デトックス(detox)は、生理学的・医学的に生物の体内に溜まった有害な毒物を排出させることである[1]。この呼び名はdetoxification(解毒、げどく)の短縮形である[1]

デトックスの語句は、大別して以下の二通りの意味で用いられる。

後者の意味でのデトックスには、科学的根拠が伴わなず効果がなく、経済的に無駄であり、むしろ身体に潜在的な危害を及ぼす恐れがある点で問題があることについて、多くの指摘がある[5][6][7][8][9][10]本稿の該当項目で詳述する。

医療編集

依存症・中毒症状に対するデトックス編集

薬物中毒編集

薬物中毒に陥った際は、原因物質を特定して解毒剤が使われる[3]活性炭アトロピンナロキソン、蛇の抗毒素、キレート剤、アセチルシステイン[11]などその毒に対応したもの使われる。

また、人工透析胃洗浄大腸洗浄英語版なども行われる。

依存症編集

アルコール依存症薬物依存症の際に、身体から薬物を減少させる治療を解毒(detoxification)と呼ぶ[2]。この場合、離脱症状の管理も必要とされる。

人体では通常、肝臓が解毒を行っている[12]肝性脳症肝機能が低下した場合に起こることがある意識障害で、通常肝臓で解毒されているアンモニアなどが脳に回ることで起こる。

ダイオキシン排出に関する研究※編集

(※この分野における研究では、医学上、デトックスという語句は用いられていない[13][14]。)

カネミ油症の患者での研究では、ラットでは食物繊維はダイオキシン類を吸着して排泄させることで、排泄速度を2~4倍に高めダイオキシン類の健康への影響を減少できる可能性があるとされ、人間ではコレスチラミンと米ぬかを併用して排泄速量が増加したことが示されている。また同研究では、断食療法にカネミ油症の臨床所見改善の効果も認められている[13]

別のラットでの実験では、わかめ,のり,ひじき,こんぶ及び青のりが食品からのダイオキシンの吸収を抑制したことが示され、ダイオキシン類による健康影響を防止するための食生活の方法として,クロロフィルと食物繊維が豊富な海藻類を多く摂ることが重要であることが示唆された[14]

マーケティング用語編集

医療以外の分野におけるデトックスの先行研究として、博士号取得者や大学院生300人以上でつくるVoice of Young Scienceが2009年に公表した調査報告が挙げられる。同報告によると、デトックスと書かれた15製品の効果は、ほとんど無意味で時間と金の無駄であり、「デトックス」の語句はマーケティング用語に過ぎないと結論付けた[15][16][17]。製品には、肌用ジェル、シャンプー、体用ブラシ、ビタミン剤、スムージー、水といったものが含まれた。

マーケティング用語としてのデトックスは、生活上、体内に人体に悪影響を及ぼす化学物質重金属合成化合物、有害な薬物)が蓄積し、これを排出させる必要があるため、これを行う手段がデトックスであると主張されている[18]。しかし各企業によってその定義は異なり、信頼性や一貫性のある説明はなされていない[19]

英国国民保健サービス(NHS)は2009年に、医療以外の分野における「デトックス」に根拠はなく、むしろ一部の製品は健康を損なう可能性があり有害であることを広報した[1]

具体的な問題点編集

分別ある食生活や生活環境、軽い運動や休養など健康的に生活していれば、人体は副腎機能の正常化を条件に肝臓腎臓をはじめとした体にとって有害な物質を取り除く機構を備えている。なお、確かに有害な重金属やダイオキシン類は体内に蓄積され、出産を除いて大量に自然排出される機会はほとんど無いが、それは人体に密接に結びついているためであり、仮にそれらを短期間に大量排出する方法があったとしても、身体には大きな負担を伴う危険性も考えうる。また、例えばグルタチオンは脂溶水銀と結合し安定物質となって細胞内から排出させる等の汎的な解毒性を有するものの、これは万能ではなく、あくまで特定の物質に対して微量の排出を促す限定的な効能しか示さない。

科学的根拠に乏しい、いわゆる疑似科学を用いたものも存在する。こうした効果を提唱した製品を販売する業者はもとより、同様に根拠の無い効果を提唱するエステティックサロンなども、景品表示法に違反する可能性が高いものもある。

  • 全ての重金属合成化合物などが有害であるとする偏見も多いが、例として取り上げられることのある水銀カドミウムが日常的に摂取され続けることはほとんどなく、またモリブデン亜鉛といった一部の重金属ミネラルを構成する大切な栄養素である。今日では食塩料理酒クエン酸重曹といった調味料添加物サプリメントワクチンを含む医薬品にも合成化合物が用いられているケースは珍しくない。生理学的見地から、合成化合物であること自体が理由となって健康被害が発生する危険性は無い。[20]
  • 食品添加物については、安全性を確保するため、動物実験によって無害とされた量(無毒性量)について、百分の一以上の安全係数を掛けて摂取許容量が設定される。摂取許容量(無毒性量の百分の一以下の量)より大幅に少ない量が法令上の基準値とされた上に、実際に使用される量は基準より更に大幅に少ない。このように食品添加物は、毎日・一生食べても安全な範囲でのみ使用される。ただし、科学的根拠は実証されていない。[21]

事例編集

  • 足裏から重金属などの毒素を排出する効果を提唱するフットバス製品が存在し、これを使用すると容器内の水の色が変化する。業者の説明ではこれは体内の毒素が水に溶け出したために生じたものとされるが、実際には水中の電極に使用されている金属が電気分解により変化し、水酸化鉄(サビ)が水に溶け出した結果である。[22]
  • イギリスでは、「デトックスダイエット」として栄養士の指示のもと毎日の多量の水の摂取と減塩を実施した52歳の女性がナトリウム欠乏症となり、脳に回復不能な損傷を負った。この損傷により、女性は記憶機能・言語機能・集中力についての障害者となった。[23]
  • ベラルーシのグループが「アップルペクチンには放射性セシウムの排出を促進する作用がある[24]」との論文を出しサプリメントを販売していたが、それに対してフランスの放射線防護・原子力安全研究所が信頼性を疑う報告書を出した。[25]また、フランスのグループがラットを用いてセシウム137の排出効果を「プルシアンブルー投与 ・ アップルペクチン投与 ・ 何も与えない」3グループで比較した結果、アップルペクチンの排出効果は、何も与えないグループと同等で効果が無かった。[26][27]

方法編集

脚注編集

  1. ^ a b c 'Detox' tincture Q&ANHS(2009年3月11日)
  2. ^ a b 成瀬暢也「精神作用物質使用障害の入院治療 : 「薬物渇望期」の対応法を中心に」 (pdf) 『精神神經學雜誌』第112巻第7号、2010年7月25日、 665-671頁、 NAID 10028059133
  3. ^ a b 岡田芳明「薬物中毒の治療:特に体内からの除去促進」『臨床化学』第31巻第2号、2002年、 113-118頁、 doi:10.14921/jscc1971b.31.2_113NAID 130003357361
  4. ^ Debunking detox · Sense about Science”. archive.senseaboutscience.org. 2020年5月27日閲覧。
  5. ^ The detox myth: Why you should stop wasting money on juices” (英語). Metro (2014年3月24日). 2020年5月27日閲覧。
  6. ^ “Scientists dismiss 'detox myth'” (英語). (2009年1月5日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7808348.stm 2020年5月27日閲覧。 
  7. ^ Randerson, James; correspondent, science (2009年1月5日). “Detox remedies are a waste of money, say scientists” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/science/2009/jan/05/detox-science 2020年5月27日閲覧。 
  8. ^ Hale, Beth. “Detox diets to kick-start the New Year are a 'total waste of money' say experts”. Mail Online. 2020年5月27日閲覧。
  9. ^ Products offering an easy detox 'are a waste of time'” (英語). The Independent (2009年1月5日). 2020年5月27日閲覧。
  10. ^ Wiley Online Library” (英語). Wiley Online Library. 2020年5月27日閲覧。
  11. ^ 友田吉則、福本真理子「解毒薬 活性炭」『The Japanese journal of clinical toxicology』第31巻第1号、2018年、 41-46頁。 藤田基、鶴田良介「解毒薬 アトロピン」『The Japanese journal of clinical toxicology』第30巻第4号、2017年、 391-394頁。 岡崎敬之介、峯村純子「解毒薬 ナロキソン塩酸塩」『The Japanese journal of clinical toxicology』第30巻第3号、2017年、 261-266頁。 堺淳「解毒薬 ヘビの抗毒素」『The Japanese journal of clinical toxicology』第30巻第1号、2017年、 41-45頁。 髙野博徳、遠藤容子、黒木由美子「解毒薬 キレート剤」『The Japanese journal of clinical toxicology』第29巻第3号、2016年、 259-263頁。 福本真理子「解毒薬(1)N-アセチルシステイン」『The Japanese journal of clinical toxicology』第26巻第2号、2013年、 129-133頁。
  12. ^ 田中稔「肝臓と化学 体の化学工場」『化学と教育』第65巻第8号、2017年、 404-405頁、 doi:10.20665/kakyoshi.65.8_404NAID 130006328390
  13. ^ a b 小栗一太、赤峰昭文、古江増隆 「第9章」『油症研究 30年の歩み九州大学出版会、2000年6月。ISBN 4-87378-642-8。序文、268-269、282、288、298-302頁。(英訳 YUSHO
  14. ^ a b 森田邦正、飛石和大「ダイオキシン類の排泄促進に関する研究」『福岡県保健環境研究所年報』 第28号 平成12年度(2000)、2001年12月。56頁。
  15. ^ 「デトックス」製品は無意味?英科学者団体が指摘 AFP通信(2009年1月6日)
  16. ^ Scientists dismiss 'detox myth' BBC News(2009年1月5日)
  17. ^ Debunking detox Sense about Science(2009年1月)
  18. ^ 'Detox' tincture Q&A” (英語). nhs.uk (2017年8月21日). 2020年5月27日閲覧。
  19. ^ 「デトックス」製品は無意味?英科学者団体が指摘” (日本語). www.afpbb.com. 2020年5月27日閲覧。
  20. ^ 続・生物工学基礎講座 天然物由来成分に騙されるな”. 2020年6月25日閲覧。
  21. ^ 日本食品添加物協会” (日本語). 日本食品添加物協会. 2020年6月25日閲覧。
  22. ^ 足裏から毒素”はニセ科学!? [リンク切れ] 毎日放送 VOICE (2007年3月9日)
  23. ^ https://www.express.co.uk/news/uk/53627/Detox-diet-woman-awarded-163-810-000
  24. ^ Reducing the 137Cs-load in the organism of "Chernobyl" children with apple-pectin.2004年
  25. ^ Cesium-137 : pectin's potential remedial role is an open question IRSN 2005年
  26. ^ 「健康食品で解毒」を信じてはいけないFOOCOM.NET(2011年7月9日)
  27. ^ Comparison of Prussian blue and apple-pectin efficacy on 137Cs decorporation in rats.2006年

関連項目編集