リコール (地方公共団体)
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地方自治法におけるリコール制度編集
地方自治法では第76条から第88条まで及び第296条で定められた直接請求制度の一つである。
制度編集
- 都道府県知事・市町村長の解職
- 選挙権のあるもの(有権者)の3分の1以上(有権者総数が40万人を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上)の署名を集めて選挙管理委員会に請求できる(地方自治法第81条第1項)[注 1]。
例:(有権者数-80万)×1/8+40万×1/6+40万×1/3[1]
- 署名募集期間は都道府県及び政令都市の場合2か月、その他の市町村の場合は1か月に限られる(地方自治法施行令第92条第3項)。
- 請求が有効であれば、請求から60日以内に住民投票が行われる(地方自治法第81条第2項)。投票の告示は、都道府県知事については少なくとも投票日の30日前に、市町村長については少なくとも投票日の20日前にしなければならない(地方自治法施行令第116条の2)。
- 解職投票において有効投票総数の過半数が賛成すれば、その首長(都道府県知事・市町村長)は失職する(地方自治法第83条)。ただし、投票前に対象の首長が職を失い又は死亡した場合は解職投票を行わない(地方自治法施行令第116条の2)。
- その首長の選挙から1年間(無投票当選を除く)又は解職投票日から1年間は解職請求をすることができない(地方自治法第84条)。
- 地方議会の解散
- 有権者の3分の1以上(40万を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上)の署名を集めて選挙管理委員会に請求できる(地方自治法第76条第1項)。[注 1]
- 請求が有効であれば、請求から60日以内に住民投票が行われる(地方自治法第76条第3項及び地方自治体施行令第100条の2条)。投票の告示は、都道府県議会については少なくとも投票日の30日前に、市町村議会については少なくとも投票日の20日前にしなければならない(地方自治法施行令第100条の2条)。
- 投票において有効投票総数の過半数が賛成すれば、解散となる(地方自治法第78条)。ただし、投票前に議員が全て欠けた場合は投票を行わない(地方自治法施行令第102条)。
- その議会の議員選挙から1年間又は解散投票日から1年間は解散請求をすることができない(地方自治法第79条)。
- 財産区の議会も解散請求の対象となっている(地方自治法第296条第3項)。
- 地方議員の解職
- 対象の議員の選挙区の有権者(選挙区が無い場合は地方自治体の全有権者)の3分の1以上(40万を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上)の署名を集めると、選挙管理委員会に請求できる(地方自治法第80条第1項)。[注 1]
- 請求が有効であれば、請求から60日以内にその選挙区(選挙区が無い場合は全域)において住民投票が行われる(地方自治法第80条第3項及び地方自治法施行令第113条)。投票の告示は、都道府県議会議員については少なくとも投票日の30日前に、市町村議会議員については少なくとも投票日の20日前にしなければならない(地方自治法施行令第113条の2)。
- 解職投票において有効投票総数の過半数が賛成すれば、その議員は失職する(地方自治法第83条)。ただし、投票前に対象の議員が職を失い又は死亡した場合は投票を行わない(地方自治法施行令第112条)。
- その議員に関して選挙から1年間(無投票当選を除く)又は解職投票日から1年間は解職請求をすることができない(地方自治法第84条)。
- 財産区の議員も解職請求の対象となっている(地方自治法第296条第3項)。
- 地方役員の解職
- 有権者の3分の1以上(40万を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上)の署名を集めると、副知事・副市町村長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会委員、総合区長、教育長・教育委員の解職を都道府県知事・市町村長に請求できる(地方自治法第86条及び地方教育行政法第8条第1項)。[注 1]
- 請求が有効であれば、首長が議会に付議し、議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の多数による同意があれば職を失う(地方自治法第87条第1項)。
- 副知事・副市町村長の解職の請求は、就任から1年間及び解職請求に基づく地方議会の解職採決日から1年間はすることができない(地方自治法第88条第1項)。
- 選挙管理委員・監査委員・公安委員会委員の解職の請求は、就任から6ヶ月間及び地方議会の解職採決日から6ヶ月間はすることができない(地方自治法第88条第2項及び地方教育行政法第8条第2項)。
- 罰則
- 上述の場合のいずれにおいても、威力を用いて署名に対する妨害行為を行った者や、署名において不正な行為を行った者については、地方自治法第74条の4条を準用し罰則が下される(地方自治法第76条第4項、第80条第4項、第81条第2項及び第86条第4項)。
実例編集
解職、解散とも平成の大合併に伴うものが多い。
解職請求編集
住民投票日 | 氏名 | 役職 | 結果 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1949年9月25日 | 八代智蔵 | 大阪府守口市長 | 成立 | 市長に対する初のリコール成立。 |
1950年1月16日 | 日吉宗能 | 石川県穴水町長 | 成立 | 石川県で初めての首長のリコール成立。 |
1956年9月30日 | 菊池豊 | 茨城県下館市長 | 成立 | その後下館市議2期。 |
1971年6月22日 | 薄井与兵衛 | 茨城県那珂湊市長 (現ひたちなか市) |
成立 | 出直し選挙に立候補せず。 |
1972年12月24日 | 荻原麟次郎 | 秋田県秋田市長 | 成立 | 県庁所在地では初。出直し選挙に立候補せず。 |
1983年3月20日 | 植松義忠 | 静岡県富士宮市長 | 成立 | 下記の同市議会解散請求とのダブルリコールの成立。 直後の統一地方選で行われた出直し市長選で落選。1987年市長選にも敗れる[2]。 |
1989年3月19日 | 中村太郎 | 大分県別府市長 | 不成立 | 不詳 |
1993年6月12日 | 中村勝人 | 山口県宇部市長 | 成立 | 出直し選挙に立候補せず引退[2]。 |
2003年2月16日 | 関口隆正 | 群馬県富士見村長 | 成立 | 出直し選挙に立候補するも落選。 |
2003年3月9日 | 大野和三郎 | 滋賀県豊郷町長 | 成立 | 出直し選挙で当選。 |
2004年1月11日 | 徳永繁富 | 長崎県香焼町長 | 成立 | 出直し選挙で当選。 |
2004年4月10日 | 野髙貴雄 | 茨城県河内町長 | 成立 | 出直し選挙で当選。 |
2004年8月28日 | 辻嘉右エ門 | 福井県鯖江市長 | 成立 | 出直し選挙に立候補するも落選[2]。 |
2004年9月19日 | 大久保司 | 茨城県八千代町長 | 不成立 | 不詳 |
2004年10月31日 | 倉田定宣 | 香川県三野町長 | 成立 | 次の選挙で敗れる。 |
2004年11月21日 | 河野敏郎 | 静岡県川根町長 | 成立 | 不詳 |
2004年12月5日 | 箱山好猷 | 長野県真田町長 | 不成立 | 不詳 |
2004年12月26日 | 加藤新吉 | 青森県浪岡町長 | 成立 | 不詳 |
2005年1月30日 | 庄司忠夫 | 千葉県和田町議会議員 | 成立 | 不詳 |
2006年1月29日 | 中尾嘉伸 | 岡山県津山市長 | 成立 | 次の選挙で敗れる[2][3][4]。 |
2006年2月19日 | 小林正明 | 神奈川県城山町長 | 成立 | 次の選挙に立候補せず。 後に相模原市議会議員に立候補し当選。 |
2009年3月29日 | 岡野俊昭 | 千葉県銚子市長 | 成立 | 次の選挙で敗れる[2]。 |
2009年8月9日 | 谷育造 | 栃木県岩舟町長 | 成立 | 次の選挙に立候補せず[5]。 後に岩舟町議会議員、栃木市議会議員に立候補し当選。 |
2009年12月27日 | 小川利彦 | 千葉県本埜村長 | 成立 | 不詳 |
2010年12月5日 | 竹原信一 | 鹿児島県阿久根市長 | 成立 | 次の選挙で敗れる(2011年阿久根市長選挙)。 2015年・2019年の同市長選にも敗れる[2]。 |
2012年3月18日 | 佐藤公敏 | 静岡県川根本町長 | 不成立 | 次の選挙で敗れる。 |
2012年10月21日 | 石田寿一 | 山梨県西桂町長 | 成立 | 下記の同町議会解散請求とのダブルリコールの成立。 |
2013年2月3日 | 正木篤 | 広島県議会議員 | 成立 | 都道府県議会議員に対してリコールが成立した初の事例[6]。 |
2017年10月8日 | 相馬宏行 | 静岡県河津町長 | 成立 | 次の選挙で敗れる[7][8][9]。 |
2020年12月6日 | 新井祥子 | 群馬県草津町議会議員 | 成立 | 失職のまま[10]。 |
その他の事例
- 西尾愛治 - 鳥取県知事。1954年、長期間の海外視察が問題となり、県民からリコール運動が起き、住民投票の前に知事を辞職。出直し知事選で落選。
- 増田実 - 埼玉県幸手市長。2003年、幸手市と茨城県猿島郡五霞町との越境合併を望んだが、市民の間に県内の久喜市と鷲宮町との合併を望む声が起き、市議選でも県内合併派の議員が多数を占めた。増田は五霞町との合併に固執したため、県内の町村との合併派の市民団体からリコール運動が起き、住民投票の前に市長を辞職。出直し市長選で落選。
- 樋渡啓祐 - 佐賀県武雄市長。2008年、武雄市内の自治体病院の経営形態を巡り、市民からリコール運動が起き、住民投票の前に市長を辞職。出直し市長選で当選。
- 大山耕二 - 岐阜県中津川市長。2011年12月5日、リコールを問う住民投票が告示され[11]、25日に行われる予定だったが、22日に市長を辞任したため行われなかった[2][12]。
- 大村秀章 - 愛知県知事。2020年11月4日(一部地域では12月まで)までを期限としてリコールを問う住民投票を行うための署名が集められたが、住民投票の実施に必要な署名数を集められなかった。また、期間終了後に署名の大規模な偽造が発覚し、後にリコール団体の事務局長を含む複数の関係者が地方自治法違反で逮捕される事態に至った[13][14][15][16]。
詳細は「愛知県知事リコール署名偽造事件」を参照
- 村上孝治 - 愛知県東栄町長。2021年5月までにリコールを問う住民投票に必要な数の署名が集まったが[17]、住民投票の実施確定前の6月30日に町長を辞職したため行われなかった[18]。8月8日に出直し町長選が行われ、村上が再選した[19]。
解散請求編集
住民投票日 | 議会名 | 結果 | 備考 |
---|---|---|---|
1948年6月5日 | 石川県山代町議会 | 成立 | 町側が提訴したので解散は凍結され、任期満了まで至った。 全国初の地方議会のリコール成立。 |
1983年3月20日 | 静岡県富士宮市議会 | 成立 | 上記の植松義忠同市長とのダブルリコールの成立。 |
2002年10月6日 | 山口県熊毛町議会 | 成立 | 不詳 |
2003年10月26日 | 香川県東かがわ市議会 | 成立 | 不詳 |
2004年5月16日 | 山口県周南市議会 | 成立 | 不詳 |
2005年1月30日 | 山口県田布施町議会 | 成立 | 不詳 |
2005年1月30日 | 長崎県五島市議会 | 成立 | 不詳 |
2005年4月24日 | 徳島県吉野川市議会 | 成立 | 不詳 |
2005年8月28日 | 岡山県総社市議会 | 成立 | 不詳 |
2006年2月12日 | 茨城県城里町議会 | 成立 | 不詳 |
2006年7月2日 | 茨城県常陸太田市議会 | 成立 | 不詳 |
2006年7月2日 | 茨城県常陸大宮市議会 | 成立 | 不詳 |
2006年8月20日 | 茨城県桜川市議会 | 成立 | 不詳 |
2011年2月6日 | 愛知県名古屋市会 | 成立 | 同年3月13日に選挙が実施された(2011年名古屋市議会議員選挙)。 |
2011年2月20日 | 鹿児島県阿久根市議会 | 成立 | 不詳 |
2012年3月18日 | 静岡県川根本町議会 | 不成立 | 不詳 |
2012年10月21日 | 山梨県西桂町議会 | 成立 | 上記の石田寿一同町長とのダブルリコールの成立。 |
地方自治法以外のリコール制度編集
地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地方教育行政法)第8条や漁業法第99条などに制度がある。
- 海区漁業調整委員会公選委員の解職
- 海区漁業調整委員会公選委員の有権者の3分の1以上の署名を集めると、都道府県選挙管理委員会に請求できる(漁業法第99条第1項)。
- 請求が有効であれば、請求から60日以内に、その委員の選挙区(選挙区が無い場合は地方自治体全域)において住民投票が行われる(漁業法施行令第22条・地方自治法施行令第100条の2第1項)。解職投票の告示は、少なくとも投票日の30日前にしなければならない(漁業法施行令第22条・地方自治法施行令第100条の2第2項)。
- 解職投票において有効投票総数の過半数が賛成すれば、その委員は失職する(漁業法第99条第4項)。ただし、その委員が投票前に職を失い又は死亡した場合は投票を行わない(漁業法施行令第22条・地方自治法施行令第112条)。
- 選挙から6ヶ月間(無投票当選を除く)又は解職投票日から6ヶ月間は解職請求をすることができない(漁業法施行令第19条)。
- 旧農業委員会公選委員の解任
- 2016年3月31日までは農業委員会公選委員選挙の有権者の2分の1以上の同意を得て、選挙された農業委員会の委員の解任を市町村の選挙管理委員会に請求ができた(旧農業委員会法第14条第1項)。
- 請求が有効であれば、農業委員会公選委員は解任された(旧農業委員会法第14条第2項・第3項)。
- 選挙から6ヶ月間(無投票当選を除く)は解任請求をすることができなかった(旧農業委員会法第14条第4項)。
脚注編集
注釈編集
出典編集
- ^ 都民の権利と義務東京都議会
- ^ a b c d e f g 平野 淳一 (2019). “現職市長の任期途中の辞職・失職”. 甲南法学 第59巻第1・2号: 47 - 85.
- ^ “「アルネ再建手法に間違いなし」 中尾嘉伸・前津山市長に聞く” (日本語). VISION OKAYAMA. 2021年8月6日閲覧。
- ^ “津山市長に桑山氏初当選/解職の前市長敗れる”. 四国新聞社. 2021年8月6日閲覧。
- ^ “合併推進派の茂呂氏初当選 リコールの栃木・岩舟町長選”. 47 NEWS. 2013年6月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月4日閲覧。
- ^ “広島県議、初のリコール成立…無免許運転で有罪”. 読売新聞. (2013年2月3日) 2013年2月3日閲覧。
- ^ “静岡県河津町長のリコール成立 複合施設建設めぐり”. 産経新聞 (2017年10月8日). 2017年10月8日閲覧。
- ^ “岸重宏氏が同日より河津町長に就任しました”. 河津町 (2017年11月26日). 2017年11月27日閲覧。
- ^ “河津町長選挙開票結果について (PDF)”. 河津町 (2017年11月27日). 2017年11月27日閲覧。
- ^ “性被害訴えた草津町議が失職 住民投票、賛成が上回る”. 朝日新聞. (2020年12月6日) 2020年12月8日閲覧。
- ^ “行われない見通しの住民投票告示 中津川市”. 日テレNEWS24. (2011年12月5日) 2013年7月24日閲覧。
- ^ “リコール投票前、辞職へ 岐阜・中津川市長「選挙で信問う」” (日本語). 日本経済新聞 (2011年11月27日). 2021年8月6日閲覧。
- ^ “14選管で署名の8割超が不正か 愛知知事リコール運動で”. 共同通信. (2020年12月28日) 2021年1月30日閲覧。
- ^ “リコール署名の8割超に問題 愛知知事巡り、46選管分途中集計”. 中日新聞. (2021年1月12日) 2021年1月30日閲覧。
- ^ “リコール署名83%不正疑い 愛知知事巡り選管調査結果”. 共同通信. (2021年2月1日) 2021年2月1日閲覧。
- ^ “愛知知事リコール 署名偽造の疑いで田中孝博事務局長を逮捕”. 毎日新聞. (2021年5月19日) 2021年5月30日閲覧。
- ^ “愛知・東栄町リコール署名 法定数達し住民投票へ 住民団体が喜びの会見”. 中日新聞 (2021年10月23日). 2021年5月26日閲覧。
- ^ “愛知・東栄町長辞職に議会同意 出直し選へ 住民投票見送り”. 毎日新聞 (2021年6月25日). 2021年10月23日閲覧。
- ^ “透析中止からリコール 過疎の町の出直し町長選が投開票”. 毎日新聞 (2021年8月8日). 2021年10月23日閲覧。
関連項目編集
外部リンク編集
- 市町村合併に関する全国首長解職請求例 - ウェイバックマシン(2006年4月6日アーカイブ分) ―真田町の民主主義を守る会