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犬神家の一族 (1976年の映画)

1976年制作の日本の映画作品
金田一耕助 > 石坂浩二の金田一耕助シリーズ > 犬神家の一族 (1976年の映画)

犬神家の一族』(いぬがみけのいちぞく)は、1976年昭和51年)10月16日[1]に公開された日本映画横溝正史作による同名の長編推理小説の映画化作品の一作。製作は角川春樹事務所、配給は東宝

犬神家の一族
The Inugamis
監督 市川崑
脚本 長田紀生
日高真也
市川崑
原作 横溝正史
製作 市川喜一
製作総指揮 角川春樹
出演者 石坂浩二
島田陽子
あおい輝彦
川口晶
坂口良子
原泉
草笛光子
大滝秀治
岸田今日子
加藤武
高峰三枝子
三國連太郎
音楽 大野雄二
主題歌 愛のバラード
撮影 長谷川清
編集 長田千鶴子
製作会社 角川春樹事務所
配給 東宝
公開 日本の旗 1976年10月16日[1]
日本の旗 1976年11月13日
上映時間 146分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
配給収入 15億5900万円[2]
(1976年邦画配給収入2位)
次作 悪魔の手毬唄
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概要編集

1970年代中頃から1980年代中頃にかけて一種のブームとなった角川映画の初作品であり、市川崑監督・石坂浩二主演による金田一耕助シリーズの第1作でもある。金田一耕助を初めて原作通りの着物姿で登場させた映画としても知られる。横溝本人もゲスト出演(民宿・那須ホテルの主人役)している。

市川崑を監督に決めたのは、久里子亭クリスティのもじり)というペンネームで脚本を書くくらいミステリーが好きで、また「色彩の魔術師」と呼ばれて評価も高かったからだと、角川春樹は述べている[3]

「波立つ水面から突き出た足」のシーンや不気味なマスク姿の佐清などの印象的な場面が多く、後に何度もパロディにされている。大野雄二による主題曲「愛のバラード」も有名である。

劇中では作曲家小杉太一郎の唯一の邦楽作品、箏曲「双輪」が効果的に映画音楽として使われている。この曲は箏曲家山田節子の委嘱により作曲されたものである。市川はその後も「双輪」を大変気に入り、『古都』(1980年)や『竹取物語』(1987年)など、以後も箏曲が必要な時にはたびたび使用している(ちなみにこれらで使われている演奏はすべて山田節子によるものである)。TBSのタレント人気調査で3年連続トップになるなど、お茶の間では圧倒的人気を誇りながら、映画ではめぼしい実績を掴みかねていた石坂浩二は、初の大作主演での大ヒットに恵まれた。

逆さ死体を演じているのは、寺田稔(猿蔵役)のスタントを務めた青木湖・湖畔の旅館の主人である[4]。この場面での衝撃体験を語る人は多いが、中でも宮部みゆきは、デンマーク人魚姫像があるごとく、日本の湖沼は佐清の足のモニュメントを掲げるべしとの趣旨の冗談を述べている(平成お徒歩日記)。

佐清のマスクなどの造形は、東宝特殊美術の安丸信行が担当した。佐清のマスクの着色は、白と肌色を調合したもので、監督の市川崑の気に入った配色が出なかったため、何度も作り直させられて苦しかったと安丸は述懐している。また、ポスターなどに使用された湖から突き出した佐清の足は、美術助手であった好村直行の足を型取りして造形された。好村は後年、『犬神家の一族 (2006年の映画)』の美術を担当した櫻木晶に、本作の足が好村のものであることを驚かれて誇らしい気分になったと述べている[5]

映画は15億6000万円の配給収入を記録し、大ヒットした。批評家やファンからも高い評価と支持を受け、第50回キネマ旬報ベスト・テンで第5位にランクインのほか、第1回報知映画賞作品賞などの各賞を受賞した。キネマ旬報によれば、本作のヒットにより製作と宣伝にコストをかけた邦画の一本立て大作路線が本格的にスタートした[6][注 1]

2006年平成18年)には市川・石坂のコンビでリメイク版が製作された。リメイク版も石坂が金田一を演じている。

ストーリー(原作との差異)編集

概ね原作通りに展開するが、佐智殺害から真相解明に至るまでの経緯は大幅に改変されている。

まず、佐智の死体を豊畑村の旧宅に戻して生前と同様の縛り上げられた状態にする設定は無くなっている。死体は本宅の屋根に置かれ、行方不明の佐智を探して天井裏に入り込んだ小夜子が、明かり取りの窓を通して発見する。佐清はその後も那須近辺に滞在したため静馬殺害のアリバイが成立してしまう事態にならず、派手な雪中逃走劇を展開する必要が無くなっている(季節も原作の10~12月ではなく9月ごろ)。佐清は珠世を殺害する真似をするのではなく単に珠世に遺書を手渡すために現れ、それにより猿蔵に尾行されて豊畑村の旧宅で警察に逮捕された。逮捕の後、取調室で金田一が佐清の自白を否定して佐武殺しの真相を語り、続いて金田一が松子と1対1で対峙、警察が佐清を連れてきて松子が落ち着いたところで、金田一が全員に真相の全容を説明する。

佐智殺害後、屋敷中の斧(よき)を処分した設定は無く、静馬は手元に偶々あった斧で殺害された。そのため「ヨキケス」の見立ても不要になったが、湖上の倒立死体という状況設定は維持されている。死体を処理したのは佐清で、屋敷近くではなく崖の上から湖に投げ込んだ。佐智殺害で正気を失って徘徊していた小夜子が死体を発見する。

その他、以下のような設定変更がある。

  • 犬神家は製糸業ではなく製薬業であり、佐兵衛が放浪時代に麻薬の知識を得ていた芥子の栽培から始まっている。若林殺害や松子の自殺に使われた毒物は、芥子に由来するものである。
  • 原作では大山泰輔は「神主」で野々宮大弐は「神官」だが本作では神官で統一されている。大山は珠世が佐兵衛の孫だと以前から知っていて(文殻を整理していて発見した設定は原作と同じ)、男色関係のことを古館から聞き出した金田一が問い詰めて聞き出し、それは松子が犯行を自白した際に松子のみに伝えた以外には特に公表されない。したがって、佐智殺害後に静馬が珠世と叔父姪の関係と知って結婚を目指せなくなり窮する設定も無く、珠世が佐清との結婚を迫る松子に佐清は偽者だと断言して拒絶する展開となる。
  • 青沼菊乃と宮川香琴は本作では別人であり、香琴は佐智殺害時における松子のアリバイに関する役割を概ね原作通りに担っているのみである。古館弁護士の調査では菊乃は空襲で死亡したという結果であったが、静馬は松子に殺害される直前に自分が9歳のときに死んだと語っており、矛盾している。
  • 佐武殺害時にボートが紛失していたことを猿蔵は警察に申告しておらず、湖畔で遊んでいた少年が血染めのボートを発見して警察に通報する。金田一はボートの位置から柏屋にたどりつき、警察より先行していた。血染めの手ぬぐいを柏屋に残して警察の目を「謎の復員兵」に向けさせようとした設定は無い。
  • 佐武通夜のあと、珠世は自室前の廊下(原作では自室の居間部分)で小夜子と話しており、自室(原作では自室の寝室部分)へ入ろうとして侵入者と遭遇した。このとき金田一はまだ犬神家を辞去していなかった。
  • 湖底から浮き上がった佐武の死体がどのように発見されたかは明示されず、大山神主が発見した設定ではない。手形照合を思いついたのが珠世だったことは、このときではなく最初から明かされている。
  • 佐智は絞殺されるときの抵抗で松子の指を噛み切っており、ワイシャツのボタンによる負傷ではない。
  • 原作では珠世と共に育った孤児である猿蔵が、本作では全くの出自不明となっている。

また、以下のような原作に無い要素が追加されている。

  • 原作では特徴的な描写が無い那須ホテルの女中・はるが金田一の周囲に頻繁に登場する。金田一は彼女を通してホテル常連の薬学専門家に若林が殺害されるときに吸っていた煙草の分析を依頼し、芥子由来の毒を吸って死亡したことを明らかにする。(警察は遺体のみ調べて煙草の分析をしなかったという設定だと思われる。)
  • 原作では故人となっている松子の母親が登場する。幼少の松子を遺して犬神家を去ったが、松子に接触して金銭をせびる行為を繰り返しており、その過程で松子が若林に煙草を渡すところを目撃していた。
  • 原作では強調されていない遺言公表時の小夜子の反応が「あたしのことなんか何にも書いてないじゃない」という科白により描写されている。
  • 原作では描写がない静馬が佐清に代わって復員する回想シーンがある他、東京の仮面師が石膏で静馬の顔の型を取りながら、型にドロドロの樹脂を入れて固めた後、ベリベリと不気味な音を立てながら完成したゴムマスクを剥がしていく描写がおどろおどろしく描かれている。
  • ビルマ戦線で「どえらい傷」を負った静馬の素顔は原作では顎の辺りは無傷で鼻の代わりに赤黒い肉塊があるとされているが、本作では右側の顎の下にまで焼け爛れた傷があり、鼻も完全になくなっている。ただし、東京の仮面師が静馬の顔型を取るシーンでは鼻が確認できる。
  • 事件のすべてが様々な偶然の集積で、その偶然を巧みな筬にかけてひとつの筋を織り上げていった静馬の並々ならぬ知恵は軍隊時代に戦場で習得した生きるために必要不可欠な知恵であるとされているなど、本作の設定で佐兵衛が財を成した犬神家の麻薬同様、戦争が起因している。
  • 事件解決後のエピソードが追加されている。皆で金田一を駅まで見送ろうとしていることを古館弁護士から聞いた金田一は、見送られるのは苦手だと言って予定より早い列車で旅立つ。

キャスト編集

以下はノンクレジット
  • また、冒頭の佐兵衛の生涯を写真で振り返るシーンで、「大正八年」の写真で佐兵衛(三国連太郎)の隣でグラスを高く上げている人物は監督の市川崑である。

スタッフ編集

受賞編集

ロケ地編集

  • 那須の街並みは長野県上田市で撮影された。
  • 湖の風景は長野県の青木湖木崎湖で撮影された。
  • 金田一耕助が投宿する「那須ホテル」は長野県佐久市にある「井出野屋旅館」で撮影された。
  • 信州那須神社は、長野県大町市にある国宝仁科神明宮で撮影された。

その他編集

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ ただし、1980年には1本立てイコール大作のイメージは無くなり、観客側も1本立ての物珍しさに慣れてしまい、製作側も勝負作でない、大作でない1本立てを作成するようになった[7]

出典編集

  1. ^ a b 日比谷映画劇場で先行上映。
  2. ^ 中川右介『角川映画 1976-1986 日本を変えた10年』KADOKAWA、2014年、280頁。ISBN 978-4-04-731905-9
  3. ^ 現代ビジネス』 (2016年9月18日). “日本映画に革命を起こした『犬神家の一族』はここがスゴかった”. 現代ビジネスプレミアム 本/教養. 講談社. 2019年10月26日閲覧。
  4. ^ 北山美紀・水原文人「メイキング・オブ・犬神家の一族」『プレミア日本版』2002年11月号、アシェット婦人画報社、93-103頁。
  5. ^ 『別冊映画秘宝 特撮秘宝』Vol.5、洋泉社、2017年1月5日、 128-129頁、 ISBN 978-4-8003-1127-6
  6. ^ 「1979年度日本映画・外国映画業界総決算 日本映画」『キネマ旬報1980年昭和55年)2月下旬号、キネマ旬報社、1980年、 119頁。
  7. ^ 「1980年度日本映画・外国映画業界総決算 日本映画」『キネマ旬報1981年昭和56年)2月下旬号、キネマ旬報社、1981年、 113頁。

関連項目編集

外部リンク編集