南海12000系電車
南海12000系電車(なんかい12000けいでんしゃ)は、南海電気鉄道の特急形電車である。
南海12000系電車 泉北高速鉄道12000系電車 | |
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南海電気鉄道12000系 | |
基本情報 | |
製造所 |
東急車輛製造[* 1] 総合車両製作所横浜事業所[* 2] |
製造年 | 2011年 - 2016年 |
運用開始 |
南海電気鉄道:2011年9月1日 泉北高速鉄道:2017年1月27日 |
投入先 | 高野線(難波 - 中百舌鳥間)[注 1]・泉北高速線(特急泉北ライナー) |
主要諸元 | |
編成 | 4両編成 |
軌間 | 1,067(狭軌) mm |
電気方式 |
直流1,500V 架空電車線方式 |
最高運転速度 | 110 km/h |
設計最高速度 | 120 km/h |
起動加速度 | 2.5 km/h/s |
減速度(常用) | 3.7 km/h/s |
減速度(非常) | 4.0 km/h/s |
全幅 | 2,820 mm |
全高 |
先頭車4,140mm 中間車4,050 mm |
車体 | ステンレス |
台車 |
モノリンク式ボルスタレス台車 SS-177M・SS-177T |
主電動機 |
三菱電機製 かご形三相誘導電動機 MB-5091-A2[* 1] MB-5091-A3[1][* 2] |
主電動機出力 | 180 kW |
駆動方式 | WNドライブ |
歯車比 | 98/15 (6.53) |
編成出力 | 1,440 kW |
制御方式 | IGBT素子VVVFインバータ制御 |
制御装置 |
日立製作所製 VFI-HR1420V[* 1] VFI-HR1421F[1][* 2] |
制動装置 | 回生ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ、全電気ブレーキ |
保安装置 | 南海型ATS |
備考 |
本項では、基本設計が共通する泉北高速鉄道の12000系電車についても記述する。
概要
2011年(平成23年)、特急「サザン」指定席車の次世代型車両として、また10000系の後継車両として製造された。愛称は「サザン・プレミアム」。大手私鉄初のステンレス製特急形車両である。同年9月1日より営業運転を開始した[2]。
車両概説
車体
20m級軽量ステンレス無塗装車体で、「サザン」の自由席車として併結する8000系をベースに設計されており、車体断面形状は同系列と同一である。
「サウスウェイブ」をデザインコンセプトとし、車両先頭部から側面上部へつながるブルーのラインと、車体側面下部の丸みを帯びたブルーとオレンジのラインは、大阪湾、和歌山へ押し寄せる人と車両の「波」、全国から大阪ミナミへ押し寄せる人の「波」をイメージしている。
前面は造形・加工の容易なFRP製で、中央に愛称ロゴ付きの貫通扉を備える。難波方先頭車については、自由席車との併結のため幌を備える一方、貫通扉のワイパーと愛称ロゴが省略されている。連結器は作業の容易な電気連結器併設密着式となっている。前照灯は8000系に準じた配置であるが、前面下部のLED式尾灯一体型列車識別灯はカラーデザインとの連続性を持たせた大型とされ、目を引くものとなっている。
側面は、窓周りを黒色として連続窓風としたほか、中央に愛称ロゴを配した。1号車後部[注 2]にはNANKAIロゴと南海本線、空港線を表現したイラストを組み合わせたステッカーが貼付されている。乗降扉は各車両1か所、有効開口幅は約900mmで、従来折り戸やプラグドアを採用してきた南海の特急形車両では初の片引き戸となっており、メンテナンス性に配慮している。なお、中間車は将来の乗降扉増設が考慮されており、その開口部を「ふさぎ構体」により封鎖している。
内装
客室には、鉄道車両では初となるプラズマクラスター発生器を備える。照明は従来車に準じたスリット入り半間接照明と読書灯の組み合わせとなっている。
座席は2+2列の回転式リクライニングシートで、背面テーブルとフットレストを備える。座席幅は460mmに拡大され、モケットは南海線沿線の海(大阪湾)の波をイメージしたブルーに、細かい柄が描かれたものとなっている。快適性とプライバシーに配慮して、頭部を包み込む形状のヘッドレストとしているほか、センターアームレストを備える。また、ノートパソコンの使用などビジネスユーザーを意識して、全席にAC電源コンセントを備える。
仕切り壁上部にはLED式車内案内表示器を備える。引き戸は木目調のセンサー式自動扉で、換気用のルーバーが設置されている。なお、特急「サザン」初の自動放送装置を搭載しており、英語放送にも対応している。
デッキには防犯カメラが設置されており、映像が逐一SDメモリーカードに記録される。SDカードの取り出しと再生には専用のカギとソフトが必要となっており、個人情報保護に配慮している。出入口付近にはゴミ箱を備える。
1号車(和歌山市方先頭車)にはトイレと洗面所が設置されている。車椅子対応大型トイレのほか、男性用小便器、女性専用トイレを備える。男性用は当時南海の駅や南海フェリーで採用されていた無水トイレで、尿より比重の軽い液体がフタの役目をすることによって臭いが軽減される。処理方式は従来の循環式から清水空圧式に変更されている。
4号車(難波方先頭車)には多目的室があり、内部には座席のほか、非常通報装置や鏡などが備わっている。普段は施錠されているが、着替えや授乳、おむつ交換などの際には、乗務員への申し出により使用できる。また、飲料自動販売機が設置されている。
なお2014年以降には、天井照明と読書灯を昼白色LEDに変更し、サービスレベルの向上が図られている[3]。
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木目をアクセントとした車内
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LED式車内案内表示器
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プラズマクラスター発生器
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プラズマクラスターをアピールするステッカー
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男性用トイレ
機器類
基本設計は8000系に準じており、ほぼ同一の機器を搭載している。
主回路システムはIGBT素子によるVVVFインバータ制御装置、主電動機にはかご形三相誘導電動機のMB-5091-A2型[注 3]を採用した。車内照明や空調装置の電源用として静止形インバータのSH75-4045C型2レベルインバーター[注 4]をMc1車、T2車に搭載している。
台車は住友金属工業→新日鐵住金製SS177M形(電動台車)およびSS177T形(付随台車)モノリンク式ボルスタレス台車を装備する。集電装置はシングルアーム式パンタグラフPT-7144-B型を搭載する。
泉北高速鉄道12000系
2017年1月27日に運行を開始した特急「泉北ライナー」用に導入された車両である[4]。南海12000系のマイナーチェンジ車で、泉北高速鉄道が南海グループに参入して以降初の新型車両でもある。車両番号は20番台に区分されている。
2016年10月29日から31日にかけて、製造元の総合車両製作所横浜事業所[注 5]を出場し、JR線経由で南海本線の和歌山市駅まで甲種輸送され、その後光明池車庫まで自力回送された[5]。
2017年1月21日には、デビューを記念して計200名限定で、南海本線を経由して羽倉崎検車区へ向かい、到着後に車両撮影会を行うイベントが実施された[6]。
南海12000系と共通設計のため、「サザン」運用(自由席車4両を併結)にも対応している。その特性を生かし、2018年8月20日から9月22日まで、泉北・南海の12000系同士を交換して運用するイベントが行われ、泉北車による「サザン」が運転された[7][8]。
2024年5月30日からは、外装が新しいデザインに変更された。引き続き金色をベースとしているが、前面と側面の窓周りは黒でシックな印象を与えつつ、側面には青と金色の流れるような曲線をダイナミックに配置し、特急列車の疾走感を表現したものとなった[9][10]。
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泉北12000系による特急「サザン」(2018年8月20日)
内外装デザイン
南海12000系をベースに、各所に独自仕様が加えられている。変更内容は以下の通り。
- 車体外観を金色■をベースに青色■と黒色■のラインを配したデザインに変更。アメリカのゴールドラッシュ時に人が殺到したように、泉北地域へ人が集まるようにという願いから金色が採用された[11]。
- 落ち着いた車内空間にするため、側窓部分にもラッピングステッカーを張り付け[注 6]。
- 和泉中央方先頭車(12121)車体側面に、星の周りに4色の丸を配した[注 7]泉北ライナーシンボルマークを取り付け。
- 車内の座席とカーテンに4色のシンボルカラーを採用(1号車が黄色・2号車が緑色・3号車が紫色・4号車が赤色)。
- 「非日常」を演出するため、デッキ・洗面所・トイレの内装を金色に変更。
- 4カ国語対応の液晶ディスプレイ式車内案内表示装置を採用[注 8]。
- 客室灯にLED照明を採用。
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シンボルマーク
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デッキ
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LCD式車内案内表示器
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1号車の車内(黄色)
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2号車の車内(緑色)
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3号車の車内(紫色)
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4号車の車内(赤色)
運用
2011年(平成23年)2月に横浜市の東急車輛製造で落成し、和歌山市駅までJR線を甲種輸送され南海に入線した[12]。その後3月末から南海本線・高野線で試運転が行われた[13][14]。
同年7月4日には女性と子供を対象にした試乗会が行われた[15][注 9]ほか、8月20日には大手私鉄の車両では同系列が初採用となるプラズマクラスター技術の広報を目的とした親子向けイベント(試乗会)がシャープと共同で開催された[17]。
9月1日から、南海本線・和歌山港線の難波駅 - 和歌山市駅・和歌山港駅間で運行されている特急「サザン」の座席指定車として営業運転が開始され、自由席車両4両(8000系、9000系、8300系)を併結して運用されている[18][19][注 10]。本系の導入に伴い、10000系が2012年と2013年に1本ずつ廃車となった。
上記以外の試乗会では、小原田検車区(高野線の御幸辻駅 - 橋本駅間)や多奈川線に入線した[20]。また鉄道の日記念イベント「南海電車まつり」の開催日には、千代田工場への臨時列車に使用されている[21]ほか、2014年10月11日には光明池車庫で行われたイベントに合わせ、難波駅 - 光明池車庫間を臨時列車として走行し泉北高速線に初入線した[22]。
2024年1月現在、平日ダイヤでは10000系との共通運用、土休日ダイヤでは1日12便体制で本系指定の運用に入っている[23]。ただし高野線特急用車両や「泉北ライナー」用車両が検査のため運用を離脱する際は、本系が「泉北ライナー」用として貸し出される場合がある[24][注 11]。
2023年1月9日夜から約1ヶ月間は、「りんかん」の一部列車を12001Fが代走した[25]。30000系が前年の脱線事故で未復帰の中、31000系が定期検査により離脱したためで、行先表示器が「りんかん」に対応しておらず「特急 橋本(なんば)」表示で運転された。
編成
2017年1月時点で、4両編成2本(12001F、12002F)が南海電気鉄道に、4両編成1本(12021F)が泉北高速鉄道に所属している。それ以降の増備は行われていない。「サザン」運用では難波寄りに自由席車4両を併結することから、営業運転において南海車のモハ12001形が先頭に立つのは「泉北ライナー」および「りんかん」代走時のみである。
← 難波 和泉中央・和歌山港・橋本 →
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形式 | 4号車 モハ12001 (Mc1) |
3号車 サハ12801 (T1) |
2号車 サハ12851 (T2) |
1号車 モハ12101 (Mc2) |
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搭載機器 | CONT SIV |
CP | SIV | CONT CP |
定員 (着席) |
97人 (60人) |
107人 ( 68人) |
108人 (64人) |
95人 (50人) |
設備 | 多目的室 自販機 |
トイレ 車椅子スペース | ||
自重(t) | 41.5 | 30.5 | 32.0 | 40.5 |
脚注
注釈
- ^ 難波 - 岸里玉出間は、線路名称上は南海本線。
- ^ 和歌山市方先頭車・化粧室部
- ^ 定格出力180kW。
- ^ 入力側が直流1500V、出力側が三相交流220V・60Hz。
- ^ 泉北高速鉄道では初めての総合車両製作所製車両であり、東急車輛製造時代を含めると5000系(5509F)以来25年ぶりとなる。
- ^ 真横からは見えないが、斜めから見ると透けて見える構造になっている。
- ^ 中央の星は「新しさ」を、4色の丸は泉北ニュータウンの4地域(泉ヶ丘、栂、光明池、トリヴェール和泉)を表す。京都オパールを使用して装飾されている。
- ^ 『サザン』運用にも対応している。
- ^ 車籍編入は初の客扱いとなった本試乗会の当日(2011年7月4日)付となっている[16]。
- ^ かつてはシステム上は1000系との併結も可能だったが、営業運転での併結実績はない。8300系との併結は2020年12月から開始された。
- ^ 貸出期間中は、土休日の本系指定の「サザン」運用の一部が10000系で代走される。
出典
- ^ a b “12000系 - 車両図鑑”. 泉北高速鉄道. 2022年3月14日閲覧。
- ^ “南海12000系が営業運転を開始”. 『鉄道ファン』鉄道ニュース(交友社) (2011年9月1日). 2013年4月2日閲覧。
- ^ 「車両総説」『鉄道ピクトリアル』2023年10月臨時増刊号(通巻1017号)、電気車研究会、2023年、51頁。
- ^ 泉北高速鉄道12000系が営業運転を開始 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2017年1月28日
- ^ 泉北高速鉄道12000系が甲種輸送される - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2016年10月31日
- ^ 『特急“泉北ライナー”12000系デビュー!一番乗り撮影会in羽倉崎車庫』開催 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2017年1月22日
- ^ “金色の特急が南海線を疾走! 泉北 12000 系を特急「サザン」として運用します” (PDF). 南海電気鉄道・泉北高速鉄道 (2018年8月17日). 2024年4月18日閲覧。
- ^ 泉北12000系が特急“サザン”として運転開始 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2018年8月20日
- ^ “泉北ライナー(12000系)新デザインで運行します ~2042年5月30日営業運転開始~” (PDF). 泉北高速鉄道 (2024年5月10日). 2024年6月3日閲覧。
- ^ “泉北高速12000系が新デザインで営業運転に復帰”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2024年5月31日) 2024年6月3日閲覧。
- ^ 泉北高速鉄道公式Twitter 2018年1月24日
- ^ “南海12000系が甲種輸送される”. 『鉄道ファン』鉄道ニュース(交友社) (2011年2月9日). 2013年4月2日閲覧。
- ^ “南海12000系が高野線で試運転”. 『鉄道ファン』鉄道ニュース(交友社) (2011年3月23日). 2013年4月2日閲覧。
- ^ “南海12000系が試運転”. 『鉄道ファン』鉄道ニュース(交友社) (2011年4月6日). 2013年4月2日閲覧。
- ^ “南海12000系の試乗会 開催”. 『鉄道ファン』鉄道ニュース(交友社) (2011年7月5日). 2013年4月2日閲覧。
- ^ 「民鉄車両 会社別の動向(新造・改造・廃車)」『鉄道ピクトリアル』2012年10月臨時増刊号(通巻868号 鉄道車両年鑑2012年版)、電気車研究会、2012年、230頁。
- ^ プラズマクラスター搭載の特急「サザン」新型車両12000系特別試乗会を実施 (PDF) (インターネットアーカイブ)
- ^ 『私鉄特急年鑑 2011-2012』イカロス出版〈イカロスムック〉、2011年5月。ISBN 978-4863204522。
- ^ 南海9000系と12000系が併結運転される - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2015年12月11日
- ^ 特急サザン新型車両12000系 導入記念イベントを開催します (PDF) - 南海電気鉄道 2011年6月9日
- ^ “南海12000系,臨時列車で千代田工場へ”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2011年10月30日) 2024年4月14日閲覧。
- ^ “【泉北】「せんぼくトレインフェスタ2014」開催”. 鉄道ホビダス (ネコ・パブリッシング). (2014年10月15日) 2024年4月14日閲覧。
- ^ “特急サザン12000系 特設サイト”. 南海電鉄ホームページ. 2024年4月18日閲覧。
- ^ “南海12000系が“泉北ライナー”を代走”. 鉄道ファン. railf.jp 鉄道ニュース (交友社). (2016年1月6日) 2024年4月13日閲覧。
- ^ 南海特急“りんかん”の話題 - 交友社『鉄道ファン』railf.jp鉄道ニュース 2023年1月13日
参考文献
- 「鉄道ジャーナル」2011年8月号(通算538号)「南海の新型サザン12000系特急形電車の概要」(山田健太郎 著)
- 「鉄道ファン」2017年4月号(通算672号)「泉北高速鉄道12000系」
関連項目
外部リンク
- 南海電気鉄道12000系(サザン・プレミアム) - 総合車両製作所(インターネットアーカイブ)