かんがい施設遺産
かんがい施設遺産(かんがいしせついさん、英語:Heritage Irrigation Structures)は、インドのニューデリーに本部を置く国際かんがい排水委員会(ICID)が、灌漑の歴史・発展を明らかにし、灌漑施設の適切な保全に資することを目的として、建設から100年以上経過し、灌漑農業の発展に貢献したもの、卓越した技術により建設されたもの等、歴史的・技術的・社会的価値のある灌漑施設を登録・表彰するために2014年に創設した制度。なお、灌漑は二文字とも常用漢字の表外字のため、担当所管の農林水産省では「かんがい」と平仮名表記を正式なものとしている。
2019年に正式名称にワールドを冠し、World Heritage Irrigation Structuresと改称した。直訳すると「世界遺産のかんがい施設」になり、世界遺産と混同しやすくなるため、農水省では世界かんがい施設遺産とした。
2023年時点で19ヶ国に159件が登録されている[1]。
認定地
編集2014年
編集- 日本[注釈 1]
- 中国
- タイ
- スリランカ
- アブハヤ・ウェア …世界遺産アヌラーダプラにある貯水池(ウェワ)
- ナッチャドゥワ・ウェア …マハーセーナ王によって作られた貯水池、かつてはマハーダラガラカと呼ばれていた
- パキスタン
-
稲生川
-
雄川堰
-
深良用水
-
七ヶ用水
-
立梅用水
-
狭山池
-
淡山疏水
-
山田堰
-
朝倉三連水車
-
通潤用水
-
木蘭陂
-
サリートポン
-
アブハヤ・ウェア
2015年
編集- 日本[注釈 3]
- 中国
- タイ
-
上江用水と旧分水施設
-
隧道になる上江用水
-
曽代用水
-
入鹿池
-
久米田池
-
它山堰
-
ランシット運河
2016年
編集- 日本
- 照井堰用水、岩手県一関市・平泉町
- 内川(大堰)、宮城県大崎市…日本農業遺産・世界農業遺産「大崎耕土」の構成資産
- 安積疏水、福島県郡山市・猪苗代町…日本遺産
- 長野堰用水、群馬県高崎市
- 村山六ヶ村堰疏水、山梨県北杜市
- 滝之湯堰・大河原堰、長野県茅野市
- 拾ヶ堰、長野県安曇野市・松本市
- 源兵衛川、静岡県三島市 …世界水システム遺産
- 足羽川用水、福井県福井市 …関連事項として足羽川および足羽川ダムも参照
- 明治用水、愛知県安城市・岡崎市・豊田市・知立市・刈谷市・高浜市・碧南市・西尾市
- 南家城川口井水、三重県津市
- 満濃池、香川県まんのう町
- 常盤湖、山口県宇部市
- 幸野溝・百太郎溝、熊本県湯前町・多良木町・あさぎり町・錦町[注釈 4]
- 韓国
- 中国
- エジプト
- ロシア
-
照井堰用水
-
内川
-
安積疏水
-
長野堰の円筒分水
-
村山六ヶ村堰疎水
-
大河原堰
-
拾ヶ堰
-
源兵衛川
-
足羽川用水頭首工
-
明治用水
-
南家城川口井水
-
満濃池
-
常盤湖
-
幸野溝
-
百太郎溝
-
碧骨堤
-
アスワンダム
-
デルタ・バラージュ
2017年
編集- 日本
- 韓国
- 中国
- メキシコ
- オーストラリア
- グルバーン・ウィアー、ビクトリア州
- ブリーズデール・ワイン畑の灌漑水門、サウス・オーストラリア州
-
土淵堰
-
那須疏水
-
牟呂用水
-
小田井用水
-
チナンパ
2018年
編集-
北楯大堰
-
五郎兵衛用水
-
大和川分水築留掛かり
-
白川用水(渡鹿用水大井手)
2019年
編集- 日本
- 中国
- マレーシア
- インド
- Sadarmatt Anicut
- Large Tank (Pedda Cheru)
- スリランカ
- Elahera Anicut
- Kantale Wewa
- Minneriya Reservoir
- Sorabora Wewa
- イラン
- Abbas Abad Complex
- Baladeh Qanat and Water System …世界遺産ペルシア式カナートの構成資産
- Kurit Dam
- Shushtar Historical Hydraulic System …世界遺産スーサ
- イタリア
- Aqua Augusta and Piscina Mirabilis
- Berra Irrigation Plant …2023年に無形文化遺産に登録された「伝統的な灌漑:知識・技術・組織」の構成資産
- Migliaro Water Diversion Gate
- Panperduto Dam
- アメリカ
-
十石堀
-
見沼代用水東縁
-
見沼代用水(新川用水と備前前堀川)
-
見沼代用水(中島用水路)
-
倉安川(吉井水門)
-
百間川
-
都江堰
-
霊渠
-
カンタレー・ウェア
-
ソラボラ・ウェア
-
スーサの水流システム
-
パンペルドゥートダム
-
セオドア・ルーズベルトダム
2020年
編集- 日本
- 韓国
- 固城沿岸地域の溜池灌漑システム
- 中国
- インド
- Cumbum Tank
- Kurnool-Cuddapah Canal
- Porumamilla Tank(Anantharaja Sagaram)
- Dhampur Dam
- イラン
- Zarch Qanat …世界遺産ペルシア式カナートの構成資産
- Moon Qanat …世界遺産ペルシア式カナートの構成資産
-
天狗岩用水
-
備前渠用水
-
常西合口用水
-
K.C.Canal
2021年
編集- 日本
- 韓国
- 中国
- インド
- Dhukwan Weir
- Grand Anicut Canal
- Kalinggarayan Anicut and Kalingarayan Channel System
- Veeranam Tank
- スリランカ
- Dam and Old Sluices of Parakrama Samudraya
- Ethimale Tank Bund
- Maduru Oya Ancient Dam and the Sluice
- イラク
- Hindiya Barrage
- Waterwheels of Heet
- モロッコ
- Khettaras…現地ではフォガラと呼ばれるカナート[注釈 8]
-
寺ヶ池
-
広瀬井手
-
ケッタラスのマウンド
2022年
編集- 日本
- 中国
- 通済堰、四川省…2014年に登録された浙江省の通済堰とは別
- 興化垛田、江蘇省…2014年に農業遺産にも登録
- 松陽松古灌区、浙江省
- 崇義上堡棚田、江西省
- インド
- Baitarani Irrigation Project
- Lower Anicut
- Rushikulya Irrigation Systems
- Sir Arther Cotton Barrage(Dowleswaram Barrage)
- スリランカ
- Kala Wewa
- Padaviya Tank
- Thakkam Anicut
- イラク
- Al-Adhem Dam
- White Bridge
- オーストラリア
-
香貫用水
-
寺谷用水
-
井川用水
-
興化垜田
-
デスリッジ水車
-
アーサー・コットン卿堰
2023年
編集- 日本
- 中国
- 祁門堰、安徽省
- 紅沢湖、江蘇省
- 火泉泉、山西省
- 白尼堰、湖北省
- インドネシア
- Notog Weir
- The Kepajaran Main Intake
- The Talang Barrage(Talang Dam)
- タイ
- Bang Nok Khwaek Lock
- Damnoen Saduak Canal
- インド
- Balidiha Irrigation Project
- Jayamangal Anicut
- Prakasam Barrage
- Srivaikuntam Anicut
- イラク
- The old regulator Al-Hussainya
- トルコ
- Şamran Canal[注釈 9]
-
山形五堰(御殿堰)
-
北山用水
-
本宿用水
-
建部用水(井堰先)
-
プラカサム堰
2024年
編集-
南原穴堰
-
西光寺野疏水(福崎町)
認定手続き
編集主宰する国際かんがい排水委員会が年一回開催するHIS審査委員会において外部の研究者を交えて審議される。
日本からの推薦には農林水産省の農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室海外企画班が担当所管の窓口となっている。
展開
編集水文学を推進するユネスコは水資源管理の観点から、国連食糧農業機関は世界重要農業遺産システム(農業遺産)の観点から、かんがい施設遺産を支援している。
展望
編集ユネスコや国際連合未加盟のため世界遺産などの各種遺産事業に参加できない台湾(中華民国)だが、国際かんがい排水委員会へは加盟しており、烏山頭ダムの登録の可能性がある(築100年経過の条件から2020年まで待たなければならない)。
国内施策
編集農林水産省では文化財としての価値を有する農業水利施設等の土地改良施設を対象に、農村地域における生活空間の質的向上を図りつつ、土地改良施設の整備を契機に地域一体となった農業水利施設の維持・保全体制の構築を目的とする「地域用水環境整備事業」を推進。
また国土交通省は歴史まちづくり法により、農村地域の水路・ダム・ため池等の農業水利施設の保全管理または整備と地域用水の多面的な機能の維持増進に資する施設の整備を行うことを目的とする「地域用水環境整備事業」を展開している。
さらに農水省は、日本農業遺産も含めた農事関連遺産を観光資源として活用すべく、郷土料理や自然散策を組み合わせたモデルコースを策定し、かんがい施設遺産からは長野県の拾ヶ堰と熊本県の菊池のかんがい用水群(世界農業遺産・阿蘇の草原の維持と持続的農業との組み合わせ)が選ばれた[2][3]。
参照(外部リンク)
編集脚注
編集注釈
編集- ^ 信濃毎日新聞は2014年9月17日号[リンク切れ]で長野県茅野市が申請していた滝之湯堰・大河原堰を仮登録と報じているが正確には登録見送りの誤報
- ^ 朝倉の水車は平成29年7月九州北部豪雨により破損したが、その後復旧したことから、2017年の国際かんがい排水委員会の会合では登録抹消などの措置をとらないことを確認した
- ^ 2015年は宮城県大崎市の内川、山梨県北杜市の村山六ヶ村堰疏水、長野県茅野市の滝之湯堰・大河原堰(再申請)、長野県安曇野市・松本市の拾ヶ堰、静岡県三島市の源兵衛川、三重県津市の南家城川口井水、山口県宇部市の常盤湖も立候補していたが審査継続となり、全て2016年に登録となった
- ^ 幸野溝・百太郎溝は水上村も申請地であったが、熊本地震 (2016年)により辞退
- ^ 本来は文字通り「岩木川の淵に築いた土手状の堰(取水堤)」のことだが近代化改修で現存せず、現在では用水路そのものの名称となっている。流域で水を貯える津軽富士見湖(廻堰大溜池)も関連資産として対象に含まれる。
- ^ 審査にあたり大阪府北部地震と平成30年7月豪雨の被災状況が確認された
- ^ 2020年の登録審査は12月1~7日にモロッコのマラケシュで開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染症の流行により中止となり、12月8日にオンライン会議での執行理事会で可決された。
- ^ 2023年9月8日に発生したマラケシュ-サフィ地震によって被災が確認された
- ^ 審査にあたり2023年2月6日に発生したトルコ・シリア地震の被災状況が確認された