テクニカル(Technical)は、民生用ピックアップトラックなどの車体ないし荷台に銃砲を据え付け、車上戦闘を可能にした即製戦闘車両英語版のことを指す。一般に装甲を施さない。

ソマリアでのテクニカル
車体後部にZPU-1、助手席前にSG-43を装備している。車両はトヨタ・ランドクルーザー40系

この種の武装車両を「テクニカル」と呼ぶ語源は、ソマリアを発祥とする。民間警護要員を連れていくことを拒否された非政府組織が、人員保護のため「技術支援助成金(technical assistance grants)」を使ってその地域の民兵をガードマンとして雇った。転じて、それが武装した人々を乗せる車両の呼び名となった[1]。テクニカル、またはバトルワゴン(battlewagons)[2]、ガンワゴン(gunwagons)[3]ガンシップ(gunships)[4]などの名称で知られる。

概要 編集

 
BM-21用122 mm ロケット弾9連装発射器を搭載したテクニカル
イスラエルの軍事博物館に展示されている車両(レバノン鹵獲されたものと推定)。車両は三代目 GMC C/K
 
メキシコ軍麻薬取締のために設置したランダム・チェックポイント英語版で警戒に当たるテクニカル
荷台には兵員の転落防止用バーが設置され、バーを介してMk19 自動擲弾銃を装備している。
車両はシボレー・シルバラードのメキシコ向けであるシャイアン。

民間の軽車両(特にピックアップトラック)の荷台に、重機関銃無反動砲などの重火器を搭載した火力支援車両。ガントラックなどと同様、急造兵器の類であり、途上国軍隊や武装集団が運用している。正規の軍用車両に比べて運用制限が大きく、正規戦(機甲戦)では劣る。しかし、貧困紛争地域では強力な火力支援車両であり、また自動車の性能向上で信頼性やペイロードが向上しており、極めて安価に製造できることから、多用される。紛争では趨勢を決める存在になることすらある。

一般にテクニカルの車体に装甲戦闘車両のような装甲は無く攻撃に対して脆弱である。また荷台の銃座に座る銃手は生身で身をさらして射撃する必要があるため、攻撃にたいして防護されているとは言えない。そのため銃座に鋼鉄製の防楯が付けられることもあるが、重量増加が機動性を損なうわりに限定的な防御力しか期待できないため一般的とは言えない。 テクニカルにはこのような脆弱さがあるため、攻撃目標となる敵の軽歩兵の持つ(携帯)火器よりも有効射程で優越する重火器を搭載することで、遠距離から一方的に攻撃する運用法が好まれる。ある種自走砲に近い火力支援車両として運用されることが多いと言える。とはいえ紛争地帯では火力支援車両が貴重であるため市街戦や陣地攻撃に駆り出されることも多く、近接戦闘に巻き込まれて撃破されるテクニカルは珍しくない。

民生車両は安価な上に燃費も良く、特別な訓練をしなくても普通免許を取得する程度の技能があれば運転できる。バッテリーは対空銃座を動かす程度の出力を十分に確保できる。車両に搭載された武器は、小口径のものであれば十分に反動が抑制され、射撃精度が高まる。このように、被弾を前提としなければ、テクニカルの性能自体は優れている。

先進国でも、治安維持や哨戒を任務とする部隊でテクニカルを使用する事があるが、そのような任務には生存性が高いMRAPのような装甲車が用意されるため、補助的な使用にとどまっている。

小型のものは、信頼性の高い日本製ないし日本メーカー製ピックアップトラックが人気があり、大型のものはアメリカ製フルサイズライトトラックがよく使われる。紛争地帯では一般に整備体制が貧弱なため、信頼性や部品の入手性が重視される傾向がある。一般に民生品として販売されているものの、中古車などを入手して現地改造の上、使用されるが、中国自動車メーカーの中には初めからテクニカル用途向けに製造・販売を行うメーカーがあり、一定のシェアを確保しつつある。

構造 編集

ピックアップトラックのような小型自動車の荷台に銃架を固定して、機関銃ロケット砲迫撃砲無反動砲対空機関砲などを載せている。

多くはブローニングM2重機関銃や、ZU-23-2などを搭載して歩兵支援用途に改造される。射撃をしないときは、荷台に兵員を載せて移動することがあり、簡素なIFVとしても運用される。

ハンヴィーVBL装甲車軽装甲機動車のような用の装輪装甲車とは異なり、民間車を流用しているため、現地改造をしない限り防護機能は備わっていない。荷台で火器を操作する民兵・非正規兵の体は露出している事が多く、それは操縦士もほぼ同様であり、走行系であるエンジン燃料タンクタイヤなども被弾や爆発に耐える装甲化が施されていない。また、非装甲車両に武装を装備した車両であっても、それがジープUAZ-469などのように元々軍用として設計された車両の場合はテクニカルとは呼ばれない。

近年では小銃弾を防護できるようにありあわせの鉄板を溶接して搭載した車両が多数目撃されている。当然ながら民生車両の積載量は限られているため、正面のみ、あるいはタイヤのみといった簡素なもので、本格的な防護というよりは乗員の士気向上を目的としていると思われる。

使用例 編集

 
イラク治安部隊が使用するPK機関銃を搭載したトヨタ製ピックアップのテクニカル
 
2011年リビア争乱にて、反カダフィ勢力が使用するテクニカル
S-5空対地ロケット弾ポッドを荷台に装備している
 
民間ピックアップトラックにZPU-2を搭載したテクニカル

機関銃を搭載した車両は、東ヨーロッパで初めて使用された。第二次世界大戦では、イギリス部隊Long Range Desert Group」が、エジプト砂漠チャドでの戦闘の際に使用した。

登場作品 編集

映画 編集

エクスペンダブルズ3 ワールドミッション
主人公、バーニー・ロス率いる傭兵チーム「エクスペンダブルズ」がモガディシュで標的の武器商人ミンズことコンラッド・ストーンバンクスを狙うも失敗した直後、ストーンバンクスの一味と共に反撃に転じた彼の取引相手の武装勢力が複数を使用するが、その中の1両をバーニー達に奪われ、途中まで逃走手段に使われる。この際、運転手はリー・クリスマスが、車載機銃の機銃手はトール・ロードが務める。フロント部に三菱のマークが入っており、三菱自動車工業製のパジェロの後席以降をカットし別のピックアップトラックの荷台を後付けしたものが使われている。
ザ・シューター/極大射程
冒頭のエリトリアでの戦闘で、敵兵が機関銃を搭載したものを使用。なお、主人公のボブ・リー・スワガーが劇中初めて狙撃したのはテクニカルの機銃手であり、2番目は同車の運転手である。
ターミネーターシリーズ
ターミネーター
未来におけるスカイネット率いる機械軍とジョン・コナー率いる人類抵抗軍との戦闘シーンにてフェイズドプラズマ機関銃の車載型を装備したものが1両出てくる。
ターミネーター2
未来におけるスカイネット率いる機械軍とジョン・コナー率いる人類抵抗軍との戦闘シーンにて登場。先述のものと、車載ロケット砲を装備したものがそれぞれ複数登場する。
ブラックホーク・ダウン
ソマリア内戦におけるモガディシュの戦闘が舞台であり、ソマリア民兵が使用。DShKM重機関銃M2重機関銃搭載型が頻繁に登場するほか、この内1両(SPG-9無反動砲搭載型)がアメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースに奪われ、ソマリア民兵指揮官モアリムへの攻撃に使われる。
ブラッド・ダイヤモンド
シエラレオネ内戦にて、革命統一戦線首都フリータウン攻略戦などで使用。
ランボー3/怒りのアフガン
主人公、ジョン・ランボーがM2重機関銃搭載型を使用。

漫画 編集

BLACK LAGOON
ロシアン・マフィア「ホテル・モスクワ」とコロンビアマフィアが使用。
Cat Shit One
外伝の「Rat Shit Five」でPMCが使用。
ヨルムンガンド
PMC「エクスカリバー」および、テロ組織「新・あかつきの戦線」の車両として、RPD軽機関銃搭載型とM2重機関銃搭載型が登場する。「エクスカリバー」はフォード・F-150、「新・あかつきの戦線」はトヨタ・ハイラックスをそれぞれ使用している。
また、コーカサス共和国の護送部隊が、DShK38重機関銃を搭載したものを使用する。

ゲーム 編集

ArmA: Armed Assault
拡張パック「ArmA: Queen's Gambit」を導入すると、DShKM重機関銃またはPK機関銃を装備した、日産・ダットサントラックトヨタ・ハイラックスがベースのテクニカル、計8種類が使用可能になる。
ARMA 2
前作の『ArmA: Armed Assault』に準じた内容で、最初から使用可能。民兵組織の主力兵器として多様な種類が用意されている。
Double Clutch
敵が使用。
Far Cry 2
敵の民兵が偵察に使用。プレイヤーも運転可能。機関銃の他にグレネードランチャーを搭載している車両もある。
Just Cause
フォード・F-150をベースとした車両をサン・エスペリート人民解放戦線が使用する。武装は重機関銃で、ルーフの上に据え付けている。
Just Cause 2
上記と同じ。
Total Overdose
麻薬カルテルメキシコ軍が使用。主人公も使用可能で、ミッションでも使うことになる。
エースコンバット アサルト・ホライゾン
SRNがDShKM重機関銃を搭載して使用。
グランド・セフト・オートV
2015年3月の「強盗アップデート」で追加された。トヨタ・ハイラックスをベースにしており、DShKM重機関銃を搭載している。オンラインのみ使用可能。
ゴーストリコンシリーズ
ゴーストリコン フューチャーソルジャー
ボリビア密輸組織のメンバーが機関銃を搭載した物を使用する他、同様の物をアンゴラから国境を越えてザンビア難民キャンプに入り込んだ戦争犯罪人のデデ・マカバ配下の民兵が使用。本格的な装甲の無い民間車両がベースのため、装甲戦闘車両と比べて耐久力は劣る。
ゴーストリコン ワイルドランズ
ボリビアに本拠地を置くメキシコ発祥の麻薬カルテル「サンタ・ブランカ」のシカリオ(殺し屋、構成員)や、カルテルの力に屈して黙認する道を選んだボリビア政府指揮下の軍事警察部隊「ユニダッド」が使用。いずれもM134 ミニガンを搭載している。また、カルテルや政府と対立状態にある反乱軍「カタリス26」も彼らから鹵獲した物を使用している他、プレイヤー側も奪って使用することが可能。なお、劇中では武装していない普通のピックアップトラックも登場するが、武装の有無に関係なく全て「ピックアップ」という名称で統一されている。また、一部のピックアップトラックには車体後部に「NAKAHAWA」と記されているので、日本製である模様。
コール オブ デューティシリーズ
CoD4
M2重機関銃を搭載したものをロシア超国家主義派が使用。プレイヤーは使用できないが、DS版では主人公も使用できる。
CoD:MW2
M2重機関銃を搭載したものを民兵が使用。『CoD4』とは異なり、プレイヤーも使用可能。
CoD:MW3
M2重機関銃を搭載したものが登場し、一部ミッションで主人公が使用することになる。
CoD:BO2
M2重機関銃を搭載したものをムジャーヒディーンPMCが使用。プレイヤー使用可能。
CoD:BO3
重機関銃やグレネードランチャーを搭載したものを54イモータルが使用する。
CoD:AW
KVAが使用する。
コマンド&コンカー ジェネラルズ
GLAが使用。
ターミネーター・サルベーション
序盤にジョン・コナーらが搭乗。M2重機関銃を搭載する。ただし、これらのテクニカルは鉄板などで準装甲車レベルの防弾対策が施されている。後に1両がT-600に強奪される。
大戦略シリーズ
現代大戦略シリーズにて「武装ピックアップ」「火力支援ピックアップ」の名称で登場。
バトルフィールドシリーズ
BF2
拡張パック「スペシャルフォース」に登場。一部マップで荷台にM2重機関銃、助手席にRPK軽機関銃を搭載したものを使用可能。
BF2MC
BF3
キャンペーンにのみKord重機関銃を搭載して登場し、PLRが使用する。
BF4
キャンペーンでアメリカ軍が使用する。
マーセナリーズ
ロシアン・マフィアが使用する。12.7mm重機関銃搭載型、対戦車ロケット砲搭載型、40mm グレネードランチャー搭載型の3種類が存在する。
マーセナリーズ2 ワールド イン フレームス
ユニバーサル石油と海賊が所有。
メダル・オブ・オナー
ターリバーンアメリカ軍が使用。プレイヤーも一部ミッションで利用可能。
メタルサーガ ニューフロンティア
特殊クエストでプレイヤーに配布される。戦車に比べ移動速度で勝る反面、初期武装は貧弱だが戦車より道具枠が多く、しかも、改造で砲塔を搭載する事ができるので特殊砲弾を使用した賞金首戦では並の戦車以上の戦力になる。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 学研の雑誌『UTAN』では、この件に関して、日本の企業が軍用に転用されることがわかりきっている車両を、紛争地帯へ輸出することを批判する記事が掲載されたが、全く反響はなかった

出典 編集

参考文献 編集

  • 1975-2005 30 Years of military vehicles in Lebanon, by Samar Kassis, 2006, ISBN 9953-0-0705-5,
  • Military vehicles in Lebanon 1975-1981, by Samar Kassis, TREBIA Publishing, ISBN 978-9953-0-2372-4,

関連項目 編集

外部リンク 編集