2016年リオデジャネイロオリンピックの柔道競技

2016年リオデジャネイロオリンピックの柔道競技[1](2016ねんリオデジャネイロオリンピックのじゅうどうきょうぎ)は、2016年8月6日から12日までアレーナ・カリオカ2ポルトガル語版英語版で開催された2016年リオデジャネイロオリンピック柔道国際柔道連盟(IJF)管轄。

リオデジャネイロオリンピック柔道女子78 kg級決勝戦でオドレー・チュメオフランス)に腕挫十字固で勝利したケイラ・ハリソン(白柔道着、アメリカ)

オリンピック出場資格 編集

前回と同じ、男女7階級ずつが実施される。1つのNOCからは1種目につき1名のみ出場させることができるため、最大14名の選手を派遣することができる。出場選手は2016年12月31日時点において15歳以上で、段位を有していることを要する。

世界ランキングによる選出 編集

  • 2016年5月30日付けの世界ランキングにおいて、男子は22位以内、女子は14位以内に位置している選手が直接選出される(男子22名×7階級=154名、女子14名×7階級=98名、計252名)。
  • 男子は上位22位、女子は上位14位以内に1つのNOCから2名以上の選手が入っている場合、そのうちの誰を代表に選出するかはNOCが決定する。
  • 1つのNOCから複数の選手が上位(男子:22位以内、女子:14位以内)に入っている場合、男子は22名、女子は14名に達するまで、順次繰り下げて選出して行く(例えば、男子の22位以内に5カ国からそれぞれ2名の選手がランクインしている場合、27位までが選出の対象となる)。

大陸枠による選出 編集

  • 続いて大陸枠により、100名(アフリカ:男子14、女子10、ヨーロッパ:男子14、女子11、アジア:男子12、女子8、オセアニア:男子7、女子3、アメリカ大陸:男子13、女子8)の出場選手が選出される。
  • 各大陸連盟がすでに直接選出された252名を除く男女全階級を統合したランキングリストを高得点順に作成し、そのうちの上位選手から順に選出していく。但し、大陸枠で選出されるのはNOCにつき、男女全階級を通じて1名に限られる。さらに同一階級において同じ大陸連盟所属の選手が選出されるのは最大2名までとなる。

その他の出場枠 編集

  • 開催国に男女全階級の出場権を与える(14名)。
  • ワイルドカードとして20カ国に出場資格を付与する(20名)。
  • 以上の計386名がオリンピック出場資格を得る。
出場資格を得る選手[2][3]
選出形態 男子 女子  総計
世界ランキングによる選出 154 98 252
大陸枠による選出 60 40 100
開催国による選出 7 7 14
ワイルカードによる選出 20
総計 221+@ 145+@ 386

競技日程 編集

時間はブラジル時間UTC-3)。

  • 8月6日:男子60 kg級、女子48 kg級
  • 8月7日:男子66 kg級、女子52 kg級
  • 8月8日:男子73 kg級、女子57 kg級
  • 8月9日:男子81 kg級、女子63 kg級
  • 8月10日:男子90 kg級、女子70 kg級
  • 8月11日:男子100 kg級、女子78 kg級
  • 8月12日:男子100 kg超級、女子78 kg超級

競技結果 編集

男子 編集

種目
60 kg級   ベスラン・ムドラノフ
ロシア (RUS)
  エルドス・スメトフ
カザフスタン (KAZ)
  髙藤直寿
日本 (JPN)
  ディヨルベク・ウロズボエフ
ウズベキスタン (UZB)
66 kg級   ファビオ・バシレ
イタリア (ITA)
  アン・バウル
韓国 (KOR)
  海老沼匡
日本 (JPN)
  リショド・ソビロフ
ウズベキスタン (UZB)
73 kg級   大野将平
日本 (JPN)
  ルスタム・オルジョフ
アゼルバイジャン (AZE)
  ラシャ・シャフダトゥアシビリ
ジョージア (GEO)
  ディルク・バンティヘルト
ベルギー (BEL)
81 kg級   ハサン・ハルムルザエフ
ロシア (RUS)
  トラヴィス・スティーブンス
アメリカ合衆国 (USA)
  セルジュ・トマ
アラブ首長国連邦 (UAE)
  永瀬貴規
日本 (JPN)
90 kg級   ベイカー茉秋
日本 (JPN)
  ヴァルラーム・リパルテリアニ
ジョージア (GEO)
  程訓釗
中国 (CHN)
  郭同韓
韓国 (KOR)
100 kg級   ルカシュ・クルパレク
チェコ (CZE)
  エルマール・ガシモフ
アゼルバイジャン (AZE)
  羽賀龍之介
日本 (JPN)
  シリル・マレ
フランス (FRA)
100 kg超級   テディ・リネール
フランス (FRA)
  原沢久喜
日本 (JPN)
  オル・サッソン
イスラエル (ISR)
  ラファエル・シルバ
ブラジル (BRA)

女子 編集

種目
48 kg級   パウラ・パレト
アルゼンチン (ARG)
  鄭普涇
韓国 (KOR)
  近藤亜美
日本 (JPN)
  オトゴンツェツェグ・ガルバドラフ
カザフスタン (KAZ)
52 kg級   マイリンダ・ケルメンディ
コソボ (KOS)
  オデッテ・ジュフリーダ
イタリア (ITA)
  中村美里
日本 (JPN)
  ナタリア・クジュティナ
ロシア (RUS)
57 kg級   ラファエラ・シルバ
ブラジル (BRA)
  ドルジスレン・スミヤ
モンゴル (MGL)
  松本薫
日本 (JPN)
  テルマ・モンテイロ
ポルトガル (POR)
63 kg級   ティナ・トルステニャク
スロベニア (SLO)
  クラリス・アグベニュー
フランス (FRA)
  ヤーデン・ジェルビ
イスラエル (ISR)
  アニカ・ファンエムデン
オランダ (NED)
70 kg級   田知本遥
日本 (JPN)
  ジュリ・アルベアル
コロンビア (COL)
  ラウラ・ヴァルガス=コッホ
ドイツ (GER)
  サリー・コンウェイ
イギリス (GBR)
78 kg級   ケイラ・ハリソン
アメリカ合衆国 (USA)
  オドレー・チュメオ
フランス (FRA)
  マイラ・アギアル
ブラジル (BRA)
  アナマリ・ベレンシェク
スロベニア (SLO)
78 kg超級   エミリ・アンデオル
フランス (FRA)
  イダリス・オルティス
キューバ (CUB)
  山部佳苗
日本 (JPN)
  于頌
中国 (CHN)

国・地域別のメダル獲得数 編集

国・地域
1   日本 (JPN) 3 1 8 12
2   フランス (FRA) 2 2 1 5
3   ロシア (RUS) 2 0 1 3
4   イタリア (ITA) 1 1 0 2
5   アメリカ合衆国 (USA) 1 1 0 2
6   ブラジル (BRA)(開催国) 1 0 2 2
7   スロベニア (SLO) 1 0 1 2
8   アルゼンチン (ARG) 1 0 0 1
  チェコ (CZE) 1 0 0 1
  コソボ (KOS) 1 0 0 1
11   韓国 (KOR) 0 2 1 3
12   アゼルバイジャン (AZE) 0 2 0 2
13   ジョージア (GEO) 0 1 1 2
  カザフスタン (KAZ) 0 1 1 2
15   コロンビア (COL) 0 1 0 1
  キューバ (CUB) 0 1 0 1
  モンゴル (MGL) 0 1 0 1
18   中国 (CHN) 0 0 2 2
  イスラエル (ISR) 0 0 2 2
  ウズベキスタン (UZB) 0 0 2 2
21   ベルギー (BEL) 0 0 1 1
  イギリス (GBR) 0 0 1 1
  ドイツ (GER) 0 0 1 1
  オランダ (NED) 0 0 1 1
  ポルトガル (POR) 0 0 1 1
  アラブ首長国連邦 (UAE) 0 0 1 1
合計 14 14 28 56

概要 編集

  • 女子52 kg級に出場予定だったサウジアラビアのジョウド・ファーミイが今大会を欠場した。初戦を勝ち上がると2戦目でイスラエルのジリ・コーヘンと対戦することになるので、それを避けるために試合に出場しなかったのではないかとも指摘されている。しかし、サウジアラビアの公式筋はファーミイが事前の練習でケガをしたために欠場したのだと説明した[4]
  • 男子100 kg超級の初戦で今大会銅メダルを獲得したイスラエルのオル・サッソンがエジプトのイスラーム・エルシャハビに一本勝ちしたが、その直後にサッソンが握手を求めるとエルシャハビは後ずさりをしてこれを拒み、畳から降りようとした。しかし、審判に呼び戻されて一礼はした。エルシャハビは自国の強硬派やマスコミからイスラエルとの対戦を拒否するように盛んに圧力がかけられていたという。それでも本人の意思により試合には出場したものの、握手は拒むこととなった。IJFによれば、柔道の試合で礼をすることは義務だが、握手は各選手の任意であるとの見解を示しており、この件で処分を科すか決まっていないという。一方でIOCは、「五輪精神に反した行動で受け入れることはできない」として事実関係を調査した結果、オリンピックにおけるフェアプレーと友好精神に悖る行為だと認めて厳重注意処分とした。また、エジプトオリンピック委員会にも選手への適切な教育を求めることとなった。後に本人は次のような釈明を行った。「試合の棄権を求める声もあり、試合前から重圧があった。柔道のルールを守った上で、(イスラエルを敵視する)アラブ人やイスラム教徒の感情を尊重し、握手は拒むことを決めた」「相手選手は過去にエジプト選手に握手を拒まれたことがある。私が握手を拒むと分かっていて、あえて近づいてきた。世界が注目する中、問題を政治化したのは相手選手だ」[5][6][7][8]
  • 男子73 kg級の準決勝で大野将平巴投げで一本負けしたが銅メダルを獲得したベルギーのディルク・バンティヘルトは、試合後に浮かれ気分で練習パートナーとコパカバーナ海岸へ繰り出した。しかし、練習パートナーが強盗に携帯電話を奪われたので追いかけたところ、逆に強盗に顔面パンチを喰らった。当初、女の強盗に殴られたとの報道もなされたが、警察によれば殴ったのは間違いなく男の強盗だったという[9]
  • 男子81 kg級の2回戦でレバノンのナシフ・エリアスが、アルゼンチンのエマヌエル・ルセンティに反則の対象となる肘の極め方をしたとして反則負けを言い渡された。これに納得がいかないエリアスは怒り狂いながら喚き散らして礼もせずに畳を降りた。1時間後、IJFに促されて再び畳に上がると礼をして結果を受け入れた。試合後にエリアスは、「感情をコントロールできなかった。柔道家として恥ずかしい。全ての人に謝りたい」とコメントした[10]
  • コソボの選手としてオリンピックで初めてのメダルとなる金メダルを獲得した女子52 kg級のマイリンダ・ケルメンディが、2016年6月にフランス南部で合宿をしていた際にドーピング検査を拒否していたことが発覚した。しかし、この時は権限のない検査官からの打診だったため、ケルメンディのコーチがIJFに問い合わせたところ、応じる義務はないと助言されたことにより拒否したのだという。ドイツの選手もこの検査官に対して、これと同じ対応をした。その後に受けた検査では陰性だったこともあり、IJFはケルメンディ側に問題はなかったと結論付けた[11][12]
  • 女子57 kg級の決勝戦で地元ブラジルのラファエラ・シルバがモンゴルのドルジスレン・スミヤと対戦すると、開始1分過ぎにシルバがドルジスレンの支釣込足朽木倒のような形で切り返して技ありを取った。このポイントを守りきったシルバが優勝することとなったが、ポイントを取った場面ではシルバの腕がドルジスレンの脚にもろに触れていたために、帯から下に触れる行為を反則負けとする現行ルールに抵触する行為だとして、モンゴルのファンからIJFのFacebookに抗議や侮辱の声が渦巻くことになった。これに対してIJFは、シルバはポイントを取った際に標準的な組み方をしており、テクニカルアセスメントに記されている「取が両手でしっかりと組んで攻撃している場合、攻撃中に(取の腕が)受の脚に触れてもよい」に違反しておらず、シルバの攻撃に問題はなかったとの公式見解を示した[13][14]
  • 前回のロンドンオリンピックで金メダルが0だった日本男子チームが今大会2個の金メダルを獲得した。また、1988年のソウルオリンピックで7階級制度になってから初めてとなる全階級でのメダル獲得ともなった。女子は金1つを含めて5個のメダルを獲得しており、これにより柔道競技では史上最多となる12個のメダルを獲得することになった。この結果に対して強化委員長の山下泰裕は、「もっと金が欲しかったが、世界のレベルは上がっている。日本柔道は完全復活したと世界はみている」と語った[15]。一方、国ぐるみによる組織的ドーピングの発覚で一時はオリンピックへの出場禁止の可能性もあったロシアは、前回の3個には及ばなかったものの2個の金メダルを獲得した[16]。前回2個の金メダルを獲得した韓国は世界ランキング1位になったことのある選手が男子に4名もおり、自国では史上最強チームともみなされていたが、銀メダルと銅メダルの2個に終わった。女子は銀1個だったが、アトランタオリンピック以来20年ぶりに決勝進出を果たした[17]。また、今大会では男子100 kg超級でフランスのテディ・リネール、女子78 kg級でアメリカのケイラ・ハリソンがそれぞれオリンピック2連覇を達成した[18]

優勝者の世界ランキング 編集

男子 編集

60 kg級    ロシア ベスラン・ムドラノフ  16位
66 kg級    イタリア ファビオ・バシレ  29位
73 kg級    日本 大野将平  6位
81 kg級    ロシア ハサン・ハルムルザエフ  6位
90 kg級    日本 ベイカー茉秋  1位
100 kg級    チェコ ルカシュ・クルパレク 3位
100 kg超級    フランス テディ・リネール 1位

女子 編集

48 kg級    アルゼンチン パウラ・パレト 2位
52 kg級    コソボ マイリンダ・ケルメンディ  2位
57 kg級    ブラジル ラファエラ・シルバ  14位
63 kg級    スロベニア ティナ・トルステニャク 1位
70 kg級    日本 田知本遥 12位
78 kg級    アメリカ合衆国 ケイラ・ハリソン 1位
78 kg超級    フランス エミリ・アンデオル 5位

(出典[19]JudoInside.com)。

世界ランキング1位の成績 編集

男子 編集

60 kg級   韓国 金源鎮 7位
66 kg級   韓国 アン・バウル 銀メダル
73 kg級   韓国 安昌林 3回戦敗退1勝1敗
81 kg級   ジョージア アブタンディル・チリキシビリ 5位
90 kg級   日本 ベイカー茉秋 金メダル
100 kg級   アゼルバイジャン エルマール・ガシモフ 銀メダル
100 kg超級   フランス テディ・リネール 金メダル

女子 編集

48 kg級   モンゴル ムンフバット・ウランツェツェグ 5位
52 kg級   ルーマニア アンドレア・キトゥ 7位
57 kg級   モンゴル ドルジスレン・スミヤ 銀メダル
63 kg級   スロベニア ティナ・トルステニャク 金メダル
70 kg級   オランダ キム・ポリング 2回戦敗退
78 kg級   アメリカ合衆国 ケイラ・ハリソン 金メダル
78 kg超級   中国 于頌 銅メダル

(出典[19]JudoInside.com)。

その他の主な選手の成績 編集

男子 編集

66 kg級   ブラジル チャールズ・チバナ  初戦2回戦敗退

女子 編集

57 kg級   チャイニーズタイペイ 連珍羚 5位
63 kg級   日本 田代未来 5位
78 kg級   日本 梅木真美 2回戦敗退
78 kg級   北朝鮮 薛京 初戦2回戦敗退

(出典[19]JudoInside.com)。

脚注 編集

  1. ^ Judo | Rio 2016”. web.archive.org (2015年3月30日). 2020年10月25日閲覧。
  2. ^ 第31回オリンピック競技大会(2016/リオデジャネイロ)柔道競技 出場資格制度について | 全日本柔道連盟”. www.judo.or.jp. 2020年10月25日閲覧。
  3. ^ QUALIFICATION SYSTEM – GAMES OF THE XXXI OLYMPIAD – RIO 2016”. web.archive.org (2014年7月22日). 2020年10月25日閲覧。
  4. ^ Saudi judo competitor 'forfeits her first round match to avoid going up against an Israeli'
  5. ^ エジプト選手、イスラエル選手との握手拒否 IOC、事実関係調査へ
  6. ^ リオ五輪柔道、エジプト選手がイスラエル選手の握手拒む 会場からブーイング
  7. ^ 【五輪柔道】握手拒否のエジプト選手に厳重注意処分 IOC「フェアプレーと友好精神に反する」 すでに本国送還
  8. ^ エジプト:「重圧あった」リオ五輪で握手拒否の柔道選手 毎日新聞 2016年9月14日
  9. ^ 柔道銅メダリストの顔面青あざ、そのトホホな理由…強盗追いかけ逆襲に!? - ウェイバックマシン(2016年10月18日アーカイブ分)
  10. ^ 判定に激高のレバノン選手、1時間後に反省し謝罪 - 柔道
  11. ^ 柔道女子金メダルのケルメンディが検査拒否…6月にフランスで - ウェイバックマシン(2017年8月29日アーカイブ分)
  12. ^ 柔道女子ケルメンディに過失なし 6月の薬物検査拒否で - ウェイバックマシン(2016年9月2日アーカイブ分)
  13. ^ IJFルール2014-2016テクニカルアセスメント
  14. ^ Le ippon de Silva, nouveaux éclaircissements
  15. ^ 男子、本家復権へ一歩=全7階級でメダル
  16. ^ Khalmurzaev wins Russia's 2nd judo gold of Rio Olympics
  17. ^ S. Korean judo unable to live up to hype
  18. ^ Judo Olympic Games 2016
  19. ^ a b c judobase.org

外部リンク 編集