
受賞・ノミネート編集
- 第59回アカデミー賞
- 受賞:作品賞、監督賞、編集賞、録音賞
- ノミネート:脚本賞、助演男優賞(ベレンジャー/デフォー)、撮影賞
- 第44回 ゴールデングローブ賞
- 受賞:ドラマ部門作品賞/監督賞/助演男優賞(ベレンジャー)
- ノミネート:脚本賞
- 第41回 英国アカデミー賞
- 受賞:監督賞、編集賞
- ノミネート:撮影賞
- 第2回 インディペンデント・スピリット賞
- 受賞:作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞
- ノミネート:主演男優賞(デフォー)
- 第37回ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)
- 第22回 カンザスシティ映画批評家協会賞 監督賞
- 第7回 ボストン映画批評家協会賞 監督賞
- 第61回 キネマ旬報ベスト・テン 委員選出外国語映画第2位
- 第11回 日本アカデミー賞 最優秀外国語作品賞
脚注編集
- ^ “Platoon (1986)” (英語). Box Office Mojo. 2011年4月3日閲覧。
- ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924-2011』(キネマ旬報社、2012年)460頁
- ^ 終盤の通信のシーンでは阪口周平になっている。
- ^ “第1回 淀川長治氏の作品評価をひっくり返した日本語吹き替え版の偉業”. ふきカエル大作戦 日本語吹替え専門. アンソニーの吹替え事件ファイル (2022年7月1日). 2022年9月5日閲覧。
- ^ バーンズ軍曹のモデルとなった人物は、過去、顔のキズを治すため沖縄基地へ赴任したことがあり日本人女性と結婚している(原作より)。
- ^ ダイは本作のノベライズも執筆している。
- ^ 通訳兵ラーナーを演じたジョニー・デップは、シンプルに当時交際していた女優のシェリリン・フェンの名前を書いた。また彼は撮影当時22歳であったが、アメリカ国外へ出たのは『プラトーン』の撮影が初めてであった。彼の将来性を見抜いていたストーンは、ジョニー・デップを初めてハリウッドに紹介した人物であるとされている。