イギリスツーリングカー選手権
イギリスツーリングカー選手権(British Touring Car Championship )は、イギリスで毎年行われるツーリングカーレースのシリーズである。略称はBTCC。
カテゴリ | ツーリングカー |
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国・地域 |
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開始年 | 1958年 |
ドライバー | 32(2017年) |
チーム | 17(2017年) |
コンストラクター | 11(2017年) |
ドライバーズ チャンピオン |
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チーム チャンピオン |
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マニュファクチャラーズ チャンピオン |
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公式サイト | btcc.net |
歴史編集
1958年にイギリスサルーンカー選手権(British Saloon Car Championship )として開始され、以後何度ものルール変更を経てきた。1960年代後半から1970年代にかけてはFIAグループ1またはグループ2規定、1980年代にはグループA規定の車両で争った。1987年にシリーズは現在の名称になった。1990年代には下位シリーズとしてグループN規定車両によるレースも開催された。
当初選手権は、排気量別にクラス分けされた車両が混走し、しかもクラスごとに与えられたポイントで全クラスが単一のチャンピオンシップを争う形式だった。つまり個々のレースで一度も総合優勝をしていない小排気量クラスの車がシリーズチャンピオンになる可能性もあり、観客のタイトル争いへの興味を失わせることにもなった。たとえば1980年代にはクリス・ホジェッツがトヨタ・カローラで2度チャンピオンを獲得したが、ほとんどのレースではより大排気量の車が勝っていた。フォード・シエラ・コスワースRS500がレースを制していた時代、クラスBのBMW・M3に乗るフランク・シトナー(Frank Sytner )や、より小排気量のクラスCのボクスホール・アストラに乗るジョン・クレランドがシリーズタイトルを獲得した。
1980年代末のフォード・シエラ・コスワース最強時代の後、1990年からBTCCは排気量を統一した "2.0Lフォーミュラ" で争われることになった。この規格は後に FIA認定の"スーパーツーリング(ツーリングカークラスII)" としてヨーロッパや日本に広まっていった。BTCCは2000年までスーパーツーリング規定を続け、2001年からは新たに "BTCツーリング" 規定を導入した。そして2007年以降はスーパー2000規格が導入されている。2000年代はスーパーツーリング規定の時代より低コストな車となり、メーカーワークスチームやイギリス国外からのドライバーは減少することになった。
2001年以降「BTCツーリング」という独自の規定でシリーズを開催していたが、2004年からはスーパー2000規定の車両の参加を認めることになった。それ以降スーパー2000規定の車両が徐々に多数派となり、BTCツーリング規定の車両はごく一部のインディペンデントチームが使用するだけになった。
BTCCを戦うレーシングチームは、メーカーが運営するワークスチームと、Team RAC、Team Dynamics、Motorbase といったインディペンデントチームの2種類に分けられる。ワークスチームは近年ボクスホールのみの参戦が続いていたが2009年シーズン終了をもって撤退、入れ替わりに2010年からはシボレー(RMLがチーム運営)、ホンダ(Team Dynamicsが運営)の2メーカーがワークス参戦を開始した[1]。
2005年には Team Dynamics のマット・ニールがホンダ・インテグラを駆ってインディペンデントチーム初の総合ドライバーズチャンピオン・チームチャンピオンに輝いた。BTCCで初めてとなる年間30レース全完走を記録し、ボクスホールの5年連続ドライバーズ/チーム/マニュファクチャラーズチャンピオンを阻止した。翌2006年もニールと Team Dynamics はシリーズを制したが、2007年はイタリアのファブリツィオ・ジョヴァナルディによってボクスホールがタイトルを奪還した。
また遡って1999年、スーパーツーリング規定で行われていた時代には、Team Dynamics とニールは日産・プリメーラを駆ってインディペンデントチーム初のレース総合優勝をドニントン・パークで果たし、賞金250,000ポンドを獲得している。
ニールのシリーズ連覇、そして2007年シーズンより投入したスーパー2000仕様のホンダ・シビックタイプRはチーム自身が設計・制作を行っていることから、Team Dynamics はインディペンデントチームとは見なされず、ワークスチームとして扱われるようになった。
スーパーツーリング規定時代の末期に参戦コストが高騰したことを反省し、現在は車両の改造範囲に厳しい制限が設けられている。参戦コストの低下は多くのインディペンデント系チーム・個人の参加を呼び込むようになった。彼らはメーカー系ワークスチームから型落ちの車両を買い取り、「元ワークス」車で参戦、そこそこの成功を収めるようになった。またより一層のコスト抑制を目的とし、BTCCではダンロップタイヤのワンメイク体制を取っている。
より低燃費の車両を奨励するために、レギュレーションでは様々な燃料の使用を認めている。2004年から、インディペンテントチームの Mardi Gras Motorsport はLPガス仕様のシビックタイプRで参戦している(後に同じくLPガス仕様のプジョー・406クーペに変更している)。2005年には Tech-Speed Motorsport チームが型落ちのワークス車、ボクスホール・アストラをバイオエタノール仕様に改造している。2006年には Kartworldチームのオーナードライバーの Jason Hughes もバイオエタノール仕様のMG・ZSで出場し、後には ウェスト・サリー・レーシング[2]の Colin Turkington と Rob Collard、プジョー・307を駆る Richard Marsh も追従した。Jason Hughes だけが2007・2008年シーズンもバイオエタノール車での参戦を継続した。
また、レギュレーションではディーゼル車の出場も認めている。2007年には Team AFM Racing の Rick Kerry がBMW・120d E87で出場した。2008年にはワークスチームとして初めて、セアトスポーツUKチームがターボディーゼル仕様のセアト・レオンを投入している。2010年シーズンは Team AON racing がLPガス仕様のフォード・フォーカスSTで参戦している[3]。
2011年からは試験的にNGTC(Next Generation Touring Car)という新規格が導入され、2014年に完全移行した。
車両規定編集
現行のNGTC規定は低コスト化・性能均衡化を強く意識したもので、10万ポンド(約1,500万円)でシャーシが作れるように電装系やブレーキ、サスペンション、ギアボックス、クラッチなど多くの部品を共通化している。エンジンも市販車由来ではあるものの、形式は2,000ccターボに統一され[4]、ターボも使用できるのはオーウェン・ディベロップメント製のもののみである。タイヤもダンロップのワンメイクとなっている。
駆動形式は元々前輪駆動車のみの予定であったが、一部のチームの意向を汲み後輪駆動車も可とされた。またベース車両が四輪駆動の場合は二輪駆動に換装する必要があるが、この場合は前後どちらを駆動するかを選べる。
2010年にトヨタ・アベンシスのNGTCテスト車両がデモランを行い、2011年から本格的に導入された。
ちなみにNGTC規定はスカンディナビアン・ツーリングカー選手権(STCC)にも2012年から採用されていたが、2017年にTCR規定に取って代わられている。そのため今後TCRの人気の高まり次第では、BTCCもTCR規定に変わる可能性が指摘されている。
レース形式編集
レースウィークエンドの土曜日、2回のプラクティスセッションに続いて30分間の予選セッションが行われ、日曜日の第1レースのスターティンググリッドを決めることになる。
それぞれのレースは16周から25周程度(コース長による)で行われ、第1レースの結果により第2レースのスターティンググリッドが決まる(勝者がポールポジション)。
第3レースではリバースグリッドを採用している。風変わりなリバースグリッド制度であり、どこまでのポジションが逆順になるかは第2レース後に抽選で決められる。6から10までの番号が付けられたホイールを回し、例えば7で止まれば1位から7位までのグリッドが逆順になり、8位以降は第2レースの順位通りのグリッドからスタートすることになる。ホイールを回すのは第2レースの勝者の役目である。ただし最終戦でその勝者にタイトル獲得の可能性がある場合は除外される。
2005年までは、第3レースのリバースグリッドは1 - 10位が逆順になるように固定化されていた。ポールポジション狙いのために故意に10位を狙うドライバーもいたため、このルールは物議を醸した。グリッド後方の速いドライバーがオーバーテイクする様を楽しめるという意見がある一方、グリッド順位を上げるためにわざと他車に抜かせる等の行為が見られ、モーター「スポーツ」としての純粋さが失われることに苦言を述べる者もいた。また第2レースのフィニッシュ間際に急激にスローダウンし、後続車に強制的にオーバーテイク「させる」といった危険な行為も問題になった。以上のような状況を受けて、2006年シーズンからは現在の抽選制リバースグリッドに変更された。
ポイントシステム編集
各レースの上位10名に以下の通りポイントが与えられる :
順位 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ポイント | 15 | 12 | 10 | 8 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
各レースでファステストラップを記録したドライバーには1ポイントが与えられる。
レース中1周でもラップリーダーになったドライバーにはボーナスとして1ポイントが与えられる。ただし何周リードしても1人1ポイントが上限。
土曜日の予選セッションでポールポジションを獲得したドライバーにもボーナスとして1ポイントが与えられる。
近年のチャンピオン編集
現在はシーズンごとに5つのチャンピオンシップが設定されている。総合ドライバーズチャンピオンはシーズン中最多ポイントを獲得したドライバーに与えられる。1992年以降はインディペンデントドライバーズチャンピオンも設定され、非ワークスチームのうちポイント最上位となるドライバーに与えられるようになった。さらには総合チームチャンピオン、メーカー(マニュファクチャラー)チャンピオン、2004年からはインディペンデントチームチャンピオンも設定されている。2000年から2003年の間はプロダクションクラス(クラスBとも)のドライバー/チームチャンピオンも設定されていた。
年 | 総合 | インディペンデント | プロダクション | ||||
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ドライバーズ チャンピオン |
メーカー チャンピオン |
チーム チャンピオン |
ドライバー | チーム | ドライバー | チーム | |
1990 | ロブ・グラヴェット | Trakstar Motorsport | 無し | 無し | |||
1991 | ウィル・ホイ | BMW | BMW
Team Labatt"s |
無し | 無し | ||
1992 | ティム・ハーベイ | ボクスホール | Vauxhall Sport | ジェイムズ・ケイ | Park Lane Racing | ||
1993 | ヨアヒム・ヴィンケルホック | BMW | BMW Motor Sport | マット・ニール | Team
Dynamics |
||
1994 | ガブリエル・タルキーニ | アルファロメオ | Alfa
Corse |
ジェイムズ・ケイ | Maxted
Motorsport |
||
1995 | ジョン・クレランド | ルノー | マット・ニール | Team
Dynamics |
|||
1996 | フランク・ビエラ | アウディ | Audi
Sport UK |
リー・ブルックス | TOM′S
Team Brooks |
||
1997 | アラン・メニュ | ルノー | ウィリアムズ・ルノー | ロブ・グラヴェット | |||
1998 | リカルド・リデル | 日産 | Vodafone Nissan Racing | トミー・ラスタット | DC
Cook Motorsports |
||
1999 | ローレン・アイエロ | 日産 | Vodafone Nissan Racing | マット・ニール | Team
Dynamics |
||
2000 | アラン・メニュ | フォード | Ford Team Mondeo | マット・ニール | Team
Dynamics |
アラン・モリソン | |
2001 | ジェイソン・プラト | ボクスホール | Vauxhall Motorsport | 無し | サイモン・ハリソン | HTML | |
2002 | ジェームス・トンプソン | ボクスホール | Vauxhall Motorsport | ダン・イーブス | VLR | ジェームズ・ケイ | Synchro Motorsport |
2003 | イヴァン・ミュラー | ボクスホール | VX Racing | ロブ・コラード | Collard Racing | ルーク・ハインズ | Barwell Motorsport |
2004 | ジェームス・トンプソン | ボクスホール | VX Racing | アンソニー・レイド | ウェスト・サリー・レーシング | 無し | |
2005 | マット・ニール | ボクスホール | Team Halfords | マット・ニール | Team Halfords | 無し | |
2006 | マット・ニール | セアト | Team Halfords | マット・ニール | Team Halfords | 無し | |
2007 | ファブリツィオ・ジョヴァナルディ | ボクスホール | SEAT Sport UK | コリン・ターキントン | Team RAC | 無し | |
2008 | ファブリツィオ・ジョヴァナルディ | ボクスホール | VX Racing | コリン・ターキントン | Team RAC | 無し | |
2009 | コリン・ターキントン | ボクスホール | VX Racing | コリン・ターキントン | Team RAC | 無し | |
2010 | ジェイソン・プラト | シボレー | RMLグループ | トム・チルトン | Team Aon | ||
2011 | マット・ニール | ホンダ | Honda Racing Team | ジェームス・ナッシュ | Triple 8 Race Engineering | Jack Sears Trophy for S2000 chassis. | |
2012 | ゴードン・シェーデン | ホンダ | Honda Yuasa Racing Team | アンドリュー・ジョーダン | Pirtek Racing | Drivers' Champion | Teams' Champion |
2013 | アンドリュー・ジョーダン | ホンダ | Honda Yuasa Racing Team | アンドリュー・ジョーダン | Pirtek Racing | リー・ウッド | Not awarded |
2014 | コリン・ターキントン | MG | eBay Motors | コリン・ターキントン | eBay Motors | デイブ・ニューシャム | |
2015 | ゴードン・シェーデン | ホンダ | Team BMR RCIB Insurance | コリン・ターキントン | Team BMR RCIB Insurance | ジョッシュ・クック | |
2016 | ゴードン・シェーデン | BMW | Team JCT600 with GardX | アンドリュー・ジョーダン | Motorbase Performance | アシュリー・サットン | |
2017 | アシュリー・サットン | BMW | Team BMW | トム・イングラム | Speedworks Motorsport | セナ・プロトコル | |
2018 | コリン・ターキントン | ||||||
2019 | コリン・ターキントン |
日本車勢の活躍編集
1980年代以降、多くの日本車が各チャンピオンシップを制している。
1980・1981年はトム・ウォーキンショー・レーシング (TWR)のウィン・パーシーがサバンナ・RX-7でドライバーズチャンピオンを制したのがその最初である。パーシーは続く1982年にもトヨタ・カローラ(E70型)でドライバーズチャンピオン3連覇を果たした。1986年・1987年にはAE86型のカローラクーペGT(日本名カローラレビン)がクリス・ホジェッツの手にドライバーズチャンピオンをもたらしている[5]。
その後トヨタは1991〜1995年にコロナでワークス参戦したがタイトル獲得には至らなかった。一方インディペンデント・クラスではカリーナが1992年、カリーナEが1994・1996年、レクサス・IS(アルテッツァ)が2001年のチャンピオンシップを制している。
日産は1991年からプリメーラでワークス参戦を開始し、1998年はマニュファクチャラー、チームズチャンピオン。1999年にはローレン・アイエロがドライバーズチャンピオンとなった。また同時に日産はマツダとトヨタが為しえなかったチーム部門とマニュファクチャラー部門での連覇を達成した。現在はインフィニティブランドでQ50を走らせている。2020年アシュリー・サットンがドライバーズを獲得した(活動の詳細は日産・プリメーラ#モータースポーツを参照)
ホンダは1997年からアコードでワークス参戦を開始し多くの勝利を挙げ、チャンピオンシップでも上位に入った。2002年には新たにシビックタイプRを投入している。ホンダは今日までに7回のドライバーズタイトルと5回のマニュファクチャラーズタイトルを獲得しており、BTCC史上最も成功した日本メーカーとなっている。
2016年からはチームBMRが英国スバルの支援を受け、空力面での有利を鑑みてステーションワゴンのスバル・レヴォーグを採用しマニュファクチャラーとして参戦。2年目の2017年に早くもアシュリー・サットンがドライバーズタイトルを獲得した。4年間の参戦後、2019年終了を持ってスバルの支援終了とともにレヴォーグも撤退となった。
2019年には英国トヨタが、長年アベンシスを採用していたスピードワークス・モータースポーツを支援し、カローラスポーツでワークス復帰した。
1996年 トヨタ・カリーナ(リー・ブルックス、Brookes Motorsport)
1996年 ホンダ・アコード (デイビッド・レズリー、Honda Team MSD)
1998年 ニッサン・プリメーラ(アンソニー・レイド、ボーダフォン・ニッサン・レーシング)
1999年 ニッサン・プリメーラ(デイビッド・レズリー、ボーダフォン・ニッサン・レーシング)
2006年 ホンダ・シビックタイプR(ジェイムズ・ケイ、Synchro Motorsport)
2006年 ホンダ・インテグラ(マット・ニール、Team Halfords)
2007年 ホンダ・シビックタイプR(Gordon Shedden、Team Halfords)