キュウリ

きゅうりから転送)

キュウリ胡瓜Cucumis sativus L.)とはウリ科キュウリ属のつる性一年草、およびその果実のことである。野菜の一種として食用にされる[2]

キュウリ
Komkommer plant.jpg
キュウリ
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : バラ類 rosids
階級なし : マメ類 fabids
: ウリ目 Cucurbitales
: ウリ科 Cucurbitaceae
: キュウリ属 Cucumis
: キュウリ C. sativus
学名
Cucumis sativus
L.[1]
和名
キュウリ(胡瓜)
英名
Cucumber

かつては熟した実も食用とされたが、甘みが薄いためにあまり好まれず、現在では未熟な実を食用とするようになった。インド北部、ヒマラヤ山麓原産。日本では平安時代から栽培され、大正時代以降によく利用されるようになった[3]

名称編集

和名キュウリの呼称は、漢字で「黄瓜」(きうり)と書かれ、熟した実が黄色くなることに由来する[3][4]。「胡瓜」の中国音(クウクワ)が日本人には発音しにくかったため、瓜を日本での読み「ウリ」と発音し、「クウウリ」から「キュウリ」となったものと考えられている[3]。現代の中国植物名は黄瓜(おうか)または、胡瓜(こか)という[4]漢字表記で使われる胡瓜の「」という字は中国から見た西方諸民族を指し、シルクロードを渡って来たことを意味している。その他の外国語表記は、英語名は common cucumberフランス語concombreイタリア語cetriolo である[5]

日本の地方により、別名でカラスウリ[4]、ツバウリ[4]ともよばれている。

キュウリの標準学名は Cucumis sativus [1]、狭義のキュウリとされる種は Cucumis sativus var. tuberculatus [6]である。

生態編集

インド原産[4]、またはヒマラヤ山麓が原産とされる、一年生のつる性の植物である[3]。広く畑で栽培されている[4]。栽培されているキュウリのうち、3分の2は生で食することができる。種子は暗発芽種子である。雌雄異花ではあるが、単為結果を行うため雄花が咲かなくとも結実する。

キュウリは、つるを伸ばしながら果実をつけるという、栄養生長と生殖生長を同時に行う[7]。元来、つるは地を這って伸びて、葉腋の節から巻きひげが伸びて他物にからんで躰を支える[8]。主に黄色く甘い香りのする花を咲かせるが、生育ステージや品種、温度条件により雄花と雌花の比率が異なる。概ね、雄花と雌花がそれぞれ対になる形で花を咲かせてゆく。葉は鋸歯状で大きく、果実を直射日光から防御する日よけとしての役割を持つ。長い円形の果実は生長が非常に早く、50センチメートル (cm) にまで達する事もある。熟すと苦味が出るため、その前に収穫して食べる。

果実色は濃緑が一般的だが、淡緑や白のものもある[9]。果実の表面に白い粉が吹いたようにも見えるろう状の物質はブルームで、水分の蒸発を防ぎ、果実の皮を保護する役割がある[10]。果実の表面にはイボがついているが、品種によってはイボがないものもある[10]の酸素要求量が大きく、過湿により土壌の気相が小さい等、悪条件下では根が土壌上部に集中する。

歴史編集

起源編集

キュウリは古くから食用の野菜として栽培されている。果実成分の95%程度が水分とされ、歯応えのある食感とすっきりとした味わいがある。水分を多く含むことから暑い季節・地域では水分補給用として重用されてきた。

インド西北部のヒマラヤ山脈の南の山麓地帯が原産で[8]紀元前10世紀ごろには西アジアに定着したとみられている[11]。紀元前4000年前にメソポタミアで盛んに栽培されており、インド古代ギリシア古代エジプトなどでも栽培された。その後、6世紀に中国、9世紀にフランス、14世紀にイングランド、16世紀にドイツと伝播していき、16世紀ごろのヨーロッパで栽培が盛んになった[11]アメリカ大陸には15世紀末、クリストファー・コロンブスハイチに持ち込んだのを端緒に普及していった。キュウリを好物とした歴史上の有名人としてローマ皇帝ティベリウスがいる。

原産地から東方への伝播は、シルクロードを経由して中国の華北に入ったものと、東南アジアに伝わってから北上して中国の華南に入った2ルートのものがある[8]。中国ではかつて、ビルマ経由で伝来した水分の少ない南伝種が普及し、シルクロード経由の瑞々しい北伝種の伝来まで、この南伝種を完熟させてから食べるのが一般的であった。のちに南伝種は漬物酢の物に、北伝種は生食に使い分けられることになる[12]

日本での普及編集

日本には6世紀に華南系キュウリが中国から伝わったとされるが、明治期に華北系キュウリが入ってきたといわれ[8]、本格的に栽培が盛んになったのは昭和初期からである[10]。仏教文化とともに遣唐使によってもたらされたとみられているが、当初は薬用に使われたと考えられている[11]。南伝種の伝来後、日本でも江戸時代までは主に完熟させてから食べていたため、「黄瓜」と呼ばれるようになった。完熟した後のキュウリは苦味が強くなり、徳川光圀は「毒多くして能無し。植えるべからず。食べるべからず」、貝原益軒は「これ瓜類の下品なり。味良からず、かつ小毒あり」と、はっきり不味いと書いているように、江戸時代末期まで人気がある野菜ではなかった。これには、戦国期の医学者曲直瀬道三の『宣禁本草』などに書かれたキュウリの有毒性に関する記述の影響があると見られている。安土桃山時代以前にはキュウリに禁忌は存在せず、平安後期の往来物新猿楽記』に登場する美食趣味の婦人「七の御許」が列挙した好物の一つに「胡瓜黄」が入っている。イエズス会宣教師ルイス・フロイスは著書『日欧文化比較』(1585)で「日本人はすべての果物は未熟のまま食べ、胡瓜だけはすっかり黄色になった、熟したものを食べる」と分析している[13]

重要野菜として定着したのは江戸時代末期で、キュウリの産地だった砂村(現在の江東区)で、キュウリの品種改良が行われ、成長が速く、歯応えや味が良いキュウリが出来て、一気に人気となった[14]明治末期には、栽培面積でナスの3分の1強ほどあった[11]。第二次世界大戦後は温室栽培が盛んになり、特に生食用野菜として重要視されてからはトマトと果菜類の収穫量の首位を競うほどになっている[11]

栽培編集

ツルを支柱にしっかり固定し這わせる方法と、地面を這わせる栽培法がある[15]。親づるに実がつく節成り系のキュウリは支柱栽培に向くが、子・孫づるに実がつく枝成り系のキュウリは地を這わせる栽培に向く[16]。日本で栽培されているきゅうりのほとんどは子・孫づるに実がつくため、地面を這わせる方が向いているが、日本でのきゅうり栽培では、支柱栽培となっている。地面に這わせる栽培法では、ワラを敷いておくと巻きひげがワラに絡まりながら生長していく[16]。栽培時期は、北半球で一般に春から秋(4 - 9月)のシーズン中に行われ、春に苗を植えて秋に収穫する「春きゅうり」と、初夏に種を蒔いて夏の終わりに収穫する「夏きゅうり」、盛夏に種を蒔いて収穫する「秋きゅうり」がある。春まきはポットで育苗して定植、夏まき・秋まきは、直播きになる。[17]栽培適温は25 - 28度とされ[15]、10度以下の低温に弱い。キュウリは、ウリ科の植物どうしの連作にも弱く、2 - 3年ほどウリ科の野菜を育てていない畑で作付けする[15]。8月ごろまでの成長期は、つるが伸びてきたら5節から下の親つるのわき芽と花は摘み取るようにして、子つるや孫つるも伸びて花が咲き始めたら先端部の葉を残すようにして摘芯する[18]。肥料が不足すると草勢が衰えて花が落ちてしまうため、定期的に追肥と水やりを行う注意が必要になる[7]。水切れを起こすと、花が咲く前に落ちてしまったり、果実が曲がってしまうことがある[7]。6 - 9月は盛んに実をつけるようになり、株を衰えさせないためにも長さ20 cmほどになったら早めに収穫する[18]。収穫根が浅いため乾燥に弱く、高温乾燥が続くとあっという間にうどん粉病などの病気にかかり枯れる。キュウリには低温や日照不足が続くと病気や根腐れを起こしやすい弱点があり、それを改善するために苗は耐病性のあるカボチャ台木にして接ぎ木をする[19]

日本では収穫作業が一日に2 - 3回行われる(これには、日本市場のキュウリの規格が小果であることも影響している)。夏は露地栽培、秋から初春にかけては、ハウスでの栽培がメインとなり、気温によっては暖房を入れて栽培することもある。

病虫害編集

ウリハムシはキュウリの葉をリング状に食い荒らしてしまう害虫である[7]。ミナミキイロアザミウマの媒介するウイルスで「キュウリ黄化えそ病」にかかり株が枯れ、収量が減る被害が報告されている[20]岐阜県農業技術センターにより赤色の防虫ネットを導入した予防策の研究開発が進められている[20]。窒素肥料が多いとうどんこ病に、水はけが悪くて肥料が不足しているとベと病にかかりやすく、感染を広げないためには痛んだ葉を早めに取り除く[7]

日本における出荷量編集

日本の主産地は、埼玉県群馬県福島県千葉県などで、時期別では夏秋キュウリ(7 - 9月)は岩手県・福島県、冬春キュウリ(1 - 6月)が千葉県・茨城県高知県宮崎県が多く、夏秋と冬春ともに多く産出するのは埼玉県・群馬県である[11]。年間を通すと、南から北の地域へと出荷最盛期は移動しており、流通量も旬の7 - 8月がピークになる[11]。漬物用の塩蔵キュウリは、中国ベトナムなどから大量に輸入している[11]

品種編集

非常に種類が多く、世界中で500もの品種が栽培されている。現在、商業目的で栽培される品種の多くはF1(えふわん)と呼ばれる一代雑種品種である。分類方は幾つかあり、イボの色から中国北部から入った華北系といわれる「白イボ系」と、中国南部から入った華南系といわれる「黒イボ系」に大別される[21][10]。日本では白イボ系は最もよく流通している品種で[10]、全体が緑色で皮が薄く、歯切れ良い[21]。黒イボ系は皮がかたく、苦味があるため流通量は少ない[21]

 
色々な品種のキュウリ
白イボ系
流通の90%以上を占め、緑色が鮮やかで皮が薄く、果肉の歯切れもよいうえ[22]、キュウリ特有の匂いもほどよい[21]。露地栽培、促成栽培、温室栽培が日本全国で行われ、一年を通して出回っている[22]。華北系キュウリともいわれ、雌花は節に飛び飛びにつき、親づるよりも小づる、孫づるに花を多く咲かせる性質がある[8]。高温期でも花をよく咲かせるが、低温期は生長が悪いため栽培法は「夏きゅうり」に向いている[8]
黒イボ系
春に収穫するタイプで以前は南西日本で多く栽培されていたが、皮が厚く、白イボ系の真夏の旬の味に劣るため、現在では九州、四国、山形でわずかに作られているだけである。華南系キュウリともいわれ、親づるの葉の付け根の節ごとに、雌花がつく性質がある[8]。日照時間が長く高温下環境になると雌花がつかず、雄花ばかりになる傾向があり、栽培法は「春きゅうり」に向いている[8]
四葉胡瓜(すうようキュウリ)
中国北部・中部の品種[22]。本葉が四枚付いた頃から実がなるのでこの名がある。白イボ系キュウリで普通のキュウリよりも長めになる品種で、イボと皺が多いのが特徴[23]。長さ30 cmほどで収穫される[5]。見た目が悪い上に鮮度落ちが早いが、皮はやわらかくて歯切れが良く[23]、漬物にもむく。
四川胡瓜(しせんキュウリ)
四葉胡瓜の改良品種[23]。大きさは普通の白イボ胡瓜と同じぐらいである。果肉はかためで、皮はやわらかく、表面のイボが鋭くてしわが多い[21]。漬物に向いている[23]
ロシアキュウリ
ヨーロッパで多く栽培されている品種。果実は長さ10 cm前後で、太い。皮がややかたく、果肉は締まっている[22]
マーケット・モア
北米のアメリカやカナダではポピュラーで露地栽培されている品種。日本でも千葉県など一部地域でハウス栽培され、少量が流通している[22]
コルニション
ヨーロッパ種の小型のキュウリ。日本には酢漬けのピクルスにして輸入されている[11]

日本特産品種編集

勘次郎胡瓜(かんじろうきゅうり)
山形県最上郡真室川町真室川の伝承野菜のひとつ。明治初期頃、真室川町の谷地の沢地区の姉崎勘次郎家に隣の鮭川村から来た嫁が携えてきたのが始まりで、姉崎家によって現代まで細々と守られてきた。全国的にも珍しい黒イボ系の胡瓜で、本来の黒イボ系のような特徴は少なく、果肉は柔らかく、キュウリ特有の青臭さやえぐみなどがほとんど無いため、フルーツ感覚で食べることが出来る。町の洋菓子店「平和堂」では、スイーツとして活用されているほか、勘次郎胡瓜のコンポートなどが発売されている。
馬込半白胡瓜(まごめはんじろきゅうり)
東京都大田区の伝統野菜。華北系の白イボ系キュウリのひとつで、明治時代に節成胡瓜を改良した品種で、長めの実でしわが寄っているのが特徴[23]。色は大部分が白っぽく、元の一部のみが緑色である。皮はやわらかくて、果肉は固めで歯ごたえがよい[23]。傷みやすく流通に向かないため、現在はほとんど栽培されていない。
相模半白胡瓜(さがみはんじろきゅうり)
黒イボ系キュウリのひとつで、皮がかたく、首の方は緑色が濃くて先端の方が白っぽい半白系[23]。昭和初期に馬込半白胡瓜が神奈川県二宮町において改良された品種で、馬込半白胡瓜よりも日持ちがよい。節成り性が強く、支柱栽培に適しており、気温が低い時期に雌花がつきやすいので早生栽培に適している[24]。現在はほとんど栽培されていない。
高井戸節成胡瓜(たかいどふしなりきゅうり)
東京都杉並区伝統野菜。馬込半白胡瓜と練馬の枝成胡瓜の交配から生まれた固定種。現在はほとんど栽培されていない。
落合節成胡瓜(おちあいふしなりきゅうり)
埼玉県の伝統野菜。大正時代与野町下落合において青節成胡瓜と地域の在来種針ヶ谷胡瓜の交配から生まれた品種で、強健で低温に強い。現在ではほとんど栽培されていないが、交配親としても使われ、現行品種の多くがこの品種の血を引いている。
加賀太胡瓜(かがふときゅうり)
石川県の伝統野菜(加賀野菜)。果実は長さ20 - 25 cm、直径6 - 7 cmと大型で[21]、重さが1 kgを超えるものも珍しくない。皮は固いが果肉は軟らかく[23]、他の品種よりもビタミンB2を多く含む。基本は皮をむいて使用し、炒め物、煮物料理に向いている[21]
聖護院胡瓜(しょうごいんきゅうり)
江戸時代から伝わる京都市の伝統野菜。実は濃緑色で三角形の断面となるのが特徴で、明治時代には左京区聖護院を中心に栽培されていたが、絶滅した。
毛馬胡瓜(けまきゅうり)
大阪府の特産種で、長さ30 cm以上、太さ3 cmほどの長い実ができる[25]。半白系の黒イボ系キュウリで、元は緑で先の3分の2ほどは白っぽくなる。歯ごたえがよいのが特徴[23]江戸時代摂津国毛馬村(現・大阪市都島区毛馬町)が発祥の地とされる[25]。「浪華漬」と呼ばれる粕漬けの原料として周辺地域でも栽培されるようになったが、収率が悪いため廃れ、現在は、南河内郡河南町を中心に伝統野菜なにわ野菜)として栽培されているにとどまる。
大和三尺胡瓜(やまとさんじゃくきゅうり)
奈良県特産の品種で、実は長さ30 - 40 cm[25]、最大で90 cm程にもなるので、この名がある。鮮やかな緑色で皮がやわらかく、果肉は緻密で、奈良漬けにも加工される[25]
佐久古太きゅうり(さくこだいきゅうり)
長野県佐久市志賀地区春日地区において、少なくとも昭和20年代から栽培されている品種(信州の伝統野菜)。果実はずんぐりむっくりとした形をしており、長さは13センチメートル程度。熟すにつれ白から茶褐色に変色することから、シベリア系の品種と推定されている[26]
モーウィ(毛瓜)
沖縄で栽培されている黒イボ系キュウリで[24]、太くてイボがなく、果実の皮が淡褐色になる品種[23]。果実の長さは30 cmで、重さは500グラムほどになる[27]。果肉は白くて青臭さはなく、味は淡泊で、サラダ・漬物・酢の物で食される[23]沖縄料理で有名なのは豚肉と一緒に煮込むモーウィウブサーに使われる[27]

その他の分類法編集

蔓の伸び方による分類
日本での経済栽培はネットに伝わせるか紐で吊り下げて行われるので、蔓が自然に上に向かって伸びる品種が使われる。蔓が上に向かって伸びない品種は頻繁に誘引するか、ネットを使わずに「地這い栽培」する。家庭菜園では省力栽培できる地這い品種が使われる事も多い。
着果習性による分類
親蔓の各節に雌花が付くタイプを「節成り」または「親蔓タイプ」などとよぶ。親蔓には殆ど付かず子蔓や孫蔓に多く雌花が付く品種を「子蔓・孫蔓タイプ」などとよぶ。また、この中間型のものは「飛び節」とよ:ぶ。ただし、着果習性は少数の遺伝子で決まるわけではなく日長・気温・日照・肥料・株の老若などの影響も受ける。一般には短日・低温で節成り性が強くなる。
系統による分類
華南型・華北型・イギリス温室型(高温に弱い)・スライスキュウリ型・ピクルス型など主に5系統に分類される。

食材編集

 
かっぱ巻き
 
キュウリとカブ糠漬け

成長途中のやわらかい未熟果を食用にする。表面は緑色であるが、果肉は白いので淡色野菜に分類される[28]。調理をしなくても、そのまま食べることができる長所や、1回の摂取量が多くとれる特徴から、重用されている野菜のひとつである[28]

生のまま味噌もろみをつけてかじったり、サラダ寿司(かっぱ巻き)、酢の物和え物塩揉みなどで食べたりするほか、かっぱ漬け、奈良漬けぬか漬けわさび漬けピクルスオイキムチなどの漬物の材料として使われる。日本の料理で加熱調理されることは少ない[注釈 1]が、中華料理では煮物や炒め物としても利用される。トルコ料理のシャジュク、スペイン料理のガスパチョなど、スープにして食することも多い。イギリスアフタヌーン・ティーにはキュウリサンドイッチが欠かせない。

最近では、キュウリの表面に出るブルーム(白い物質)が、農薬のように見えるとの誤解から見栄えが悪いとして嫌がられ、表面が緑色でつやがあるブルームレスキュウリが多く作られている[10][11]。しかし、ブルームの無いブルームレスキュウリは通常のキュウリと比べ皮が厚くて日持ちもするが、味や香りはブルームつきキュウリのほうが勝る[10]。ブルームのあるキュウリは歯切れがよく、種子の粒が小さい特徴があり、生食のほか漬物にも向くことや、その食味が見直されている[11]

採れたばかりのキュウリはイボが尖っており、流通の段階でイボが次第にとれてしまうためキュウリの鮮度を見分けるための目安にすることもできる[10]。イボの部分に雑菌などがつきやすくなる恐れがあるため、近年ではイボの無い品種も開発されている[11]

長さ10 - 12 cmほどの実が若いうちに収穫した小型のキュウリを通称「もろきゅう」(「もろみキュウリ」の略称)と言い、主にもろみをつけて生で食べる[21]。さらに未熟で花の付いた物は「花丸キュウリ」と呼び、料理のつまなどに使われる[21][11]。ただし、地域によって呼び方や規格が異なることがある。品種改良によって苦味を取り除いたキュウリも登場している。

調理法編集

キュウリの調理の下ごしらえの際には、表面を滑らかにして色を鮮やかにするため、を振ったまな板の上で転がすようにして塩を擦りこむ板摺り(いたずり)と呼ばれる調理法が用いられることも多い[29]。水分が多く、味がなじみにくい食材であることから、和え物やサラダなどにキュウリを使うときは、まな板の上で麺棒などでたたいて表面を粗く割って、断面積を多くして味をなじみやすくする[21]

酢の物、和え物、漬物、サラダ、ピクルスなどの料理や、炒め物の具材に利用される。品種によっては、肉詰めや煮込み料理にも向いている。

ビタミンC酸化させる酵素アスコルビナーゼ)が含まれているため、生で食べるときはその働きを抑制するためが有効だといわれている[30]。また、加熱調理することによって、アスコルビナーゼの酵素の活性が抑えられる[31]

保存編集

キュウリは水分が多いことから冷やしすぎると傷みやすいが、冷蔵庫内であれば口を閉じずにポリ袋に入れて乾燥を防ぎ、ふつう2 - 3日程度は保存が利く[21][10]。涼しい場所であれば室温でも保存できる[21]。5度以下の低温にすると痛んで溶けやすい[10]

漬物は保存が利く調理法で、オイキムチピクルスにすると3 - 4日ほど持つ[32]。塩漬けにすれば長期保存も可能で、樽容器に分量の3割ほどの塩で隙間なくキュウリを並べて重しを載せて漬け込み、涼しい場所で保管すれば半年から1年ほど持つ[32]

栄養素編集

きゅうり 果実 生[33]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 59 kJ (14 kcal)
3.0 g
デンプン 正確性注意 2.0 g
食物繊維 1.1 g
0.1 g
飽和脂肪酸 0.01 g
多価不飽和 0.01 g
1.0 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(4%)
28 µg
(3%)
330 µg
チアミン (B1)
(3%)
0.03 mg
リボフラビン (B2)
(3%)
0.03 mg
ナイアシン (B3)
(1%)
0.2 mg
パントテン酸 (B5)
(7%)
0.33 mg
ビタミンB6
(4%)
0.05 mg
葉酸 (B9)
(6%)
25 µg
ビタミンC
(17%)
14 mg
ビタミンE
(2%)
0.3 mg
ビタミンK
(32%)
34 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
1 mg
カリウム
(4%)
200 mg
カルシウム
(3%)
26 mg
マグネシウム
(4%)
15 mg
リン
(5%)
36 mg
鉄分
(2%)
0.3 mg
亜鉛
(2%)
0.2 mg
(6%)
0.11 mg
セレン
(1%)
1 µg
他の成分
水分 95.4 g
水溶性食物繊維 0.2 g
不溶性食物繊維 0.9 g
ビオチン(B7 1.4 µg
有機酸 0.3 g

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[34]。廃棄部位: 両端
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標RDIの割合。

キュウリは全体の約95%が水分で構成されており[10]、100グラム (g) [注釈 2]あたりの熱量が14 kcal(59 kJ)と非常に低いため、ギネスブックにおいても「Least calorific fruit」の登録名で認定されている[36]。栄養素は比率で炭水化物3.0 gが最も多く、たんぱく質1.0 g、灰分0.5 g、脂質0.1 gと続く[28]。他方、ビタミン、各種ミネラルなどの栄養素においてもビタミンK(100gあたり34µg)や(100gあたり0.11mg)、モリブデン(100gあたり4µg)を除けば100gあたりの含有量は一食分の摂取目安量の13 - 110程度と、低い数値に収まっている[37]

キュウリは先述した通り水分が質量の多くを占めるため、「栄養素がほとんどない野菜」と評価されがちであるが、もともと他の野菜も水分量は90%ほどあるため、キュウリだけが特別水分が多いわけではない[28]。淡色野菜の割には、ビタミンCカリウムカルシウムなどのミネラル類、皮にはβカロテンを比較的豊富に含んでおり[30][10]、その他のビタミンやミネラル類も量的には多くないがバランスよく含んでいる[28]。一年中食べることができる野菜であるが、野菜としてのは夏で、冬場のものよりカロテンやビタミンCなどは多く含有している[28]

しばしば、キュウリを食べると酵素によってビタミンCが破壊されるという記述もみられるが、実際には酵素作用によって還元型ビタミンCから酸化型ビタミンCに変異されるだけである[28]。一方で、酸化型に変わったビタミンCでも体内で還元型に戻るという可逆的性質を持っているため、今日では生理作用も還元型と同等であるとされている。キュウリを食することでビタミンCが破壊されると言われた理由として、過去にはビタミンCは還元型だけに生理作用があると考えられており、酵素によって酸化型に変化したビタミンCには生理作用はないものと考えられていたことがあげられる。そのため酸化型ビタミンCはビタミンCとしてカウントされておらず、ビタミンC量が減少したように見えたという背景がある。酸化型ビタミンCであっても、ヒトの体内で還元型ビタミンCとほぼ同等の働きをするというのが学術的には正しい評価であり[28]、現在では還元型と酸化型を合わせた総ビタミンC量を記述することが一般的である。

かつて、キュウリはデザイナーフーズ計画のピラミッドで3群に属していた。3群の中でも、ハッカオレガノタイムアサツキと共に3群の中位で、予防効果のある食材であると位置づけられていた[38]

ダイエット向きな食材として、特に食事の最初に摂るよう推奨する本もある。水分が多く低カロリーな割には食べ応えがあるため早く満腹感が得やすいことや、キュウリに含まれる酵素ホスホリパーゼ脂肪分解作用があることが理由に挙げられている[39]

薬効編集

ウリ科植物がもつ独特の苦味成分ククルビタシンを含み、茎葉を飲食すれば吐き気を起こすので吐剤として用いられている[40]。ただし、現在は品種改良が行われた結果、果実に苦味はないが、かつては果実にも苦味があった[40]。果実に含まれるカリウムイソクエルシトリンには利尿作用があり、体内に蓄積されたナトリウムの排泄を促して、血圧上昇を抑制する効果が期待されている[40][30]

9月ころに茎葉を刈り取って細かく刻み、または果実を輪切りにして日干ししたものを生薬とし、果実を黄瓜(おうか)、葉を黄瓜葉(おうかよう)、茎は黄瓜藤(おうかとう)、全体としては胡瓜(こか)と称して薬用にする[41][4]東洋医学では利尿効果があり、身体の熱をとって暑気あたりを改善するなど、珍重されてきた[30]

民間療法では、熱を吸収する性質があり、身体のほてり解消に役立つとされている[30]食あたりのときに乾燥した茎葉1日量10グラムを水600 ccで半量になるまでとろ火で煮詰めた煎じ液(水性エキス)を飲用すると、催吐剤として作用しての内容物を吐き出させて楽にする[40]。べとつきがある下痢には、同様に茎葉5グラムを煎じて服用する[4]。患部に熱があるむくみや、のどの痛みがある時は、乾燥させた胡瓜10グラムを1日量として、水600 ccで煎じた汁を食間3回に分けて服用すると、利尿作用によりむくみ軽減に役立つといわれている[40][4]。ただし、患部が冷えている人への服用は使用禁忌とされている[4]。また、冷やした生の果実を薄く輪切りにしたものを、軽いやけどの患部に貼って、たびたび張り替えて冷湿布として利用する方法や[4]、暑気あたりに足の裏に貼っておくとよいともいわれている[40]

民俗編集

  • 家紋の「木瓜紋」は、胡瓜の切り口を図案化したものとの説もある。 江戸時代は、輪切りにすると徳川家の家紋である三つ葉葵に似ているところから、それを食べるのは不敬であるとして、キュウリを輪切りにされることは慎まれていた。
  • 祇園信仰において、スサノオ牛頭天王)を祭神とする八坂神社神紋が木瓜であり、キュウリの切り口と似ていることから、祭礼の期間はキュウリを食べないという地方(博多博多祇園山笠など)もある。八坂神社がある福井市網戸瀬町ではキュウリ栽培を行なわない[42]。毎年7月14日にはキュウリ祭りが行なわれ、この日は食べることも禁じられる[42]
  • キュウリは河童の大好物だとされ、キュウリの異称となっている(かっぱ巻き、かっぱ漬け)。
  • キュウリウオという名の魚がある。キュウリのような匂いがすることからこの名がついた。

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ 富山県など北陸地方ではキュウリを味噌汁の具にすることもある。
  2. ^ 新潟県出荷規格Sサイズ1本分相当[35]

出典編集

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cucumis sativus L.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年6月28日閲覧。
  2. ^ 農林水産省/野菜の魅力(2018年8月7日閲覧)。
  3. ^ a b c d 田中孝治 1995, p. 174.
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参考文献編集

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、71 - 73頁。ISBN 978-4-415-30997-2
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、184頁。ISBN 4-09-208016-6
  • 学研・たまねぎ舎編『何つくる? 迷ったらこの1冊! こだわり野菜づくり 品種ガイドブック 夏野菜編133品種』学研パブリッシング〈野菜だより特別編集〉、2015年3月28日、61 - 74頁。ISBN 978-4-05-610788-3
  • 講談社編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、95 - 99頁。ISBN 978-4-06-218342-0
  • 主婦の友社編『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、76 - 81頁。ISBN 978-4-07-273608-1
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、174 - 175頁。ISBN 4-06-195372-9
  • バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント編、山本紀夫訳『世界の食用植物文化図鑑』柊風舎、195頁。ISBN 978-4-903530-35-2

関連項目編集

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