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化学式H₂Oで表される、水素と酸素の化合物
水中から転送)

水面から跳ね返っていく水滴
海水

(みず、: water、他言語呼称は下記参照)とは、化学式 H2O で表される、水素酸素の化合物である[1]。特にと対比して用いられ[1]、温度が低く、かつ凝固してにはなっていないものをいう。また、液状のもの全般を指す[1][注 1]

ハイドロ: Hydro-)は 古代ギリシア語: ὕδωρIPA:/hý.dɔːr/)に因み、「水の」を意味する接頭語に使用される。

この項目では、H2O の意味での水を中心としながら、幅広い意味の水について解説する。

目次

概説

水は人類にとって最もありふれた液体であり、基本的な物質である。また、人が生命を維持するには必要不可欠であり、さまざまな産業活動にも不可欠の物質である。

古代ギリシャではタレスが「万物のアルケーは水」とし、エンペドクレス四大元素のひとつで基本的な元素として水を挙げた。古代インドでも五大のひとつとされ、中国の五行説でも基本要素のひとつと見なされている。18世紀の後半まで、洋の東西を問わず人々はそうした理解をしていた。それが変わったのは、わずか200年ほど前のことであり、19世紀前半に、ドルトン、ゲイリュサック、フンボルトらの実験が行われ、アボガドロによって分子説が唱えられたことによって、H2Oで表すことができる水素と酸素の化合物と理解されるようになった。(→#水の知識の歴史概略

常温常圧では液体で、透明ではあるが、ごくわずかに青緑色を呈している(ただし、重水は無色である)。また無味無臭である。日常生活で人が用いるコップ1杯や風呂桶程度の量の水にはほとんど色がないので、水の色は「無色透明」と形容される。詩的な表現では、何かの色に染まっていないことの象徴として水が用いられることがある[注 2]。しかし、ダム、大きななど、厚い層を成して存在する大量の水の青色に見える。このような状態で見える水の色を、日本語ではそのまま水色と呼んでいる。(→水の色

化学が発展してからは化学式 H2O で表され、「水素原子と酸素原子は共有結合で結びついている」と理解されている。(→水の性質

また水は、かつて1kgや1cal単位の基準として用いられた。(→水の性質

すべての既知の生命体にとって、水は不可欠な物質である。生物体を構成する物質で、最も多くを占めるのが水である。細胞質で最も多い物質でもあり、細胞内の物質代謝の媒体としても利用されている。通常、質量にして生物体の70〜80%が水によって占められている。人体も60〜70%程度が水である。(→#生物と水

地球表面、特に海洋に豊富に存在する。水は人類にとって身近であって、生物の生存に必要な物質であるが、宇宙全体では液体の状態で存在している量は少ない。(→#水の分布

現代の人類の水の使用量の約7割が農業用水である。現代の東京の家庭での水の使用量を多い順に並べると、トイレ風呂炊事である。(→#水の使用量

下記では、水に関する人類の知識の歴史概略を解説し、続いて現代物理学での水の理解などを解説する。

呼称

日常的な日本語では、同じ液体の水でも温度によって名称を変えて呼び分ける。低温や常温ではと呼ぶが、温度が高くなると(ゆ)といい[注 3]、別の漢字を宛てる。しかし、英語 (water) やフランス語 (eau) などでは、液体であれば温度によらず名称は不変である[注 4]

日本語では、(湯などから立ち上った)水蒸気が凝結して空気中に細かな粒として存在する水は、湯気という。

用途、性質、存在する場所などによる呼び分けも行われている。例えば、水の中でも、特に飲用に供するものを飲料水という。にある塩分などを多く含む水は海水、地下に存在する水は地下水と呼び、地下水を汲みボトルに詰めたものをミネラルウォーターと呼ぶ。また、用途によって、農業用水工業用水などの呼称もある。機能と水質に基づく、上水下水という呼称もある。

他言語での呼称

ウィクショナリーの『みず』の項」も参照

: eau: Wasser: aqua: acqua西: agua: água: воды(ヴォディ)、: (シュイ)、: (ムル)、: ماء‎(マーイ)、: آب‎(アーブ)、ヘブライ語: מים‎(マイム)、ヒンディー語: पानी(パーニー)、タイ語: น้ำ(ナー)、ギリシア語: νερό(ネロ)、マオリ語: wai蒙古語:ᠤᠰᠦ(オス)、チベット語: チベット文字ཆུ (チュウ)

自然科学での呼び分け

水の概念を自然科学的に拡張して、化学式で H2O と表現できるものをすべて広義の「水」とすれば、固体、液体は気体水蒸気、ということになる。

IUPAC系統名オキシダン (oxidane) であるがほとんど用いられない。また、一酸化二水素酸化水素水酸水酸化水素といった呼び方をすることも可能である。(→水素化物

不純物をほとんど含まない水を「純水」と呼ぶ(たとえば、加熱してできた水蒸気を凝結した蒸留水など)。特に純度の高いものは「超純水」という呼称もある。

水の化学式 H2O の水素が二つとも同位体重水素である水を重水と呼び、化学式 D2O で表す。水素の一つが重水素であり、もう一つが軽水素である水は、半重水と呼び、DHO で表す。水素の一つが三重水素(トリチウム)である水は、トリチウム水(または三重水素水)と呼び、HTO で表す。重水・半重水とトリチウム水を併せ、さらに酸素の同位体と水素の化合物である水も含めて、単に重水と呼ぶこともある。この広義の重水に対して、普通の水は、軽水と呼ばれる。

軽水と重水は電子状態が同じなので、化学的性質は等しい。しかし、質量が2倍、3倍となる水素の同位体の化合物である水では、結合や解離反応の速度などの物性に顕著な差が表れる。(→速度論的同位体効果

気象用語

気象に関する用語では、水の粒の大きさによって、(もや)と呼ぶ(これらを総称した一般用語としてもある)。それらが上空にある状態では、と呼ぶ。雲から凝縮して大きめの水滴となって地上に落ちてくる水はと呼ぶ。上空で水蒸気が凝固して結晶となった氷はと呼ばれ、一体の結晶になっていない粒は、大きさによって(あられ)や(ひょう)と呼ぶ。それらが水と混合した状態になっていれば、(みぞれ)と呼ばれる。

水の知識の歴史概略

古代から18世紀まで

古代ギリシアの哲学者、一般に最初の哲学者とされる、紀元前6世紀ころの人物ミレトスタレスは、万物の根源アルケーを探求する中で「アルケーは水である」と述べたと伝えられている[2][注 5]

同じく古代ギリシアエンペドクレスは、空気古代ギリシア語: πυρ, αήρ, ὕδωρ, γη[注 6]ギリシア語: φωτιά, αέρας, νερό, γη: ignis, aer, aqua, terra)を4つのリゾーマタ(古代ギリシア語: ῥιζὤματα、「物質」の意で今日の元素のこと)とし、それの集合や離散によって自然界のできごとを説明する、いわゆる四元素説を唱えた[2]。これはアリストテレスに継承された。

古代インドでも、地、水、火、風 およびこれに空を加えた五大の思想が唱えられていた[2]。また中国においても、万物はの5種類の元素から成るとする五行説が唱えられた。

つまり、洋の東西を問わず、水は、基本的な4~5種の元素のひとつだと考えられていたのであり、こうした水の理解は、2,000年以上にわたって人々の間で一般的であった。18世紀後半の時点でも、ごく一般的であった。

こうした理解に変化が生じはじめたのは18世紀末のことであり[2]、人類の歴史の中に位置づけると、ごく最近のことである。18世紀末に、キャベンディッシュが、金属と酸とが反応を起こすときに、軽い謎の気体(現在では水素と呼ばれているもの)が発生し、それは簡単に燃えて水になることを発見した[2]。また、ラボアジエが、この燃焼で化合する相手が空気中の酸素であることを確かめた[2]。これによって、(実は)水は元素ではない、という考え方が登場した。ただし、ラボアジエの実験があっても、人々の考え方がすぐに変わったわけではなく、人々は以前どおり四元素の考え方をしていた、学者らもおおむね四元素の考え方をそれまでどおり用いていた、と科学史家らから指摘されている。18世紀までの文献に現れる「aqua」、「water」、「水」などは、基本元素としての水だと理解するのが適切である。

19世紀

その後19世紀初頭、イギリスのドルトンが実験の結果、水素と酸素が重量比で1:7で化合するとし(後に正しくは1:8と判明)、1805年にはゲイ・リュサックフンボルトなどがそれぞれ、体積比で2:1で化合することを見出した[2]。さらに1811年に、アボガドロ分子説を唱え、その枠組みの中で水の分子がH2Oと定められた。このころ(19世紀の初頭)に西欧の学者たちの水の理解が変わったと科学史家らによって指摘されており、同世紀を通して一般の人々の理解も変化していったと考えてよい[注 7]

分子説の成立とともにあったという点などで、水は近代化学の発展のきっかけを作ったものである[2]。この時期は、おおむねphilosophia(哲学)を母胎としてscientia(科学)が生まれつつあった時期と一致している。こうした新しい独特の哲学を行う人の数が徐々に増え、彼らが自分たちのことを他の哲学者から区別するためにscientist(科学者)という用語がヒューウェルによって1833年に造語され その使用が提唱された。

水と氷の近代以降の主要な研究の年譜

水の性質

水の科学的な性質については水の性質を参照のこと。

水の分布

 
地球の表面の約71%は海水に覆われている。(→
 
淡水のほとんどは氷河氷床氷山として存在する
 
水循環のモデル図

地球上の水

地球上には多くの水が存在しており、生物の生育や循環に重要な役割を持っている。気象学海洋学などの地球科学生態学における大きな要因の一つである。水蒸気は最大の温室効果ガスでもある[4]

地球の水の総量は約14億 km3(= 1.4×1018 m3)と言われ、その97%が海水として存在し、淡水は残り3%にすぎない。そのほとんどが氷河氷山として存在している。氷の状態の淡水の大部分は南極大陸とグリーンランドが占めている[5]

位置 淡水湖 河川 地下水 地下水 土壌 氷河 大気 塩水湖 海洋
存在比 (%) 0.009 0.0001 0.31 0.31 0.005 2.15 0.001 0.008 97.2

このなかで、淡水湖河川水地下水浅が、人間が直接に利用可能な水で、総量の1%未満である。飲料水として利用できるものはさらに少ない。海水は天然および人工の全ての汚れを合わせ高濃度に汚染されているため、資源としての利用価値はほとんどない[5]

地球における継続的な水の循環は水循環と呼ばれている。太陽エネルギーを主因として、固相液相気相間で相互に状態を変化させながら、蒸発降水地表流土壌への浸透などを経て、地球上を絶えず循環している。また、この循環の過程で地球表面の熱の移動や浸食・運搬・堆積などの地形を形成する作用が行われる。

太陽系の水

  • 太陽系惑星および衛星の表面に存在する水のほとんどはまたは水蒸気であり、地球以外で液体の水が存在する場所は少ない。相図からわかるように、液体の水が存在できる温度範囲は高圧ほど広くなる。逆に、火星のように気圧の低い環境では、液体の水は安定に存在することはできない。
  • 火星の表面にはかつて液体の水があったことが判明している。
  • 木星衛星エウロパは、内部に液体の水からなる海があるのではないかと言われている。

太陽系外の水

太陽系外惑星には、大量の液体の水を保持している可能性のある惑星がいくつか見つかっている。例えばケプラー22bグリーゼ581dHD 85512 bといった惑星は、地球と同じような環境で水の海を持つと推定されている。しかし、GJ 1214 bかに座55番星eといった惑星は、地球とは異なり、高温高圧の超臨界水の海を持つとされている。

2012年ハッブル宇宙望遠鏡の観測により、GJ 1214 bが高温の水蒸気の大気を持つことが確認された。大気の下には超臨界水の海が存在する可能性がある[6]

2011年クエーサーAPM 08279+5255降着円盤に、地球の水の140兆倍という膨大な量の水が発見された。APM 08279+5255は、宇宙誕生から16億年後の時代に存在する天体であり、このことは、既にこの時代に大量の水が存在していた事を示している[7]

生物と水

 
水は生命の維持に欠かせない
 
様々な生命が宿るサンゴ礁
 
極地の風景

生物体を構成する物質で、最も多くを占めるのが水である。細胞質で最も多い物質でもあり、細胞内の物質代謝の媒体としても使用されている。通常、質量にして生物体の70% - 80%が水によって占められており、そのうちわずか数%でも不足するとのどの渇きや熱中症など生命活動に不都合があらわれる。

生きている細胞には(理想的な溶媒である)水が多く含まれており、生命現象を司る化学反応の場を提供し、また水そのものが種々の化学反応の基質となっている。体液として、体内の物質輸送や分泌物、粘膜に用いられる。また高分子鎖とゲル化することで体を支える構造体やレンズにも利用されている。クマムシのように厳しい環境にも耐えられる生物は、体内の水分を放出し、不活性な状態をつくり出すことができる。

なお、「生物は太古の海で誕生した」とされることがある。生物の化学組成海水の組成が似ていることもその説の根拠の一つである。地上の生物もその先祖をたどれば水中生活をおくっていた、とされる。

陸上のように、常に水につかっていない環境では、生物にとって最も重要な問題の一つが水の確保である。陸上の無脊椎動物では、周囲が湿っていなければ活動できないものも多い。陸上生物に見られる進化的形態の多くが水の確保や自由水のない環境への適応である。クマムシの場合も、頻繁に乾燥にさらされる環境への適応として、休眠の能力が発達したと考えられている。

人間と水

人体と水

人体における水分量は年齢・性別によって異なり、新生児で約80%、成人で60%前後、高齢者は50%台となる。また女性は男性に比べて体内の脂肪分が多い関係で水分量は同年代の男性に比べてやや少ない[8]。そして「その人体の水のうち45%までが、細胞内に封じ込められた水[要出典]で、残り15%が血液リンパ液など細胞の外にある水」と言われている[誰?]。この細胞内液細胞外液をあわせたものを体液と呼び、この体液が生命の維持、活動に重要な役割を果たす。

なおニッスイによると一日に排出される水の量は体重60kgの成人男性で2,500mLであり、内訳としては尿1,400mL、100mL、汗500mL、肺からの呼気500mLである。1日に必要な水の量は当然2,500mLで、一般に飲料水から1,200mL、食物1,000mL、代謝物300mLとして摂取される[8]

は非常に効率よく体温を下げる機能をもつ。水の蒸発潜熱が大きいのは水素結合が強いことに起因している。

脱水症

体内の水分量が不足した状態を医学的には脱水と呼ぶ。水分喪失量に対して水分摂取量が不足することによって起こる。水分摂取不足、あるいは水分喪失過剰、あるいは水分摂取不足と水分喪失過剰の同時進行によって起きる。具体的には、高温の環境、重作業、激しい運動発熱下痢嘔吐などが原因となって起きる。

水中毒

人体が過剰な水分を投与された場合、細胞外液浸透圧が異常に下がり、低ナトリウム血症によって悪心、頭痛、間代性痙攣意識障害等の症状を引き起こす。これを水中毒と言い、輸液ミス、心因性多飲、SIADHなどの結果としてみられる。なお致死量は体重65kgの人で10 - 30リットル/日である。


人間の健康と水

安全な水を飲めるかどうか、ということは人間の健康に大きな影響を及ぼしている。 汚物などに触れた不衛生な水を飲むと、コレラ腸チフス赤痢などで命を落とす人が出る。そしてこれらの病気は感染する。体力の弱い乳幼児は、不衛生な水を摂ると、しばしばひどい下痢を起こし脱水症状で死亡する。老人も免疫力が弱く、不衛生な水で命を落としやすい。また、不衛生な水は寄生虫の問題も引き起こす。

古代でも中世でも、人類のほとんどは水道無しで生きていたと考えてよい。都市で暮らすにしても上水道がなかったのである。 安全な水を飲む方法として古代から行われているひとつの方法は煮沸(しゃふつ)してから口に入れるということである。

水道

ローマ帝国(古代ローマ)は、土木技術に秀でており、ローマに水を引くべく水道を建設した。これのおかげでローマの住むローマ市民は公衆浴場を利用することができた。公共の水洗トイレもあった。石でできたベンチ状のものの下を水が流れており、ベンチには穴があいており、そこにこしかけて用をすれば、排泄物が流れてゆくのである。ローマのように水がふんだんにある都市生活は世界的に見て例外的であり、他に類をみない状態であった。 ローマ帝国の時代、ローマという都市に住む人たちは風呂に頻繁に入っていたわけだが、その後、彼ら(かつてのローマ帝国の中核的市民。今のローマ市民やイタリア人)は頻繁に風呂に入る習慣は失った[注 8]

都市では、都市で生活する者に安全な飲料水をいかにして届けるかということは、都市を治める者、政治を行うものにとって大きな問題である。

日本の江戸では、水不足の状態を改善するために、1652年に玉川上水の建設が計画され、翌1653年、まずは本線が建設された。難工事で幕府の用意した資金は底をついてしまい、玉川兄弟は自宅を売って建設を続行したという。承応3年(1654年)6月から、江戸市中への通水が開始された。玉川上水は江戸っ子の自慢となった。江戸の上水道は世界的に見て質が高かったと指摘されることは多い。

 
ヨーロッパの小都市の広場などにある 「fonteフォンテ」 や「fontaineフォンテーヌ」(=「泉」)の一例

ヨーロッパではどんな状態だったかというと、ヨーロッパでは中世、各都市は外敵を防ぐべく壁をつくり(城塞都市)、自治が行われ、独立性が高く、小さな国のような様相を呈するものが多かった。ヨーロッパの都市では、街の広場などに、都市の近くの山などから水道で水を引き[注 9]、その水を出す fonte フォンテ (イタリア語、ポルトガル語。フランス語では fontaine フォンテーヌ、日本語では「泉」)を設置して、飲料水を市民に提供しているものが多かった。市民は桶を持って広場にやってきて、この「泉」で水を汲んで、水が入った重い桶を持って家まで運び、各家でそれを使うのである。つまり「水道」があるといってもそういう程度のことであったのであり、基本的に各家まで引かれていたわけではない。

ヨーロッパの水事情を理解するための一例として、フランスの首都のパリの水事情について説明すると、パリの水事情はひどいものであった。16世紀・17世紀・18世紀と、パリ市民は安全な飲料水をたっぷりと確保できていたわけではない。基本的に、風呂に入る、などということは考えられない状態であった。やることと言えば、布に水や湯をふくませて、身体を拭くということだったり、せいぜいやるとしても、身体があまりに臭くなったら、たらい金たらい)を用意して、服を脱いでその中で立って、桶にくんだ水をチョロチョロと身体にかけて流し、数分後にはそそくさと身体を拭く、という程度のことであった。(日本人のように熱い風呂に全身をどっぷりと沈めて身体を温めるなどという発想はフランス人にはまったく無かった。) 汚水の扱いもひどいもので、パリに下水道が整備されていなかったものだから、市民は、汚物を家(アパルトマン)の前の街路に捨てていた。当時、パリの街路は道の端や真ん中に水が集まるようにしてあり、雨になるとそこを雨水が流れるのだが、そこに汚物が大量に流れ、街全体に悪臭が漂っていたのである。そんな状態が常態化すると、しまいには、建物の3階・4階などに住み、いちいち1階まで歩いて降りる手間を面倒に感じる者などでは桶に入った汚物を窓から直接放り投げるような不届き者すらもいた。パリの街を歩くには、足元の汚水にも気を付けなければならないし、同時に、頭上にも注意を払って汚物をかけられないように気を付ける必要すらあったのである。この状況が変わったのは19世紀のことで、オスマンが行ったパリ改造(オスマニザシオン)のおかげであり、オスマンは、パリ市民のために安全な水を豊富に確保するために、パリから100kmも離れた水源からパリに水を引くという決断(大英断)を行い、それが成功し、各家庭に十分に水を届けることが可能になり、その結果、当時、パリの各家庭でバスタブを置き風呂に入るということがちょっとした流行になった。だが、今でもフランス人はあまり風呂に入らない。少なくとも日本人のように毎日風呂に入ったりするような習慣は全然無く、本当にたまにしか入らない[9]

途上国などでは現代でも水道が無い国が多い。毎日水をバケツ等で家まで運ぶ地域もある。さらに、水源が遠いため自力で長距離を歩かなければならず、その労働にあたる子供が通学さえままならない地域もある[要出典]

産業利用を目的とした水利は、用水路と呼ばれる(農業用水工業用水)。

 
現代の水道蛇口

水の使用量

世界の水の使用量

世界の水の使用量は、1995年の段階で年間約35,700億m3で、内訳としては、農業用水が約25,030億m3/年で約7割を占め最大、工業用水が約7,150億m3/年、生活用水が約3,540億m3/年だった、とも推定されている。水使用量は1950年から1995年までで2.6倍になっているともされ、2025年には30億人以上が水の量と質の限界(水ストレス)に直面する、とも予想されている[10]仮想水という指標で水の使用量が計算されている。

家庭での水の使用状況と用途

家庭での水の使用量は、国ごとに著しく異なる。途上国の中には「一日一人あたり数リットル」という国がある。その一方で、先進国では「一日一人あたり数百リットル」という国が多く、途上国と先進国の間には大きな差がある。日本の家庭の使用量も他の先進諸国と同様、最も高い部類に属する[注 10]

日本での使用状況の一例として東京の家庭でのそれを挙げると、1日で1人あたり242Lの水を使っている(2005年現在、東京都水道局調べ)。家庭での水の使用量のうち、28%がトイレ、24%が風呂、23%が炊事、17%が洗濯となっている(2002年、東京都水道局調べ)[11]

さまざまな水の利用法

 
水はもっとも基本的な消火剤でもある
 
スイミングをする少女

農業

世界のそれぞれの地域における水の状況は、地域による差、気候の差の影響を大きく受ける。その水の状況が、農業に影響を与え、社会構造にも影響を与えている。

水と芸術

水は人類にとって最も身近で重要な物質であり、かつ様々な態様を見せることから、水をモチーフとした数々の芸術作品が生み出されている。

水そのものを取り入れたものに庭園における池や噴水がある。

代表的な慣用句

  • 水掛け論 - 双方が主張を言い合い解決しない議論のこと。に水がほしい双方が水を掛け合ってまで争うところからきているといわれる。
  • 湯水のように(ごとく) - 大量に使うことを指し、通常は無駄遣いや乱費の表現として用いられる。日本ではかつて「水と安全はタダ」など言われ、水は非常に安価または無料の代名詞であった。茶道点前茶道具を清めるために大量の湯水を使うことに由来する。
  • 水商売(またはその略称「お水」) - 飲食業または風俗業の別称。一日の客数が安定しない(水物である)から。一説に、酒の水割り用の水道水に値段を付ける(金を取る)ことから。
  • 水に流す - 過去の因縁を忘れること。汚れ物は水に溶かして流れ去るに任せるのが古来の流儀である。実際に、多くの汚物は水中における自然の浄化作用とその人工的応用である汚水処理によって処理される。

他にも、世間や市場に普遍的なもの(貨幣情報など)を水にたとえて、「洪水のような」、「氾濫する」などと表現されることがある。

脚注

注釈

  1. ^ エンジンの「冷却水」など水以外の物質が多く含まれているものも水と呼ばれる場合がある。日本語以外でも、しばしば液体全般を指している。例えば、フランス語ではeau de vie(オー・ドゥ・ヴィ=命の水)がブランデー類を指すなど、eau(水)はしばしば液体全般を指している。そうした用法は、様々な言語でかなり一般的である。
  2. ^ ただし、これはメタファーであって、物理学的な言葉の使い方とは異なる。
  3. ^ 特に温度の高いものは熱湯(ねっとう)という(理・工学的な分野では熱水(ねっすい)という語も用いられる)技術用語では高い温度の湯に相当するものも水と呼ぶ(例:冷却水)。アイヌ語では、低温の水のことをワッカ、高温の水(湯)のことをウセイという。
  4. ^ 英語では、温度が高い場合でも名詞 (water) は変わらず、形容詞を付加する (hot water)。
  5. ^ これを伝えているのは、アリストテレスの書などである。
  6. ^ これらは「η」が「e」に変化し、「-o」が付くことで現代の接頭辞となっている。
  7. ^ 「共通に支持されている理論体系と矛盾する断片的な発見がいくつあっても人々の考え方の体系(理論体系)は基本的に変化せず、それが変わるのは、あくまで別の理論体系が現れた時だけである」とする考え方は、20世紀の科学哲学者クーンパラダイムシフトという用語を用いて提唱した。
  8. ^ このあたりの経緯・事情はヤマザキ・マリなども調べており『テルマエ・ロマエ』に書いている
  9. ^ ローマ人が実例を見せ、教えてくれた土木技術のおかげで、ヨーロッパ人にも一応それはできるようになっていた。フランスやドイツなど、つまり、かつてローマ帝国の市民からは「ガリア」と呼ばれ、辺境の地で、どうしようもない野蛮人たちが住む場所と見なされた土地にもローマ帝国の強大な軍事力を使った侵略・進出の結果、ローマ帝国の高度な土木技術が残されたのである。)
  10. ^ 家庭での水の使用状況と用途についての関連資料。

出典

  1. ^ a b c 広辞苑 第五版 p. 2551 【水】
  2. ^ a b c d e f g h 平凡社『世界大百科事典』第27巻、pp. 342–343【水】>【水の科学】
  3. ^ Cowan, M. L.; Bruner, B. D.; Huse, N.; Dwyer, J. R.; Chugh, B.; Nibbering, E. T. J.; Elsaesser, T.; Miller, R. J. D. (2005年3月10日). “Ultrafast memory loss and energy redistribution in the hydrogen bond network of liquid H2O”. Nature 434 (7030): 199–202. doi:10.1038/nature03383. ISSN 0028-0836. https://doi.org/10.1038/nature03383. 
  4. ^ Kielh, J. T.; Trenberth, K. E. (1997). "Earth's annual global mean energy budget (PDF) ." Bull. Am. Meteorol. Soc. 78: 197 - 298 によると、温室効果のうち60%が水蒸気に由来する。第2位が二酸化炭素 (26%) である。
  5. ^ a b 環境保全対策研究会編 『二訂・水質汚濁対策の基礎知識』 (8版) 社団法人産業環境管理協会、2008年ISBN 4-914953-41-2 
  6. ^ “New Type of Alien Planet Is a Steamy 'Waterworld'” (英語). Search for Life (Space.com). (2012年2月21日). http://www.space.com/14634-alien-planet-steamy-waterworld-gj1214b.html 2016年5月5日閲覧。 
  7. ^ Astronomers Find Largest, Most Distant Reservoir of Water” (英語). Mission News. NASA (2011年7月22日). 2012年5月19日閲覧。
  8. ^ a b おいしさを科学する「水分」”. PR誌「GLOBAL」 ニッスイアカデミー. ニッスイ (2008年10月). 2015年5月7日閲覧。
  9. ^ 大森弘喜 (2012年3月). “19世紀パリの水まわり事情と衛生” (PDF). 成城大學經濟研究 (成城大学) (196): 1-58. NAID 110009576266. http://www.seijo.ac.jp/pdf/faeco/kenkyu/196/196-oomori.pdf 2014年10月2日閲覧。. 
  10. ^ 進藤惣治 (2002年10月). “世界の水危機と第三回世界水フォーラム 2. 水危機の現実 (3) 世界の水利用” (PDF). ARIC情報 (農業農村整備情報総合センター) (67): p. 12. オリジナルの2011-09-17時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110917020507/http://www.aric.or.jp/03_book/61_70/no67/topics/67.pdf 2008年3月9日閲覧。. 
  11. ^ 水を大切にする習慣”. PR情報 節水の習慣. 東京都水道局. 2007年10月29日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2007年10月15日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク