カシワ
カシワ(柏[5]、槲[6]、檞、学名: Quercus dentata)は、ブナ目ブナ科の落葉中高木。日本・朝鮮半島・中国の東アジア地域に分布しており、痩せ地でも生育し、海岸で群落になっているところもある。葉は、かつて料理を盛るために使われ、端午の節句の柏餅を包む葉としても知られる。冬でも葉が落葉せずに枝に残ることから、日本では神が宿る縁起木とされている。
カシワ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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カシワの葉と樹皮(東京都・2006年5月)
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分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Quercus dentata Thunb. (1784)[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カシワ(柏)、 ホソバガシワ[1]、 タチガシワ[1]、 オオガシワ[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Daimyo Oak |
名称 編集
和名カシワの語源は主に3つの説があり、(1) 炊事に使う葉という意味で、食べ物を盛り付けたり、あるいは蒸したりするときに食べ物を包むのに使われた葉のことを炊葉(かしきは)、あるいは炊く葉(かしぐは)といったことからという説[7][6][5][8]。(2) 葉がかたいことから、堅し葉(かたしは)の意味からとする説[7]。(3) 葉に食事を盛ることから、食敷葉(くしきは)の意味からという説[7]がいわれている。別名では、ホソバガシワ[1]、タチガシワ[1]、オオガシワ[1]、カシワギ[9]などともよばれる。
英語では Japanese Emperor Oak(ジャパニーズ・エンペラー・オーク)、Kashiwa Oak(カシワオーク)、Daimyo oak(デミオーク)、フランス語で chêne de Daimyo(シェン・ド・デミオ)などと称する。日本のカシワは、中国名では「槲樹」[1]や「櫟」[7]になる。ただし、日本における「櫟」の漢字名は、クヌギ、あるいはイチイにあてられている[7]。
日本では漢字で「柏」と書くことが多いが、中国における「柏」は、ヒノキの仲間の針葉樹を意味し、ヒノキ科ビャクシン類、ネズコ類などにあてられており[7]、コノテガシワ、シダレイトスギ、イブキ、サワラ、アスナロなどの針葉樹の総称である[5]。戦前の植物学では、イチイ科からヒノキ科までの針葉樹は「松柏綱」とよんでおり、「松柏類」は針葉樹のマツ類と広葉樹のカシワ類という意味ではない[5]。現代中国語ではヒノキ科を柏科という。漢詩などでは、「柏」が常緑樹であることから、変わらないことの比喩に使われる。このほかカシワは、槲、枹、柞などの漢字も使われており、柞はハハソ、ホウソを意味する[7]。
分布・生育地 編集
日本の北海道・本州・四国・九州および、南千島、朝鮮半島、中国のアジア北東部と中央アジアに分布する[10][5]。山地や山野、海岸近くに生える[10][6][11]。痩せた土地や乾燥地でも生育することから[5]、火山灰地や海岸などに群落や大樹が見られることが多く、日本では特に北海道の羊蹄山や樽前山の山麓、苫小牧周辺、勇払原野、十勝岳から十勝平野の一帯、根釧台地などがその分布域で知られる[12]。
形態・生態 編集
落葉広葉樹の高木で、樹高は10 - 15メートル (m) ほどになる[6][5]。樹皮は黒褐色で、不規則に縦方向の裂け目が入り、深い割れ目もできる[6][11]。一年枝は太くて稜があり、褐色で毛があり、皮目が目立つ[11]。
葉は短い葉柄がついて枝先に集まって互生し[5]、長さ10 - 30センチメートル (cm) の倒卵形から広卵形で大きく、葉縁に沿って波状の大きな鋸歯がある[10][6]。新葉には軟らかい毛が密生する[5]。秋になると黄葉し、黄褐色や赤褐色に色づく[9]。黄葉が終わった後、枯れた葉は褐色に変わり、その多くは春まで枝についたまま新芽が出るまで落葉せずに残っている[6][5][8]。
花期は晩春から初夏(5 - 6月ごろ)で[10][5]、葉が開くと同時に花をつける[9]。雌雄同株[13]。雄花序は新枝の下部から垂れ下がる[6]。雌花序は上部の葉腋につく[6]。
果期は10 - 11月で[5]、ドングリはクヌギに似た卵球形で、長さ15 - 20ミリメートル (mm) [6]。下部は殻斗に包まれ、先が尖って反り返る総苞片が密生する[6]。
冬芽は枝に互生してらせん状につき、卵形で褐色をした多数の芽鱗に包まれており、毛が生えている[11]。枝先には冬芽が複数つく[11]。葉痕は突き出した半円形や三角形で、維管束痕が多数見られる[11]。
ミズナラとは近縁で、形態や伐採しても萌芽する性質がよく似ていて、さらに中間的雑種も少なからず見られるが、葉の鋸歯が丸みを帯びた波状である点や、果実の殻斗に毛状の鱗片が密生している点でミズナラと区別される[14]。
- カシワの画像
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新芽
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若葉
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雄花
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雌花
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カシワの実
利用 編集
日本の海岸線の防風林には一般的にクロマツが用いられるが、北海道の道北や道東など寒冷でクロマツが育たない地域では、防風林を構成する樹種としてカラマツとともにカシワが海岸林に採用されるところが多い[5]。カシワは落葉樹であるが、秋に葉が枯れても翌年の春に新芽が芽吹くまで葉が落ちることがなく残っており、塩害で枝枯れを起こしても、木は枯れずにむしろ枝が混み合うようになるため、防風効果は高くなる[5]。また、枯れ葉が春先まで落葉せずに残こる特性は縁起が良いとされ、庭木にも利用される[10][9]。
北海道の銭函大浜から厚田にかけての石狩砂丘には、世界的な規模のカシワによる天然の海岸林がある[15]。
カシワの葉は、食べ物を盛ったり、よく知られるのは端午の節句に欠かせない小豆餡入りの餅を包んだ柏餅を包むために使われる[5][16]。カシワの葉の抗菌物質としてオイゲノールが知られている[16]。
材は堅い優良材で、造船材や建材・内装材・家具材として使われ、木炭などにも使われる[14][5]。黒褐色の樹皮は建材のほか、酒樽やシイタケ栽培の原木に利用するほか、タンニン(渋)をとったり[14][10]、染料に用いられる[6]。
文化 編集
冬でも葉が落葉せずに枝に残っているため、そこに神が宿る木と考えられ、神聖な木とされている[5]。この点も、食物を盛るために敷く葉として、神事としての食事にふさわしいものと考えられた[17]。 葉には芳香があり、さらに翌年に新芽が出るまで古い葉が落ちない特性から「代が途切れない」縁起物とされ[5]、柏餅を包むのに用いられたり、家紋や神紋をはじめとして多用されている。
日本の柏餅のように中国や朝鮮でもカシワの葉を使って餅を包む風習があるといい、餅をカシワの葉で包む文化は、元は中国のものが朝鮮半島経由で日本にもたらされたという説もある[12]。
北海道のアイヌ民族は、カシワを森の神として崇拝の対象にしており、コム・ニ・フチ(カシワの木の婆様)、あるいはシリコル・カムイ(山を所有する・神)として崇めている[14]。
カシワにまつわる言葉 編集
名古屋市以西では鶏肉のことを「カシワ」とよぶが、これは地鶏の羽色が柏の葉の紅葉の色に似ていることからこうよばれる[9]。
ドイツの勲章の意匠を「柏葉」というときは「ヨーロッパナラ(欧州楢)」を指す。
自治体指定の木 編集
種内変異 編集
脚注 編集
- ^ a b c d e f g h 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus dentata Thunb. カシワ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus dentata Thunb. f. angustifolia (T.Ito) Hayashi カシワ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus dentata Thunb. f. grandifolia (Koidz.) Kitag. カシワ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus dentata Thunb. f. erectisquamosa (Nakai) Hayashi カシワ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 田中潔 2011, p. 93.
- ^ a b c d e f g h i j k l 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 101.
- ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 116.
- ^ a b 亀田龍吉 2014, p. 81.
- ^ a b c d e 亀田龍吉 2014, p. 80.
- ^ a b c d e f 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 230.
- ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 144.
- ^ a b 辻井達一 1995, p. 118.
- ^ “庄内海岸の国有林”. 林野庁東北森林管理局庄内森林管理署. p. 51. 2022年4月25日閲覧。
- ^ a b c d 辻井達一 1995, p. 119.
- ^ “モバイル道庁 道内観光情報・花・赤れんが庁舎前庭の植物・カシワ”. 北海道庁. 2016年11月25日閲覧。
- ^ a b “アサマNEWSパートナーNo.199 (38)餅菓子の文化と微生物”. アサマ化成. 2022年11月30日閲覧。
- ^ 辻井達一 1995, p. 117.
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus dentata Thunb. f. pinnatiloba (Makino) Kitam. et T.Horik. ホウオウガシワ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus x angustilepidota Nakai カシワコナラ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus x nipponica Koidz. ホソバガシワ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Quercus x takatorensis Makino コガシワ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年1月30日閲覧。
参考文献 編集
- 亀田龍吉『落ち葉の呼び名事典』世界文化社、2014年10月5日、80 - 81頁。ISBN 978-4-418-14424-2。
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、144頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、93頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
- 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、116 - 119頁。ISBN 4-12-101238-0。
- 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂 フィールドベスト図鑑5〉、2009年8月4日、101頁。ISBN 978-4-05-403844-8。
- 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、230頁。ISBN 4-522-21557-6。