イノセンス

2004年公開の日本映画
攻殻機動隊2: イノセンスから転送)

イノセンス』 (INNOCENCE) は、押井守監督による日本の劇場用アニメ映画2004年3月6日に全国東宝洋画系で公開された。押井が監督した1995年公開のアニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の続編にあたり、本作は自身にとっても前作の公開から約9年ぶりとなるアニメ監督作品である。

イノセンス
INNOCENCE
監督 押井守
脚本 押井守
製作 石川光久
鈴木敏夫
出演者 大塚明夫
山寺宏一
田中敦子
大木民夫
仲野裕
竹中直人
音楽 川井憲次
主題歌 伊藤君子 『Follow Me』
制作会社 Production I.G
製作会社 徳間書店
日本テレビ放送網
電通
ディズニー
東宝
ディーライツ
配給 日本の旗 東宝
アメリカ合衆国の旗 ドリームワークス
公開 日本の旗 2004年3月6日
フランスの旗 2004年5月20日CIFF
カナダの旗 2004年9月9日TIFF[注 1]
上映時間 100分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
製作費 20億円 (推定)
興行収入 10億円[1]
前作 GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊
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2004年、第25回日本SF大賞受賞。また、第57回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にて上映された。アニメーション作品がカンヌのコンペ部門に選出されるのは史上5作目、日本のアニメ作品では初である[2]

目次

あらすじ編集

少佐こと草薙素子が失踪(前作『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のラスト)してから3年後の西暦2032年

少女型の愛玩用ガイノイド「ロクス・ソルス社製 Type2052 “ハダリ(HADALY)”」[注 2]が原因不明の暴走を起こし、所有者を惨殺するという事件が相次いで発生した。被害者の遺族とメーカーの間で示談が不審なほど速やかに成立し、また被害者の中に政治家や元公安関係者がいたことから、公安9課で捜査を担当することになり、公安9課のバトーは、相棒のトグサとともに捜査に向かう。

ガイノイドについて調査中、ロクス・ソルス社の出荷検査部長が惨殺される事件が起きる。指定暴力団「紅塵会」の犯行であると踏んだ公安9課は紅塵会の事務所を襲撃する。その帰宅途中、バトーはいつものように立ち寄った食料品店でゴーストハックされ乱射事件を起こしてしまう。

事件の核心へと迫るべくバトーとトグサはロクス・ソルス本社がある択捉経済特区へ向かう。バトーへのゴーストハックの容疑でキムの屋敷を訪れるが、今度はトグサまでもゴーストハックされてしまう。2人は電脳疑似現実のループから抜け出すと、この事から確信を得てキムを確保。トグサのバックアップのもとバトーはガイノイド製造プラント船へ乗り込む。

トグサがキムの脳殻を用いて捜査中、警備システムが作動し、電脳戦の末にキムは死亡してしまう。キムが死亡したことで製造プラント船内のガイノイドが暴走。バトーがそれらに応戦している最中、バトーと共闘する1体のガイノイドが現れる。

プラント船内は鎮圧され、バトーは捜査を再開する。プラント船の中枢部には幼い子供のゴーストをガイノイドに複製するゴーストダビングの装置が並んでいた。

キャスト編集

スタッフ編集

製作編集

作品名は当初『攻殻機動隊2』だったが、制作協力したスタジオジブリプロデューサー鈴木敏夫の提案により『イノセンス』となった。主題歌として「Follow Me」を提案したのも鈴木である[3]。押井自身も「彼(鈴木)がやったのは2つ。『イノセンス』というタイトルをつけたことと、主題歌」と発言している[4]

プロデューサーの鈴木敏夫は、本作のメインキャストに大物俳優の起用を立案していて、草薙素子役には山口智子を挙げていた。しかし、スケジュールの都合に加えて「出来上がっているイメージを変えるべきではない」と出演を固辞した山口と、監督の押井、キャストの大塚や山寺の反対により、田中が続投している[注 3]

アメリカのメジャー映画会社は、『イノセンス』制作にあたって押井との交渉の席で、大衆受けを狙わない姿勢や、話を聞くだけではにわかに理解できない作品内容について難色を示した。それでも説得のため熱弁を振るう押井に、幹部全員が退いてしまい資金捻出を渋ったという。しかし、前作『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』がアメリカでヒットしていたこともあり、一定の興行収入を得られるとみた映画会社は、『GHOST IN THE SHELL 2』と明記することを条件として最終的に契約を結んだ。

プロモーション編集

原作および前作のタイトルでもある『攻殻機動隊』シリーズとは切っても切り離せない関係にあるが、国内展開上は『攻殻機動隊』シリーズの新作であることは意図して強調されず、ほぼ独立した作品としてプロモーションがなされた[注 4]

映画公開に先立ち、東京都現代美術館で、押井監修の「球体関節人形展」が開かれ、キムのモデルとなった四谷シモン作品などが展示された[5]

作品解説編集

前作『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の草薙素子少佐の代わりにバトーがメインキャラクターをつとめる。ただし、九課のチーフ役はトグサが継いでいる。

本編のストーリーのベースは、漫画版『攻殻機動隊』の第6話「ROBOT RONDO」。

作品世界編集

本作品は士郎正宗の原作における『攻殻機動隊1.5 HUMAN-ERROR PROCESSER』『攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE』のように、前作で消息を絶った素子が再び姿を表し、主役として大活躍する作品にはならなかった。押井によれば、終わった後の今の目で見ればそのような展開でも良かったかもしれないと思えるが、当時は自然と本作品で選択した方向性以外に考えられなかったと語っている。また、本作品で直接は描かれなかった「その後の素子」に関しては、テーマとして容を変えて押井の次回作以降で語られるだろうとしている(必ずしも続編としての『攻殻3』を製作するという意味ではない)。

映像手法編集

押井守は『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の際に既にアニメ映画の方法論は決したとして、アニメをこれ以上作ろうとは考えていなかったが、『Avalon』でアニメの方法論を実写に取り込み、実写の方法論をアニメに持ち込んでこの映画を制作しようと考えた。即ち、3Dモデリングされた空間カメラを持ち込み、それを切り出して(ロケーション・ハンティング)映像を制作しようとした。

だが、3D担当者はそれは不可能であると言い、テスト段階のコンビニエンスストアのシーンにおいて、想像以上のデータ量の前にその目論見は崩れ去った。現に公開されたものでもこのシーンは分割してレンダリングしたものを後に合成するという方法でレンダリング時間を短縮している。本編映像、特に中盤の大祭のシーンは、カメラマップと呼ばれる手法を利用した映像となっている。

また、アニメはキャラクターをセルで描くため、画面をセル画が占拠すると画面内の情報量が失われがちだが、江面久を筆頭とするエフェクトチームがAfterEffectsなどを駆使してそれに対処し、処理速度が停滞すればPower MacG5の大量導入でこれに対処した。

以上の紆余曲折もあり、アニメ映画では初めて、全編にわたってDomino[6]による映像処理が施されたが、それによってセル画が浮いて見えるという評価もあった。これについて押井守は認識していたが、CGによって描きこまれたディテールを損なうフィッティングをあえて行わなかったことを後のインタビューで述べている。ちなみに、IMAXシアターで公開された際にはオープニングのガイノイドの眼球に表示される文字列など細部を見ることができた。

前作のコンピュータ画面が「緑」で統一されていたのに対し、今作では「橙」で統一されていたり、前作の舞台が「夏」に対して今作は「冬」と、映像に差別化が見られる。なお、季節の違いによって差別化を図る手法は、押井が以前に監督した『機動警察パトレイバー the Movie』(「夏」)と『機動警察パトレイバー 2 the Movie』(「冬」)でも採用されている。

音響手法編集

本作以前より劇伴作曲家として押井作品に関わってきていた川井憲次による、本作の第2のメインテーマともいえる「傀儡謡」のコーラスは75人の民謡歌手(西田和枝社中)を集め(前作では3人)、更にクライマックスに使用された傀儡謡ではコーラスを4回収録し、それを同時に流す事によって音に厚みを持たせた。和太鼓に茂戸藤浩司が起用された[7]

劇中で使用されたオルゴールの曲は、予めオルゴールから機械録音しておいたものを、大谷石採掘場跡の地下空間で再生し、再度録音したものが使われた。

また音響効果編集は『Avalon』同様スカイウォーカー・サウンドで行われ、迫力の音響世界が創造された。サウンドデザインはアカデミー音響編集賞受賞者のランディ・トムが担当した。この関与は「プリミックス」であり、音楽やセリフ素材を含む整音は日本国内で行われている。

同社の音響製作の可能性に感銘を受けた押井は、『Avalon』で組んだサウンドデザイナーで『ローレライ』や『少林少女』も手がけたスカイウォーカー・サウンドのトム・マイヤーズに『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』のサウンドデザイン、2008年の『攻殻機動隊2.0』の音響リニューアルを委ねている。

引用された箴言編集

作中には、以下に示すように多数の箴言の引用が登場する。

これについて押井守は、Yahoo!ブックスが2004年に行ったインタビューの中で、「ダイアログをドラマに従属させるのではなく、映画のディテールの一部にしたかった」のが動機であるとし、「言葉それ自体をドラマのディテールにしたかった。ちょっとした人物が吐くセリフも何物かであってほしい」「可能ならば100%引用で成立させたかった」と語っている[8]

釈迦 『法句経 - 23章330節(釈迦の言行録として残されたもの)』
孤独に歩め。悪をなさず、求めるところは少なく。林の中の象のように。
月菴宗光 『月庵和尚法語』
生死の去来するは棚頭の傀儡たり一線断ゆる時落落磊磊。
斎藤緑雨
鏡は悟りの具ならず、迷いの具なり。『霏々刺々』
鳥は高く天上に蔵れ、魚は深く水中に潜む。『霏々刺々』
鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。聲ある者は幸福也。『半文銭』
本月本日を以て目出度死去仕候間此段広告仕候也。『萬朝報(緑雨斎藤賢の名義で残された死亡広告)』
信義に二種あり、秘密を守ると、正直を守ると也。両立すべき事にあらず。『長者短者』
秘密なきは誠なし。『長者短者(の中の一篇の冒頭を改変したもの)』
人の上に立つを得ず、人の下に就くを得ず。路辺に倒るるに適す、ってやつで。『大底小底』
尾崎紅葉 『徳田秋声の原稿についての添え書き』
柿も青いうちはカラスも突つき申さず候。
中村苑子 『俳句』
春の日やあの世この世と馬車を駆り。
高尾太夫 (二代目) 『恋文(として伊達綱宗公へ宛てたもの)』
忘れねばこそ思い出さず候。
孔子 『論語(孔子の言行録として残されたもの)』
寝ぬるに尸せず。居るに容づくらず。
未だ生を知らず。焉んぞ死を知らんや。
理非無きときは鼓を鳴らし攻めて可なり。
プラトン 『名言(プラトンの言葉としてプルタルコスが著書にて残したもの)』
神は永遠に幾何学する。
ダビデ 『旧約聖書 - 詩篇139篇17,18節(ダビデが神様に宛てた信仰告白)』
その思念の数はいかに多きかな。我これを数えんとすれどもその数は沙よりも多し。
ジョン・ミルトン 『失楽園
彼ら秋の葉のごとく群がり落ち、狂乱した混沌は吼えたけり。
作者なし 『西洋の諺(山本夏彦がたびたび引用)』
ロバが旅にでたところで馬になって帰ってくるわけではない。
ラ・ロシュフコー 『考察あるいは教訓的格言・箴言』
多くは覚悟でなく愚鈍と慣れでこれに耐える。
ニコライ・ゴーゴリ 『検察官
自分の面が曲がっているのに鏡を責めてなんになる。
マックス・ヴェーバー 『理解社会学のカテゴリー』
シーザーを理解するためにシーザーである必要はない。
ロマン・ロラン 『ジャン・クリストフ
人は概ね自分で思うほどには幸福でも不幸でもない。肝心なのは望んだり生きたりすることに飽きないことだ。
リチャード・ドーキンス 『延長された表現型―自然淘汰の単位としての遺伝子』
個体が創りあげたものもまた、その個体同様に遺伝子の表現型。
ジュリアン・オフレ・ド・ラ・メトリー 『人間機械論』
人体は自らゼンマイを巻く機械であり、永久運動の生きた見本である。

評価編集

Wiredのアメリカ人記者によると前作にあたる「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」と比べ「優雅で完成度が高く、まとまりがあ」ると述べている[9]

思想家東浩紀は、本作がアニメ技術の最高峰に位置する見る価値のある作品であることを認めながらも、押井守のそれまでの作品にみられた「過剰な記号や意味」が煩雑に盛り込まれているという特徴が本作では欠落していると指摘している。そして、主題(人間と人形の差異)と物語の結びつきも弱く、監督の映像作家として力量に感嘆はするもののそれ以上の感想は抱けないと述べている[10][11]

ソフト編集

DVD発売時のTVCMには、本作品に出演していない藤原竜也宮崎あおいが起用されている。

小説編集

2004年山田正紀によって前日談に当たる小説「イノセンス After The Long Goodbye」が発表される。

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ 各国の公開日:  2004年9月17日、  2004年10月8日、  2004年10月14日、  2004年12月25日、  2004年12月1日、  2005年1月12日、  2005年4月5日、  2005年7月31日、  2005年10月28日、  2005年11月18日、  2006年8月4日。
  2. ^ 名前の由来はSF小説『未来のイヴ』に登場したハダリーより。意味はペルシア語で理想。
  3. ^ なお、山口は後に鈴木が製作を担当したアニメ映画『崖の上のポニョ』に出演している。
  4. ^ DVDには前作などについての説明映像があり、それが本編前に流れる仕様になっているものもある。

出典編集

  1. ^ 2004年興行収入10億円以上番組 (PDF) - 日本映画製作者連盟
  2. ^ “「イノセンス」カンヌ映画祭でノミネート”. 読売新聞. (2004年4月27日). オリジナル2013年5月1日時点によるアーカイブ。. https://archive.is/wLYim 
  3. ^ DVD映像特典の鈴木プロデューサーのインタビューより
  4. ^ 「押井守ブロマガ開始記念! 世界の半分を怒らせる生放送 押井守×鈴木敏夫×川上量生」(ニコニコ生放送にて、2012年9月17日放送
  5. ^ 『球体関節人形展』図録 (日本テレビ放送網発行、2004年)
  6. ^ 文化庁メディア芸術プラザ「コ・マ・ド・リの観察 - その18」
  7. ^ 傀儡謡 川井憲次の世界基礎科学研究所
  8. ^ yahoo!ブックス 押井守インタビュー”. 2005年3月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年11月25日閲覧。
  9. ^ 押井守監督のアニメ映画『イノセンス』、米国人記者によるレビュー2017年6月18日閲覧。
  10. ^ 東浩紀 「メタリアル・クリティーク」『文学環境論集 東浩紀コレクションL』 講談社、2007年、662-664頁。ISBN 978-4062836210
  11. ^ 東浩紀 「押井作品のひとつの到達点」『文学環境論集 東浩紀コレクションL』 講談社、2007年、247-249頁。ISBN 978-4062836210

関連項目編集

外部リンク編集