安丸 信行(やすまる のぶゆき[1]1935年[1]1月24日 - )は元東宝特殊技術専門の造型家、自由美術協会会員。彫刻家。富山県出身[1]神奈川県相模原市在住。

来歴・人物編集

武蔵野美術大学彫刻科を経て、東宝撮影所に入社[1]。「特殊技術課」の特殊美術科石膏部に配属される[1]。石膏部は、ミニチュアのビルなどを石膏で造型する部署だった。

1960年(昭和35年)、アルバイト中に『ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐』の爆撃で四散する兵隊用の手足の型取りを引き受けたのが初仕事となる。 1961年(昭和36年)、『モスラ』から東宝と専属契約を結ぶ。

1967年(昭和42年)、『キングコングの逆襲』では人員不足で「恐竜(ゴロザウルス)」を作るスタッフがおらず、美術チーフの井上泰幸と相談して、当時『ウルトラマン』や『怪獣王子』などの怪獣・恐竜造型を担当していた高山良策にこの恐竜の制作を依頼したが、高山の造形に不満を持った安丸は中途でこれを断り、「いっそ自分が」とゴロザウルスを造形したと語っている。

以後、東宝の怪獣映画に登場する怪獣のぬいぐるみを多数手がけることとなる。それまでの東宝怪獣達の「皮膚の乾いた感じ」が不満だったそうで、ゴロザウルスではリアルな生物感のある造形をと心がけ、「ヌメヌメした嫌らしい感じ」を出そうと務めたという。

映画に使われる怪獣のぬいぐるみは「重く、硬く」作るのが常道で、TV畑の高山良策の怪獣は、ディティールも重さも軽い作りだったのが不満だったそうで、ゴロザウルスは「おが粉」を混ぜ込んでパテ状にしたラテックスで皮膚のパーツを型抜きし、これを全身に貼り付けて重厚な表皮を形作っている。

1968年(昭和43年)、『怪獣総進撃』で2代目アンギラスを造形。上記の手法で制作されたこのアンギラスは大変長持ちし、あちこち磨り減りながらも7年後の『ゴジラ対メカゴジラ』まで使いまわされている。

1970年(昭和45年)、『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』で、怪獣カメーバを全身の粘土原型から起こして型取り造形する。この手法は第1作の『ゴジラ』以来のものだった。同作のガニメは八木兄弟との共同制作である。

1971年(昭和46年)、造型チーフ利光貞三の退社後、跡を継いで東宝の造型チーフとなり、以後造型班の主力として活躍[1]

同年、テレビ番組『帰ってきたウルトラマン』でアーストロンやタッコングをゴロザウルスと同じ手法で製作しているが[注釈 1]、テレビの撮影で使うには重厚すぎて軽快な動きが出来ず、円谷プロでぬいぐるみの内側部分がそぎ落とされ、アーストロンなどは腹回りのデザインが変わるほど肉厚を薄く修正し、タッコングに至っては硬い外装をはがしてほとんど作り直すような修正を加えられ、ようやく撮影に入っている。

1972年(昭和47年)、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』で「ゴジラ塔」を造型。石膏部出身らしく、全身を石膏の削りだしで制作している。

1973年(昭和48年)、『ゴジラ対メガロ』でゴジラを造形。利光貞三に続く2代目ゴジラ造形者となる。このゴジラは眼がパッチリと大きく、全体的に可愛らしい印象となっているが、インタビューでこれを指摘された安丸自身は「アゴの辺りなどリアルに気持ち悪く作ったつもり」と答えている。

1984年(昭和59年)、『ゴジラ』でゴジラの全身粘土原型を起こし、このときに作られたFRP製の雌型が、以後『ゴジラvsデストロイア』までの平成シリーズでのゴジラの胴体の型抜きに共通して使用された。

安丸によると、『ゴジラ対メガロ』では従来のやり方で、全身に細くちぎったウレタンを貼り付けてヒダを表現する手法を採ったが、本来この手法はリアルさの面で不満だったそうである。

84年版の『ゴジラ』ではついに全身原型から表皮を型抜きする方法を採ったが、この怪獣の表皮を「一枚皮」で表現できる手法のほうが生物らしさが出せるとのことである。が、この手法は反面硬くなりすぎて動きが出せず、平成ゴジラでも結局、手足を一度切り離して動きやすく付け直す事となってしまっている。

細部のリアルさにこだわり、制作する怪獣の瞳には、必ず虹彩を描き込んでいる。また、『ゴジラvsビオランテ』では川北紘一特撮監督と打ち合わせて、ゴジラの歯を二列にする新案を試している。

1991年(平成3年)、造型チーフの座を小林知己に譲り東宝映像美術の主任となる。

1995年(平成7年)に東宝を定年退職し、フリーの彫刻家として活躍している。

主な参加作品&キャラクター造形編集

映画編集

公開年 作品名 製作(配給) 役職 キャラクター
1961年(昭和36年) 7月30日 モスラ 東宝撮影所
東宝
石膏 なし
8月13日 紅の海
10月8日 世界大戦争
1962年(昭和37年) 3月21日 紅の空
妖星ゴラス
8月11日 キングコング対ゴジラ
1963年(昭和38年) 1月3日 太平洋の翼
5月29日 青島要塞爆撃命令
8月11日 マタンゴ
10月26日 大盗賊
12月22日 海底軍艦
1964年(昭和39年) 1月13日 士魂魔道 大龍巻 宝塚映画
(東宝)
4月29日 モスラ対ゴジラ 東宝撮影所
(東宝)
8月11日 宇宙大怪獣ドゴラ
12月20日 三大怪獣 地球最大の決戦
1965年(昭和40年) 6月19日 太平洋奇跡の作戦 キスカ
8月8日 フランケンシュタイン対地底怪獣 東宝撮影所
ベネディクト・プロ
(東宝)
10月31日 大冒険 東宝撮影所
渡辺プロダクション
(東宝)
12月19日 怪獣大戦争 東宝撮影所
ベネディクト・プロ
(東宝)
1966年(昭和41年) 7月13日 ゼロ・ファイター 大空戦 東宝撮影所
(東宝)
7月31日 フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ 東宝撮影所
ベネディクト・プロ
(東宝)
12月17日 ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 東宝撮影所
(東宝)
1967年(昭和42年) 7月22日 キングコングの逆襲 東宝撮影所
ランキン・バス・プロダクション
(東宝)
造型助手 ゴロザウルス[1]
12月16日 怪獣島の決戦 ゴジラの息子 東宝撮影所
(東宝)
カマキラス
1968年(昭和43年) 8月1日 怪獣総進撃 アンギラス
8月14日 連合艦隊司令長官 山本五十六 石膏 なし
1969年(昭和44年) 4月29日 クレージーの大爆発 東宝撮影所
渡辺プロダクション
(東宝)
8月13日 日本海大海戦 東宝撮影所
(東宝)
石膏 なし
1970年(昭和45年) 8月1日 ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣 造型助手 ガニメ
カメーバ
1971年(昭和46年) 7月17日 激動の昭和史 沖縄決戦 石膏チーフ なし
7月24日 ゴジラ対ヘドラ 造形チーフ ヘドラ(三態全て)
1972年(昭和47年) 3月12日 地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン 東宝スタジオ
(東宝)
キングギドラ頭部[注釈 2]
ゴジラタワー
ガイガン
1973年(昭和48年) 3月17日 ゴジラ対メガロ 東宝映像
(東宝)
ゴジラ[1][注釈 3]
メガロ
ジェットジャガー
9月8日 人間革命 東宝映像
シナノ企画
(東宝)
石膏チーフ なし
12月29日 日本沈没 東宝映画
東宝映像
(東宝)
1974年(昭和49年) 3月21日 ゴジラ対メカゴジラ 東宝映像
(東宝)
造形チーフ メカゴジラ
キングシーサー
7月20日 血を吸う薔薇 なし
8月3日 ノストラダムスの大予言 東宝映画
東宝映像
(東宝)
石膏チーフ
12月28日 エスパイ 東宝映像
(東宝)
1975年(昭和50年) 3月15日 メカゴジラの逆襲 造形チーフ メカゴジラ
7月12日 東京湾炎上 東宝映画
東宝映像
(東宝)
石膏チーフ なし
1976年(昭和51年) 6月19日 続・人間革命 東宝映像
シナノ企画
(東宝)
10月2日 大空のサムライ 東宝映画
(東宝)
10月16日 犬神家の一族 角川春樹事務所
(東宝)
造形チーフ 佐清のマスク
1977年(昭和52年) 4月2日 悪魔の手毬唄 東宝映画
(東宝)
12月17日 惑星大戦争 東宝映画
東宝映像
(東宝)
石膏チーフ なし
1978年(昭和53年) 8月12日 火の鳥 東宝映画
手塚プロダクション
(東宝)
1980年(昭和55年) 8月2日 二百三高地 東映東京撮影所
東映
8月30日 地震列島 東宝映画
(東宝)
1981年(昭和56年) 8月8日 連合艦隊
1982年(昭和57年) 5月15日 南十字星 新日本映画
サザン・インターナショナル・フィルム
(東宝)
8月7日 大日本帝国 東映東京撮影所
東映
9月11日 幻の湖 橋本プロダクション
(東宝)
1983年(昭和58年) 6月4日 日本海大海戦 海ゆかば 東映東京撮影所
(東映)
1984年(昭和59年) 3月17日 さよならジュピター 東宝映画
イオ
東宝
8月11日 零戦燃ゆ 東宝映画
(東宝)
12月15日 ゴジラ 造形チーフ ゴジラ[1]
ショッキラス原型
1987年(昭和62年) 1月17日 首都消失 徳間書店
関西テレビ
大映映画
(東宝)
石膏チーフ なし
9月26日 竹取物語 フジテレビ
東宝映画
(東宝)
造形チーフ
1988年(昭和63年) 9月17日 アナザー・ウェイ ―D機関情報― 東宝映画
タキ・エンタープライズ
東宝東和)
石膏チーフ なし
1989年(平成元年) 7月22日 ガンヘッド サンライズ
BANDAI
角川書店
IMAGICA
東宝映画
(東宝)
12月16日 ゴジラvsビオランテ 東宝映画
(東宝)
造形チーフ ゴジラ[1][注釈 4]
1991年(平成3年) 12月14日 ゴジラvsキングギドラ 東宝映画
ファーストウッド・エンターテインメント
(東宝)
ゴジラ
(スーツ修理、3分の1サイズの可動式ミニチュア原型)
ゴジラザウルス監修
2000年(平成12年)[注釈 5] 7月22日 プルガサリ 朝鮮芸術映画撮影所
レイジング・サンダー
プルガサリ

テレビ編集

期間 番組名 制作(放送局) 役職 キャラクター
1971年4月2日 1972年3月31日 帰ってきたウルトラマン 円谷プロダクション
TBS
造形 アーストロン
タッコング

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ 同話に登場するザザーンも安丸造形と言われてきたが、『映画秘宝』vol.5のインタビューで「これはやってない、絶対に」と関与を否定している。(2017年1月5日発売、洋泉社、ISBN9784800311276)127ページ
  2. ^ 利光貞三の原型による石膏型から抜いたレプリカとの説もある。
  3. ^ スーツは『メカゴジラの逆襲』まで使用された[2]
  4. ^ 胴体部分は84版の原型を流用[1]。造型作業は小林知己が担当した[1]
  5. ^ 製作は1985年

出典編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l ゴジラ造型写真集 2017, p. 115, 「ゴジラを造った男たち 安丸信行」
  2. ^ ゴジラ造型写真集 2017, p. 51, 「1975 メカゴジラの逆襲 着ぐるみ(スーツ)」

参考文献編集

  • 『空想特撮シリーズ ウルトラマン大全集』講談社、1987年。ISBN 4061784048
  • 監修:川北紘一『THE ART OF GODZILLA VS MOTHRA』ワニブックス、1992年。ISBN 4847023056
  • ヤマダマサミ『絶対ゴジラ主義』角川書店、1995年。ISBN 4048525751
  • ヤマダマサミ『大ゴジラ図鑑・1巻』ホビージャパン、1995年。ISBN 4894250594
  • ヤマダマサミ『大ゴジラ図鑑・2巻』ホビージャパン、1995年。ISBN 4894251175
  • 『平成ゴジラクロニクル』キネマ旬報社、2009年。ISBN 4873763193
  • 『GODZILLA GRAPHIC COLLECTION ゴジラ造型写真集』ホビージャパン、2017年7月29日。ISBN 978-4-7986-1474-8
  • 『ゴジラvsキングギドラ』ホビージャパン〈コンプリーション〉、2020年3月31日、40 - 42頁。ISBN 4798621765

外部リンク編集

先代:
利光貞三1954年 - 1970年
東宝特撮映画
造形チーフ
2代目(1970年 - 1990年)
次代:
小林知己1991年 - 現在)