鬼畜系

鬼畜系(きちくけい)とは悪趣味にまつわるサブカルチャーの一ジャンルで、1990年代悪趣味ブームにおいて鬼畜ライター村崎百郎によって提唱された造語である。現在では成人向け漫画などにおける反社会的行為、ないし残酷描写が含まれる作品、またその作家を指す言葉として用いられている。

目次

概要編集

ポルノグラフィに於ける鬼畜系編集

成人向け漫画アダルトゲームなどのポルノにおいて、SM緊縛強姦屍姦獣姦カニバリズムスカトロ触手責め拡張プレイ異物挿入焼印孕ませ蟲責め四肢切断など強制的な性行為を強調した作品は「鬼畜系」(または陵辱系)と呼ばれており、これは度が過ぎるサディストを指した用語でもある。それに対して恋愛や合意の上での性行為を重視した作品を「純愛系」と呼ぶことがある[1]。いずれもオタク系の媒体で用いられることの多い表現であり、評論家の本田透は「鬼畜系」の作品群を「萌え」とは対極に位置するものとして区別して扱っている[2]

また、成人向け漫画の世界で自分の世界を築き上げる作家も多く、もちろん、性的描写を避けては描けない世界というものでもある。また一つには性的描写が必須であることを除けば、それ以外の表現はむしろ一般の雑誌より制約の少ない舞台であり、その自由度の高さから作家独自の嗜好によって特異ともいえる表現が追及され、一般誌では掲載不可能な作風を実現する作家も存在する。

サブカルチャーに於ける鬼畜系編集

 
1990年代の悪趣味ブームを象徴する鬼畜系ムック

本来の意味での「鬼畜系」という表現はポルノ以外のサブカルチャーシーンで使用されており、1990年代の鬼畜ブーム・悪趣味ブームにおいて、不道徳な文脈で裏社会やタブーを覗き見ようとするサブカルアングラ文化が「鬼畜系」(または悪趣味系)と称されていた[3]

ブームの背景には1995年1月に発生した阪神淡路大震災や同年3月地下鉄サリン事件、またそれらに起因する一連の社会現象が深く関わっているとされ[4]、特に1995年は「インターネット元年」[5]と呼ばれるように社会環境が大きく移り変わっていった激動の年でもある[4]

宮沢章夫はこれらの事象による社会の混乱や不安定な情勢が「悪趣味系」と呼ばれる、ある種の世紀末的世界観を醸し出しているサブカルチャーの土壌になったことを指摘している[4][6]。また宮沢は自身が講師を務めるNHK教育テレビ教養番組ニッポン戦後サブカルチャー史』において1995年を「サブカル」のターニングポイントと定義し、根本敬村崎百郎をはじめとする90年代の鬼畜系サブカルチャーを取り上げている[4]

ブームの嚆矢となった芸術総合誌『ユリイカ1995年4月臨時増刊号「総特集=悪趣味大全」では文学映画アートファッションなどあらゆるカルチャーにキッチュで俗悪な「悪趣味」という文化潮流が存在することが提示された。これを境に露悪趣味(バッド・テイスト)を全面に押し出した雑誌ムックが相次いで創刊され一大ブームとなる。

このブームを代表する1995年7月創刊の鬼畜系ムック危ない1号』(東京公司/データハウス)では「妄想にタブーなし」を謳い文句に「鬼畜系」を標榜し、ドラッグロリコンスカトロフリークスから変態畸形屍体強姦電波盗聴テクノ精神疾患動物虐待ゴミ漁りまであらゆる悪趣味を全頁にわたり特集した。鬼畜・変態・悪趣味が詰め込まれた本誌はシリーズ累計で25万部を超えるヒットとなり、編集長の青山正明は鬼畜ブームの立役者となった[3][7]

鬼畜ライター村崎百郎は「すかしきった日本の文化を下品のどん底に叩き堕とす」ために1995年より「鬼畜系」を名乗り、この世の腐敗に加速をかけるべく「卑怯&卑劣」をモットーに「日本一ゲスで下品なライター活動をはじめる」と宣言[8]。著書『鬼畜のススメ』(データハウス)では“鬼畜的生き方の入門書”として村崎がゴミ集積場から持ち帰った様々なゴミを漁って他人のプライバシーを暴き出す「ダスト・ハンティング」をはじめ様々な鬼畜活動が綴られている。その後も村崎は「鬼畜系」や「電波系」の寄稿を行った末、そのような表現に引きつけられた読者により2010年に殺害された[注 1][9][10]

鬼畜系漫画家編集

主に鬼畜系の漫画を執筆している漫画家を生年順に挙げる(太字は特に重要な作家を指す)。

1940年代生

1950年代生

1960年代生

1970年代生

1980年代生

1990年代生

生年不詳

鬼畜系ライター編集

関連雑誌編集

休廃刊編集

刊行中編集

関連項目編集

参考文献編集

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ 2010年7月23日、読者を名乗る32歳の男性に東京都練馬区羽沢の自宅で刺殺された。当初容疑者は根本敬を殺害する予定であったが、根本が不在だったため『電波系』(太田出版)の共同執筆者であった村崎の自宅に向かったという。犯人は精神鑑定の結果、統合失調症と診断され不起訴となり、精神病院に措置入院となった。
  2. ^ 高杉弾編集の伝説的自販機本Jam』『HEAVEN』で執筆活動を行っていたほか、スーパー変態マガジン『Billy』(白夜書房)1982年3月号では山崎春美によるメディア初インタビューに応じている。
  3. ^ 丸尾末広と並ぶ「耽美系」「猟奇系」の作家であり、ベースとなるテーマが人間の「」である作品が多い。
  4. ^ レトロなタッチに過激・幻想・怪奇・グロテスクな描写を交えた猟奇的な作風を特徴としている。
  5. ^ 鬼畜系ライターの村崎百郎が原作を担当し、森園が作画を担当した漫画作品が多数ある。
  6. ^ ガロ』出身の特殊漫画家日本オルタナティブ・コミックの作家の中でも最も過激な作風の漫画家で「因果者」「イイ顔」「電波系」「ゴミ屋敷」「特殊漫画」などのキーワードを作り出し、悪趣味系サブカルチャーへ与えた影響は大きい。
  7. ^ 貧困差別電波畸形障害者などを題材にした作風を得意とする漫画家で、不幸の無間地獄を滑稽なタッチで入念に描いた作風が特徴。また山野の妻で漫画家のねこぢるが自身の私生活を題材にしたエッセイ『ぢるぢる日記』には「鬼畜系マンガ家」である「旦那」が登場している。
  8. ^ 少女を主人公とした、厭世観・無常観・失望感の漂う空虚でリアリズムな作風の成人向け漫画が多い。
  9. ^ エログロナンセンスシュール不条理ブラックユーモアなどを得意とする奇想漫画家で、海外での評価も高い。
  10. ^ 猟奇漫画家を自称しており、性表現のみならず四肢切断やカニバリズムなど猟奇的な題材を主眼とした暴力性・加虐性にあふれたスプラッターな作風で知られる。
  11. ^ 広告媒体では「陵辱の帝王」と冠されるほど、作品の内容は女性への陵辱のみに徹しており、年齢層を問わずあらゆる女性が社会復帰不可能なほど精神的肉体的に破壊・陵辱される話が多い。
  12. ^ 孤児の少女が引き取られた親戚の伯父に性的虐待を受けるという漫画『コロちゃん』がネット上で話題となり、作中に登場する台詞「家族が増えるよ!!」「やったねたえちゃん!」はインターネットスラングとして定着するなど作品の代名詞となった。
  13. ^ 異物挿入などハードなSMプレイの描写が多いが、非現実的な領域まで達してしまっている物がほとんどであり、ファンタジーもしくはギャグとも称される。
  14. ^ 1980年代のエロ劇画界においてロリコン趣味や猟奇殺人などのタブーを、私小説の様に文学的な独白調かつ端正な劇画タッチで描き、残虐かつ救いの無いストーリーを圧倒的な画力と迫力を持って描き出した。1989年頃から徐々に寡作になり、10年以上休筆していたが、大西祥平による再評価や復刻本刊行等によって、2000年に再デビューを果たす。以降「伝説の猟奇エロ漫画家」として再評価が進んでいる。

出典編集

  1. ^ 高橋直樹『エロ萌え☆テクニック~はぁはぁテキストのお作法~』双葉社 2011年 37頁。
  2. ^ 本田透『萌える男』ちくま文庫 2005年 158頁。
  3. ^ a b 吉永嘉明『自殺されちゃった僕』(幻冬舎アウトロー文庫)第3章「青山正明の思い出」の中「『危ない1号』の創刊」より。
  4. ^ a b c d ニッポン戦後サブカルチャー史Ⅲ90'sリミックス 第4回(最終回) サブカルチャーが迎えた「世紀末」 - NHK公式サイト
  5. ^ マイクロソフトは1995年にWindows 95日本語版を発売。同年の新語・流行語大賞のトップテンには「インターネット」が選出されている。
  6. ^ 遊園地再生事業団と主宰・宮沢章夫のサイト
  7. ^ 扶桑社SPA!』1996年12月11日号/対談 青山正明×村崎百郎「鬼畜カルチャーの仕掛け人が語る欲望の行方」
  8. ^ 村崎百郎『鬼畜のススメ 世の中を下品のどん底に叩き堕とせ!! みんなで楽しいゴミ漁り』データハウス 1996年 著者略歴
  9. ^ 週刊新潮』2010年8月5日号「包丁男に48ヶ所滅多刺しにされた“鬼畜作家”村崎百郎」134-135頁。
  10. ^ 町山智浩ホームページ 2010年12月4日/根本敬 『人生解毒波止場』 幻冬舎文庫 2010年 286-288頁。
  11. ^ しずかちゃんが黒ベエに犯され喰われる──真のパロディ作家:エル・ボンテージの底知れぬヒロイン愛”. 昼間たかし. おたぽる (2016年1月6日). 2017年6月29日閲覧。
  12. ^ “「麻薬組織取材で勧められ」 写真家、覚醒剤所持の疑い”. 朝日新聞DIGITAL. (2017年8月3日). http://www.asahi.com/articles/ASK834DJHK83UTIL017.html 2017年9月11日閲覧。 
  13. ^ 刊行後すぐ発禁となり改訂を余儀なくされた。
  14. ^ 【日本のアダルトパーソン列伝】「変態」を追究した編集者にしてジャーナリスト・梅原北明”. 橋本玉泉. メンズサイゾー (2011年9月30日). 2017年9月11日閲覧。
  15. ^ 四国新聞 2001年7月14日号「ホームレス差別で新刊回収/データハウス社、絶版に」
  16. ^ 史上最大の問題作『女犯』 弄ばれていたのは男優だった”. 本橋信宏. NEWSポストセブン (2016年8月24日). 2017年9月11日閲覧。
  17. ^ 叢書エログロナンセンス 第Ⅰ期 グロテスク 全10巻+補巻 - ゆまに書房
  18. ^ 『スペクテイター』39号「パンクマガジン『Jam』の神話」幻冬舎2017年6月
  19. ^ 幻の自販機本『HEAVEN』にUGルーツを追え!”. Cannabis C4. BLUEBOX (2001年11月18日). 2017年6月17日閲覧。
  20. ^ 青山正明は『別冊宝島345 雑誌狂時代!』(宝島社 1997年)掲載の永山薫との対談記事の中で「面白かった時代っていうと、やっぱり『ジャム』『ヘヴン』の頃。要するに、エロとグロと神秘思想と薬物、そういうものが全部ごちゃ混ぜになってるような感じでね。大学生の頃にそこらへんに触れて、ちょうど『ヘヴン』の最終号が出たくらいのときに、『突然変異』の1号目を作ったんです」と語っている。
  21. ^ 吉永嘉明『自殺されちゃった僕』(幻冬舎アウトロー文庫)第3章「青山正明の思い出」の中「幻のキャンパス・マガジン」より。
  22. ^ 天災編集者!青山正明の世界 第30回「ロリコンにおける青山正明(2)」
  23. ^ 『宝島30』1994年9月号(宝島社)青山正明×志水一夫×斉田石也「受験と女権とロリータ文化」138-145頁。
  24. ^ 『宝島30』1994年9月号(宝島社)青山正明「ロリータをめぐる冒険」167頁。
  25. ^ 天災編集者!青山正明の世界 第11回
  26. ^ BLACK BOX:鬼畜 =ビリー=
  27. ^ 天災編集者!青山正明の世界 第37回「変態雑誌ビリーにおける青山正明」
  28. ^ 天災編集者!青山正明の世界 第83回「こじままさきインタビュー」part2
  29. ^ 町山智浩ホームページ内 2010年12月04日付/根本敬『人生解毒波止場』幻冬舎文庫2010年、pp.286-288
  30. ^ ドクタークラレのWebサイトより。
  31. ^ “東海村爆発物事件 爆発物マニュアル本 県内の書店で撤去の動き=群馬”. 読売新聞 朝刊 (東京): pp. 35. (2000年1月15日) 
  32. ^ アンソロジー『激しくて変』シリーズ

外部リンク編集