スズラン

スズラン亜科スズラン属の多年草
鈴蘭から転送)

スズラン(鈴蘭、学名: Convallaria majalis var. manshurica)は、スズラン亜科スズラン属に属する多年草の一種。狭義にはその中の一変種Convallaria majalis var. keiskeiを指す。学名のConvallariaラテン語の谷(Convallis)に由来する[6]君影草(きみかげそう)[7][8]谷間の姫百合(たにまのひめゆり)の別名もある。

スズラン
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperm
階級なし : 単子葉類 Monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: キジカクシ科 Asparagaceae
亜科 : スズラン亜科 Nolinoideae
: スズラン属 Convallaria
: スズラン C. majalis
変種 : スズラン
C. m. var. manshurica
学名
Convallaria majalis L. var. manshurica Kom. (1931)[1]
シノニム
和名
スズラン(鈴蘭、君影草)
英名
Lily of the valley
変種

本種は「ラン」と付いているがラン科ではなくキジカクシ科(旧科名ユリ科)に分類される[9]。スズランの別名を持つ植物にラン科のカキランがあり、『日本草木植物総検索誌』(1979年)の和名索引ではともに「スズラン」とされ科名で区別されている[10]。他にイチヤクソウベンケイソウもスズランと呼ばれていたことがある[10]

高原などに群落を作って生育している[11]。草丈は15 - 30センチメートル[11]。葉はふつう2枚が抱き合って伸び、葉の間から花茎を伸ばして白い釣鐘形の花を咲かせる[11]

種類

編集

スズラン属は北半球に数種がみられるが、これらに関しては1種で2変種または3変種、あるいはそれぞれ独立種とされることもあり見解が分かれる[6][12]

  • Convallaria majalis var. keiskei - 温帯アジア(北海道本州九州、サハリン、東シベリア、中国、朝鮮半島)に分布[7]
  • C. majalis var. majalis(ドイツスズラン)[12] - ヨーロッパ原産[7]。葉がやや小型だが花が大きく芳香が強い[7]
  • C. majalis var. montana(アメリカスズラン)[12] – 北米のアパラチア山脈一帯に分布[6][7]

日本などで自生しているスズランは花茎が短く花の数も少ないため、市場で出回っている園芸上のスズランは一般的にドイツスズランである[13]。両者は花の大きさ、葉の質、花冠の形、花粉、花糸の基部の色に違いがある[14]

なお、エゾスズランEpipactis papillosa)はラン科の植物である。

薬理作用

編集

全草に強心配糖体コンバラトキシンなどを含んでいる[7]

毒性

編集

全草、特に根茎に毒成分が多く、誤食すると嘔吐頭痛眩暈血圧低下心臓麻痺などの症状を起こし、重傷の場合、心不全から死亡に至ることもある[11]。強心配糖体のコンバラトキシン(convallatoxin)、コンバラマリン (convallamarin)、コンバロシド (convalloside) などを含む有毒植物。有毒物質は全草に持つが、特に花や根に多く含まれる。花壇などに植えられているドイツスズランも有毒である[11]

山菜として珍重されるギョウジャニンニクと外見が似ていることもあり[11]、誤って摂取し中毒症状を起こす例が見られる。スズランを活けた水を飲んでも中毒を起こすことがあり、上野正彦著「死体は語る」には、五歳の子どもが枕元に置いてあったスズランの活けられた花瓶の水を飲み死亡した例が書かれている。

生薬

編集

強心作用や利尿作用があることから生薬や製薬の原料とされる[7]

文化

編集

花言葉は「清浄」「幸福」[7]イギリスなどでは5月1日にスズランを贈ると幸福が来るという風習がある[7]

一方で有毒植物であることからアイヌでは「毒の花」として親しまれなかった[7]

国花など

編集

フィンランド国花であり、スウェーデンのイェストリークランド地方の花でもある。

日本の自治体・行政区の花

編集
道県 支庁・地方 スズランを指定する各市町村 備考
北海道 上川総合振興局 美瑛町 -
オホーツク総合振興局 津別町 -
石狩振興局 札幌市恵庭市 恵庭市の指定は1973年4月2日
空知総合振興局 砂川市 -
十勝総合振興局 音更町士幌町上士幌町清水町中札内村更別村 -
釧路総合振興局 釧路市 キンレンカエゾリンドウも指定している
日高振興局 平取町 平取町芽生(めむ)には、日本最大の野生スズラン群生地(約15ヘクタール)が所在する
長野県 東信地方 立科町南牧村 -
南信地方 富士見町駒ヶ根市 -
奈良県 - 宇陀市 自生南限地
広島県 - 世羅町 -
  • スズランをシンボルに指定していた自治体

国指定文化財

編集

日本では以下が、天然記念物として国の文化財の指定を受けている。

画像

編集

脚注

編集
  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Convallaria majalis L. var. manshurica Kom. スズラン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年6月7日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Convallaria keiskei Miq. スズラン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年6月7日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Convallaria majalis L. var. keiskei (Miq.) Makino スズラン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年6月7日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Convallaria majalis auct. non L. スズラン(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年6月7日閲覧。
  5. ^ "Convallaria majalis". Germplasm Resources Information Network (GRIN). Agricultural Research Service (ARS), United States Department of Agriculture (USDA). 2012年8月15日閲覧
  6. ^ a b c 五十嵐博「スズランの北海道内分布と生育環境(予報)」『北方山草』第13号、北方山草会、1995年、28-36頁。 
  7. ^ a b c d e f g h i j 山谷吉蔵「スズラン(ユリ科について)」『北方山草』第7号、北方山草会、1988年、15-18頁。 
  8. ^ かつては「きみかけそう」と清音で発音されることもあった。https://japanknowledge.com/articles/blognihongo/entry.html?entryid=89
  9. ^ スズラン(キミカゲソウ)”. 北海道大学植物園. 2023年11月7日閲覧。
  10. ^ a b 松井洋「スズラン(ユリ科)とスズラン(ラン科)の和名考」『北方山草』第13号、北方山草会、1995年。 
  11. ^ a b c d e f 金田初代 2010, p. 187.
  12. ^ a b c ドイツスズラン 独逸鈴蘭”. 三河の植物観察. 2023年11月7日閲覧。
  13. ^ スズラン編”. 株式会社太田かき. 2023年11月7日閲覧。
  14. ^ 松井洋「ユリ科スズランの日本の南限分布」『北方山草』第19号、北方山草会、2002年。 
  15. ^ 幕別町の花・木・鳥、シンボルマーク 幕別町ホームページ(2020年10月14日閲覧)
  16. ^ 吾国愛宕ハイキングコース 笠間市ホームページ(2022年5月20日閲覧)

参考文献

編集
  • 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、187頁。ISBN 978-4-569-79145-6